オゾーン・マゾーン・ガチョーン

「園部オゾン発生機」パンフレットで82万3千6百おまけ


 月に一度の「兵器生活」更新!
 毎月新しい記事を載せるため、毎月新しいネタ―雑誌記事・書籍・紙屑その他―を、手にせねばならぬ。戦前・戦中の世情・人心を伺う―建前だったのだ―なら、文章(書籍・新聞/雑誌記事)を発掘・紹介するのが王道。しかし読解に手はかかる、文章を引くのも手間、そのくせ導かれる結論は主筆のセンスが悪いから大したモノにならぬ。ウケない。その点、商品カタログ・パンフレットは一点で記事ひとつ仕立てられる。結論なんぞ無くてもかまわない。実に重宝、麻薬みたいなモノなのだ。ウケないのは同じだけど。

 今回ご紹介するのは、


園部オゾン発生機

 園部製作所謹製、「園部オゾン発生機」。
 「日本政府専売特許」と記された商品名の背景は、怪奇映画よろしく屋敷か工場か何かの上空を、稲妻が走り回る物騒なモノ。
 物騒な画は見る人の興味を惹く(ので、コレを買ってしまった)が、商品への不安も高めてしまう。そこで、


(右から読んで下さい)
 帝国海軍、国立工業試験場が「御採用」、内務省衛生試験所、大阪市衛生居試験所の「御証明」、そして何人いるのかパッと目には判らぬ「各博士」の「御推奨」と、各方面からのお墨付きを掲げている。

 「オゾン発生機」とは何ぞや?
 「オゾン」―酸素原子が3つ結合したもの(2つ結合した状態が酸素分子、普通に云う『酸素』)―を発生させる機械なのは記すまでも無い。太陽からの紫外線を弱める「オゾン層」を構成する気体、くらいの知識はある。ネット検索すれば、今でも家庭用らしき機械が売られていることがわかる。もう少し調べを進めて行くと、興味深い事も知れてくるのだが、これから紹介するパンフレットの文章が死んでしまうので、今は書かない。

 新奇な機械の売り込みである。書き方次第で読者の買う気が変わる。説明文は細心の注意を払い記されるのだが、現在とは人・世の中の知識・教養が違うため、文章の内容・表現が微妙に異なる。そこが面白く感じるトコロなのだ。
 例によってタテのものをヨコにして、仮名遣いなど調整している。

ねてもさめても
 絶間なく呼吸する空気― 一人一日六十石以上も要る空気の良否が健康に及ぼす影響の大きさは云うまでもありません。この大切な空気は、呼吸、排泄、燃焼、腐敗など、人為及び自然の作用で間断なく汚濁せられて、有害な瓦斯(ガス)、悪臭、無数の黴菌(ばいきん)などが常に吾人の健康を脅かして居るのであります。

 空気は常に汚されている。自然までも人の健康を脅かしている。換気すれば良いぢゃん、と思うし、通俗建築・健康読み物にも換気の重要性は記されているのだけど、それでは商品は売れない。汚濁する空気は清められねばならぬ。「オゾン」の出番だ。商品は「オゾン」なのだが以下の説明では「オゾーン」表記である。そんなトコロも楽しい。


一、オゾーンの作用
 オゾーンは一名活性酸素と称し、空気を清浄し、黴菌を撲滅し、これを吸入すれば新陳代謝を盛んにして、著しく組織の営養と抵抗力を昂(たか)め、病患を未発に防ぎ、旺盛な精力、強健な体力を作る働きがあります。雷雨の後爽快を感ずるのは空中電気の作用に依って発生したオゾーンが、比較的多量に大気中に含まれて居る故であります。

 ウィキペディアでは「有毒な気体」、「高糖度では猛毒」とまで記されている。そこをうまく使って「殺菌・脱臭」「医療」「漂泊」などに活用していると記されているが、パンフの記述では「吸えば健康になる魔法の気体」としか読み取れない。
 雷雨の後を「爽快」と語る感性も興味深い。


一、唯一の国産優秀品
 人工に依り安価に多量のオゾーンを作るには電力に依るオゾーン発生機を措いて他に方法はありません オゾーン発生機は現今欧米諸国に於て都市の上水道の殺菌から工場、倉庫、劇場、病院、ホテル、学校等の衛生設備、一般家庭の保健治療用に至るまで普及せられ シーメンス会社 GE電気会社 USオゾーン会社その他各国の大会社がその製造に従事して居ります。米国の医師はオゾーン発生機の有る家庭には氷嚢と吸入器は不用だと申しました。
 園部オゾーン発生機は我が国に於ける実用製作の嚆矢で発売以来十一年、全国官衙、銀行、会社及び多くの家庭に御愛用を辱(かたじけな)くし低廉、優秀、堅牢(永久の使用に耐う)その真価すでに定評ある唯一の国産優秀品であります。

 文明は西欧から、舶来品は偉大の姿勢がまだ残っている。シーメンス、GEの名は今も目にするが、「園部製作所」は、主筆の拙いネット検索術では見つけられなかった。さらに云うと、このパンフが何時発行されたのかすら解っていない(汗)。商品名のロゴの感じは、大正末から昭和初めの印象があり、発売以来11年とあるから、昭和ヒトケタと推測している。
 「永久の使用に耐う」。保守部品枯渇でモウ直せません、お買い換えをと悪びれず云う連中は爪の垢をオゾン消毒して飲めと云いたい。


