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その2 虚仮の一念 2003 03 09
30年以上も昔の話である。
ある有名な漫画家M先生の所にどうにも下手糞なアシスタントがいた。
あまりに使えないんでM先生はクビにしたのだが、そのアシスタントが剛の者で、自分はどうあっても漫画家になるんだと言って机にしがみついて出て行かない。
あまりしぶといのでとうとうキレたM先生、他のアシスタントに命じてその男をしがみついた机ごと仕事場の外に放り出してしまった。
私の知り合いが10年くらい昔、インタビューの際M先生本人から聞いた話である。
「その後そのアシスタントはどうなったんですか」
知り合いは尋ねた。
「それが漫画家になったんだよ。あれくらい才能がなくてもあれくらい根性があるとプロになるもんだねえ(笑)」
その問題のアシスタントだった人、私も知っている漫画家である。小学校の頃大ファンだった(どちらの先生も)。
しがみついてクビを拒否するアシスタントも凄いが机ごと放り出す先生も凄い。
で、どちらも今でも漫画家現役ってとこも凄い。
こういう例は、長い日本漫画史の中でも稀な例ではあるまいか。
その1 不幸な出会い 2002 11 12
何年も前の話になる。ある漫画家(仮にU先生としよう)がアシスタント不足で、臨時のスタッフを雇った。
漫画家と言っても漫画が本職の作家さんではなく、アニメ関係が本業で漫画は一時的な副業であった。
「どなたかアシスタントしてくださる方いらっしゃいませんかね」
と編集さんに頼んだら、一人スタッフを手配してくれた。
「これまでも漫画家のアシスタントをやってた人です」
経験者とはラッキーだ。と喜んだのもつかの間、やってきた男が全然使えない。
何を描かせてもうまく描けない。
たまりかねたU先生、説教めいた話にはなるが・・・と思いつつ、そのアシさんに、
「あなたも漫画家を目指してらっしゃるんでしたら・・・」
と、そのために必要な技術や心構えについて、いささか教え諭すことになった。
沈痛な面持ちで聞いていた、かどうかは知らないが、その臨時アシさん、思うところがあったらしい。
一晩寝てU先生が起きてみると姿が見えない。
机を見ると置手紙。
「自分はとうてい漫画家になどなれない事がよくわかりました」
田舎に帰ってしまったという。
仰天したU先生、あわてて担当さんに電話した。
「き、きのうのアシさんって、アシスタントやってた人なんですよね」
「ええ○●○○○先生の」
U先生は驚いた。
さて、何に驚いたか伏字では全然意味が通じませんね。
○●先生というのは有名なナンセンスギャグの方。言ってみれば元祖ヘタウマみたいな人で、はっきり言ってシロウト目には小学生のラクガキみたいな絵の人(シロウト目にはですね)。背景なんてないも同然。アシスタントの仕事というと・・・私には枠線とベタ・ホワイト・消しゴム以外想像もつかないタイプの漫画家である。
一方U先生と言えば、アニメ界でも有名な達人。
その画力たるや、私などとうていかなわない。仮にアシスタントを依頼されたら
「ご期待に添えない部分も多々ありますが、それでもよろしければ・・・」
と了解を取ってからでないと、とても行く気がしないような、そういう作家さんである(ご想像におまかせします)。
そんな人のところに、背景すら存在しないような漫画家のアシさんを
「アシスタント経験者です」
と言って派遣した担当さんも担当さんである。
「なんでそんな人よこしたんですか」
マジメなU先生、気の毒な事をしたとしばらく落ち込んでしまったそうだ。
実に不幸な出会いである。どちらが悪いとか言う話ではなく、しいて言うなら担当さんのミスである。
先生とスタッフの実力差が開きすぎると、それは不幸な出会いになる。
別の作家さんの所でいい実例がある。それについてはまた後日。