漫画を描くのに資料は貴重だが、中でも人間の資料は特別である。
具体的にデッサンの対象としてのそれも貴重だが、性格、人となりのおもしろさもまた貴重である。ここではそんな貴重な愛すべき方々、山本漫画のモデルについていくつか述べたい。
その1 タフな乙女 (2002 09 30)
山本貴嗣の漫画にタフな乙女はつきものである。
と言うか多くの作品はほとんどそれのみで成り立っている。
これは拙著『弾(アモウ)』の単行本二巻後書きで書いたが、未読の方もおられると思い、加筆してここに記す。
某女性編集者(仮にT女史とする)。
歳は私より若いがそう離れてもいないので今では乙女というにはちとはばかりがあるが(いやそれ以前に既婚だが)なかなかのナイスバディでタフなのである。
山本がそういうヒロインを描き始めたのははるか子供の頃なので、けしてこの人がモデルと言うわけではないのだが、少なくともアモウの参考にはさせていただいている。どこをと言うとプロポーションが良くてスポーツウーマンでタフなところ。
まずサイズから行くと
身長165cm。
上から95−67−98。Bのアンダーが73くらいだったか。
少なくとも30代の半ばまでは上記のサイズであったようだ(アモウはもっと巨乳、他の部分もデフォルメされてはいるけれど)。
脚のラインがとにかく綺麗で知り合いの関西在住の某漫画家などは、ハイヒール、ストッキング姿のT女子のおみ足を大量に資料写真に撮らせてもらったらしい。実に許しがたい、いや、うまらやしい話である。
しかしT女史の真骨頂はサイズではない。
比類なきタフさである。
それも生まれついてのタフさであった。
幼い頃入院して手術を受け、本当なら身動きもできないところ、自分で寝返りを打ってベッドから転落。蒼くなって母親が担当医師を呼んだところ
「こんな体力のあるお子さん、絶対大丈夫です」
と医者が笑い出したとか。
その後も勝手に病室を脱走、好きな漫画の連載されてる雑誌目当てに匍匐全身で病院内の売店を目指してるところを捕獲された。
最近でも腸の手術で
「大きく一箇所切るのと小さく二箇所切るのとどっちがいいですか」
と医者に言われ、小さく二箇所にしてもらい、仕事があるからとその日のうちに一人で点滴引きずって帰宅してしまった(近年合衆国では保険の関係とかで日帰り手術も増えているようだが)。
医者が言うにはどうも大男のプロレスラー並の体力らしく、麻酔薬への耐性も並外れていて、前記の腸の手術の最中も
「先生ー、麻酔切れてきたんですけどー」
と本人が言い出し、医者が
「何言ってるんだね、これだけの量入れてるんだから、気のせいだよ」
「だって先生、今あたしのお腹のこの辺りをこうしてらっしゃるんじゃないですか」
「わあ!本当に切れてるー!!」
医者が仰天したという。
マジで珍しい例だったらしく、回復後改めて病院に招かれ、貴重なデータとしていならぶ医師たちの前で色々と質疑応答があったそうだ。
何年か前、足の負傷の手当てでは、大の男でも泣き出すようなところ
「はは先生痛いっすー♪」
などと軽めの応対をして
「きみ本当に我慢強いねー」
と医者に呆れられた。痛みに関しての耐性もはんぱじゃないのだ。
私もタフなヒロインは数描いてきたが、人間でこれほどタフなのは描いたことがない(コメディは別として)。現実が想像を上回っている。てえか下手に描くと
「こんなタフな女はいねえよ」
って筆者が叩かれそうな人なのだ。
ついでに言うと、握力は若い頃は80sと60sだったそうである。
けしてゴリラやレスラーみたいな体型ではない、普通の乙女の体型である。唯一骨格がやや日本人離れしていて肋骨などが立体的なため、ブラジャーとかが国産で探すのが大変なようだ(最近は日本人女性も発達してきたので少しは違うのかもしれないが)。
このこと公表していい?とご本人にきくと、本名出してもいいと言われた。
そりゃさすがにマズイっしょ。ストーカーとか出たら困るしと言うと
「いいもーん、もう体型変わっちゃってるから、ははは」
あっけらかんとしたものである。
でも本名は伏せます。
ちなみにお顔は丸顔ですがアモウとは別人です。
麻酔に対して耐性があるのは『Mr.ボーイ』の方で参考にさせていただきました。
せっかくなので10年以上前、某出版社のパーティー二次会でのエナメルドレス姿のスケッチ(本人の了解を得てしたもの)を公開します(『弾(アモウ』二巻に収録したものと同じ)。
→T女史(30代初め頃か)