一、根本的自然療法
 オゾーン療法は諸大家の推奨せらるる通り自然療法の最も有力なもので、あらゆる病患に対し根本的基礎的の効果を与え、特に小児に対しては発育、予防、治療上最も適切であります。直接効果のある病症は左の通りであります。
 感冒、流行性感冒、マラリアチブスペスト、天然痘、其他各種伝染病
 肺炎、肋膜炎、扁桃腺炎、其他熱性諸症。
 結核気管支及呼吸器疾患、
 喘息、咳嗽、喀痰、百日咳、鼻閉塞、蓄膿症、呼吸困難。
 不眠 貧血、食欲不進、神経痛、皮膚病。

 「流行性感冒」―インフルエンザ―から皮膚病まで効くとある。コロナ騒動当時、オゾンが効く・効かないの議論を目にした記憶は無いのだが、書かれた効能を読んでいると、役に立ったんぢゃあないの? と思えて来る(現行の商品には消毒の効果を謳うモノもある。実際のトコロは知る由もない)。
 昔の健康器具に良く謳われた、「精力減退」「花柳病」に効くとは書いてない。実験はやっていたんだろう(やらぬワケが無い)。そこに信頼性を感じる。


一、使用法
 使用はコードを電灯線につないで室内いずれの場所に置いても差支えありません。電流を通じると微音を発し、暗黒中で見ると微光を放ち、螢の臭又は礒の香に似た臭がします。試験紙を少し水で湿して上部の窓に近づけますと間もなく変色します。
 室は密閉するよりも幾分空気の流通ある方が好く、長時間連続使用も妨げませんが、人によりまた男女老幼に従い感度がちがいます故神経を刺戟し不快を感ぜぬ程度、昂奮せぬ程度に各自感じに従って適当の時間宛自由に御使用下さい。
 はじめこの臭を厭う人もありますが それは一週間か十日だけの間であります。

 「電灯線につないで」とあるのが時代だ。「オゾン臭」が気になる人も、しばらく使えば慣れる。適当に使えとは健康器具らしからぬ。


一、料金、其他
 大阪市電気局の規定は家庭用(特A、A1、A2各号)は夜間一ヶ月廿五銭、昼夜一ヶ月三十五銭で地方も大差ありません。御使用電流の電圧(ボルト)周波数(サイクル)が適合せぬ場合は無効又は破損します故 御たしかめの上御註文下さい 御設備の際は土地の電気会社へ御届け下さい。

 一般家庭の電化製品が「電灯」、良くて「ラジオ」が加わる時代の話だから、夜だけ電気を使うところが少なくなかったと云うことだ。お金持ちには電気洗濯機・電気冷蔵庫・電気扇風機・電気ストーブなど使えないことも無かったのだが。購入にあたり電圧・周波数を確かめさせるのは誠実ですね。


一、便所その他の脱臭に就いて
 従来の防臭剤はその強烈な臭気により、悪臭を蔽うて臭覚をごまかすだけでありますが、オゾーンアンモニヤ、硫化物その他の有害悪臭瓦斯を根本的に消滅浄化しますから発生機を備えた便所は全く無臭清浄であります。

 このパンフの中身をちゃんと読むまで、オゾンを便所の消臭に使う発想は無かった。水洗便所が普及する前の話である。便所の臭気問題は、当時の住宅の本に必ずと云って良いくらいに出て来るが、オゾン脱臭の話を読んだ記憶が無い…。


一、その他の用途
 オゾーン発生機は麦粉、其他穀分、パルプ、繊維、油脂等の漂泊、脱臭、精製、
 ブドー酒、清酒、煙草等の醸造並に成熟。
 香料、化粧品その他薬品の製造食糧品の貯蔵。養蚕、養魚、養鶏等に使用せられます。これ等特殊のものは別に設計いたします。

 こっちの方が本来の用途なのだろう、と思う。
 オゾン発生機の写真も載っている。昔のラジオ・扇風機を彷彿とさせるモノもあり、総じて古めかしい。


各種のオゾン発生機

 右端の機械は、麦粉など穀粉を漂泊する機械で、「従来ノ漂泊方法ヨリモハルカニ経済ニシテ且ツ労力ヲ要セズ」とある。工業用は1キロワットから用意されている由。

 気になるお値段は?


