漫画の道具

私(山本貴嗣)が執筆に使う道具についてのページです
上に行くほど新しい記事です
(最終更新・2007年1月31日)


その2 弘法筆を選ぶ  2007・01・31

 昔から言われる慣用句
 「弘法筆を選ばず」は実は間違いで、弘法大師はTPOに応じて筆を選ばれたということですが・・・

 昨日もそれを痛感することがありました。
 仕事で彩色するのにアナログパートは当然市販の筆を使うんですが

 近所のマーケットの文具売り場で買ってきた安い100〜200円?くらいの筆を試しに使ってみました。

 しばし塗ってみたんですが
 とにかく筆先にコシがない。
 一瞬自分の体が不自由になったか、体調が悪いのかと思いました。
 とにかく塗っているとどんどんストレスが貯まってきて、描くのが嫌になってきます。

 すぐに打ち捨てて、画材屋で買った数百円の筆に変えました。

 そうそうこれこれ。
 この描き味だよなー♪

 つくづく筆は選ばないと、と言うか、仕事に当たって道具は選ばないといけませんね。


 無論、達人は粗末な道具でも凡人をはるかに凌駕する作業ができます。
 武術家はエンピツ一本でも刀を持った素人を何人も倒せますが、それはあくまでほかに道具がない場合のことであって
 本来は、きちんとTPOに合わせた道具を選ぶし、またそれだけの眼力を持っているものです。

 じゃおめーなんでそんな安物の筆使ったの?
 と突っ込まれそうですが

 ごくごくまれに
 安いけど思わぬ掘り出し物、良心的な仕事をしてある製品にお目にかかることもあるんですよね。
 知り合いの漫画家さんで、100円ショップの消しゴムを愛用してる方もおいででした。

 だもんで、もしや?
 と思って買ってみたんですが
 所詮ただの安物でした。
 実はその一つ前のバージョンは安いけどいい筆だったんです。でもいつの間にか廃盤になってしまい、今のつまらぬ粗悪品に変わってしまいました。


 思うに、プロの私でもこうなんですから、まだ手が慣れてない子どもの図画工作に、こんな筆を買い与えたら、少し芽のある子どもでも描くのが嫌になるんじゃないでしょうか。

 私の昔からの信念の一つに
 未熟なシロウトこそ、むしろ道具はいいものを選んだ方がいい、というのがあります。
 少なくとも、最低な道具ではなく、ちょっと手間隙お金をかけた、いい品を使った方がいいということです。

 それを最初に痛感したのは、プロになりたてのころ、いつもと違う質の良い紙で描いたときでした。
 その紙に変えたとたん、それまででは引けなかった綺麗な線が引けたのです。
 あっオレってこういう技術があったんだ!
 それはとってもうれしい驚きでした。

 それは急に自分の技術が上がったのではなくて、自分の中の埋もれていた技術を道具が引き出してくれたんですね。


 だからと言って、バイオリンを習いたての子どもにいきなりストラディバリを買い与えたり、若葉マークのドライバーに高級スポーツカーを買い与えろというのではありません(それは宝の持ち腐れです)。

 でも、どうせ子どもの使うもんだから、とか、どうせへたっぴなんだから、と、適当な安物ですませるのは、間違った選択だと思うのでした。




しかし、いくら安いとはいえ
 プロでも使いこなせない粗悪な筆を
 どういうつもりで売るのやら・・・

 なんだか「絵画」への冒涜のような気さえします;

追記
 私は昔ぺんてるえふで・ネオセーブルってのが安くて使いやすくて好きだったんですが、なくなっちゃって、最近は色んなメーカーのを使ってます。いまだに決定打はないです。
 NAMURAというのはけっこう好みですー♪


その1 雲型定規 2004・12・26 (2011・11・03一部改訂)

 漫画家が曲線を描く時に使う定規が「雲型定規」。
 で、私が愛用しているのがこれ。

ユニカーブ定規

 株式会社・内田洋行という所で販売している「ユニカーブ」という定規。
 いや正確には私が何年も前に買った時はそうでした。
 最近この内の一枚を紛失、いくら探しても出てこない。仕方なく、近所の画材屋や、打ち合わせで横浜に出たときに駅周辺の画材屋を回ったけれど見つからない。ちなみに最初にこれを買ったのは十年以上前、御茶ノ水の画材屋レモンだったように思います。

 実はある時、どうにも見当たらないのに諦めて、いわゆる「良くある雲型定規」を久々に買ってみたのですが、全然だめ。こいつの代用になるシロモノではありませんでした。
 しばらく我慢していたが、ついに先日業を煮やし、近所の画材屋に昔買ったユニカーブのケース(このページの写真のモノは最新版。昔は緑色の不透明なケースに入っていた)を持参、これと同じものを今でも取り寄せ可能かどうか調べていただけませんかと依頼。
 果たして数日後、OKの連絡をいただいて無事ゲットしたのがこのページの写真です。たぶんこいつはわが家に来たユニカーブとしては三代目。
 今でも内田洋行という会社で作っているのか、この最新版ケースには会社名が入っておらず定かでありません(見ての通り「ユニカーブ定規 アクリル製 2mm厚 5枚組 (NC加工品)」としか記されていません)。が、内容は以前と同じ、使い心地のいい製品に変わりなし♪
 定価は三千数百円。
 ネット販売などでは二千円台のお店もあるようです(取り寄せた後で発見しました)。
 どういうところに使うかと言うと、こういうところに使います。

『弾(アモウ)』#37より・車

 拙作『弾(アモウ)』の一コマですが、車は微妙な曲線の複合体であり、もっとも描きにくい物体の一つです。
 このカットもフリーハンドの線と定規を使った線との混合で描いていますが、窓枠のような並行する二つの曲線で構成されるパーツなどには、このユニカーブが威力を発揮します。フロントグラスのラインはユニカーブで描きました。
 漫画家を志される方や、この種のイラストを描かれる方で、どうも気に入った雲型定規とめぐり合えないとお嘆きの方。お気が向かれましたら一度この「ユニカーブ」お試しになられてはいかがでしょうか。
 私としては1978年のデビュー以来、現在まで、もっとも使い心地のいい曲線定規なのです。

補足
 この定規を使う際は、ペン画などの際にはインクがずれないように、表にも裏にもなんらかのスペーサー(?)が必要になります。
 私は両面に数個の一円玉をセロテープで貼り付けて使っています。

ユニカーブ補足2  発売元の変更(2004年12月27日現在)その他

 その後、BBSにおいでいただいたお客様よりの情報で、内田洋行は設計・製図用品の部門を株式会社マービーに移行したことが判明。で、そちらのサイトに行ってみるとユニカーブがない!!
 で検索エンジンで調べてみると、今は「有限会社・井上製作所」というところで出しているようです。サイトを覗くと価格は「オープン価格」になっています。
 あー、この世からユニカーブがなくなってなくて良かった;
 もし絶版なら、あと一生の残りで使う分探して買いあさろうかと思ったとこでした。

 BBSにコメントくださったほかの漫画家さん(やはりユニカーブの愛好者)の言で、ユニカーブは線と線のつながり具合が良くて、ほかの雲型では味わえない感触、というのがありました。まったく同感!