 特Aの23円からD1の560円まで、空気浄化量の違いでさまざまだ。立法呎(フィート)表記もメートル法が主流になる以前の時代感が出ている。

 特Aの一時間あたり浄化量4000立法フィート以上をメートル法換算すると、約28.3リットルとなる。機械の大きさは、6×6×6(各インチ)。約15センチ四方。
 家庭の大便所に使うならこれで充分なのか? 便所を「浄化」するのに何分・何時間動かせば良いのか、チト見当が付かぬ。汲取便所なら臭いのモトは撤去されるまで残り続け、かつ日々増えても行く。一日動かしていたら便所の電灯線はこれで埋められ夜中にウンコは出来ぬ(二叉ソケットが売れるわけだ)。容量「10ワット以内」とパンフにあるのは使用電力の事か。ちなみに大型のD1は19×19×33(各インチ)で容量約120ワットとある。

 パンフの裏には、「実験結果及推奨」として公的機関の報告抜粋などが掲載されている。

 内務省大阪衛生試験所報告
 当所ニ差出シタル機器ニ就キ施行シタル試験ノ結果ニ依レバ本器ハ「オゾーン」ヲ発生ス

 わざわざ載せる程の事か(笑)。
 大阪医科大学は「上水に大腸菌を加えた」ものにオゾン瓦斯を通し、それを寒天培養させ生存菌の発育状況を検査・報告している。ガスを通す前は「1立方仙米」に3290個生存していたのが、5分通して3個、10分1個、15分1個と数を減らし、20分で「発育せず」。殺菌力はあるわけだ。

、「推奨」は、利用者の喜びの声(笑)と医師から推奨文である。
 帝国大学教授 鳳秀太郎博士は「人道の名に於いて世の工場所有者が一日も速やかにオゾン発生機を備え職工の保健に留意し能率を高めんことを呼号す」なんて面白い事を寄せているが、原文に(中略)があっても全文書き写すのはしんどいので、ここは割愛する。

 最後に「主なる納入先」がある。
 東神倉庫
 海軍省
 鐘淵紡績会社
 小笠原病院
 片倉製糸工場
 筧病院
 台湾銀行
 第一銀行
 大日本紡績株式会社
 南満洲鉄道株式会社
 名古屋明治銀行
 大阪医科大学
 大阪中央放送局
 大阪朝日新聞社
 大阪毎日新聞社
 横須賀海軍工廠
 呉海軍工廠
 舞鶴海軍工廠
 佐世保海軍工廠
 京都帝国大学
 国立工業試験場
 鴻池男爵家
 合同油脂グリセリン会社
 帝国人絹株式会社
 天龍堂病院
 青森製氷株式会社
 九州鉄道管理局
 三井男爵家
 三井物産本支店
 三菱銀行
 市立小倉病院
 正金銀行上海支店
 広島煙草専売局
 鈴木商店

 歴史読み物に名前が見える当時の大会社、海軍工廠に混じって(陸軍は採用していないのか?)「男爵家」もあるのが興味深い。侯爵・伯爵家への販路はまだ開けていないのか。男爵家なら水洗便所くらい備えているだろうから、便所の消臭には使って無いのかも知れない。

(おまけの衝撃的事実)
 「オゾン発生機」パンフの記述を素直に読むと、単純にオゾンってスゲエと思う。しかしオゾンと云えば、「オゾン層」「オゾンホール」、地球の環境問題の話ばかりで、ネット辞書では有毒ともある。一方「オゾン発生器」で検索すれば、パンフでアピールしているヨーな売り文句が健在である。どっちやねん。

 解らないコトがあるなら本屋に行くに限る。
 何を見れば良いのか分からぬまま売場を彷徨い、パンフに「便所の脱臭」の事が載っていたのを思い出し、『きちんと知りたい においと臭気対策の基礎知識(第二版)』(日刊工業新聞社)を立ち読みし、面白い記述を見つけたので2600円+税金払って買ってくる。

 「におい物質」の知識から、それを感じるメカニズム、臭いの測定と来て、臭気対策の考え方、その事例を解説する本だ。臭気対策に「オゾン法}が紹介されている。「日本水道協会オゾン処理調査報告書」からまとめた、「オゾンの生体に与える影響」が表になっている。濃度と生体症状を一覧にしたもの。表記を改め一部を引く。

 0.01〜0.02PPMわずかににおいを感じる(敏感なヒトの閾値)
 0.1PPMにおいを感じ、鼻、咽喉、目に刺戟(全員が不快)
 (略)
 15〜20PPM小動物は2時間以内に死亡
 50PPMヒトは1時間で生命が危険

 怖ろしい事が書いてある。オゾンでなくても、高濃度の気体を吸わされれば生き物には有害だろう、と思わぬでも無いのだが、やっぱりコワイ。
 この本には、空気清浄機の分類も載っていて、「オゾン放出型」の「低濃度拡散方式」は、「オゾンは気相での反応速度が極めて遅いため、分解による消臭効果はほとんど期待できない」と書かれている。使いモノにならぬと云うに等しい。「高濃度燻蒸方式」は、人体に有害な濃度に高めたオゾンガスを用いるため、「使用後のオゾンの残存対応にも注意が必要」。どちらも両親をオゾンに殺されたんぢゃあないか、と思わせる書きぶりだ(密閉した室内で長時間使用したら体調不良にはなりそうだ)。現在(2026年7月)流通している本に、こう書いてある以上、「かつて何かあった」に違いない。とても興味深い話ではあるが、今の自分には手に余る。
(おまけのおまけ)
 「マゾーン」は『宇宙海賊キャプテンハーロック』の敵方。「ガチョーン」は谷啓の有名なギャグ。どちらも本記事と関係は無い。