広島県尾道市

富田靖子さん出演映画「さびしんぼう」のロケ地


  
 平成14年8月18日、約5年ぶりの尾道訪問。前回は四国の帰りに今治からの船で尾道入りしたのだが、今回は在来線の各駅停車でのアプローチ。尾道へは新幹線で新尾道へ直行する方法もあるが、福山方面からの在来線の各駅停車を利用すれば、尾道の一つ前の東尾道を出て数分後、尾道水道をはさんで尾道市街と向島が進行方向左側車窓に展開する。遠方からの訪問者にとっては「やっと来たな」との思いが去来し旅心を高揚することができる。
       
 尾道駅到着後、駅前の「しまなみ交流会館」「おのみちロケ地案内図」を入手する。大林監督の尾道三部作出演者の尾道の思い出や、ロケの写真が掲載されており、ロケ地めぐりの必須アイテムである。地図はイラストなのでこれだけをたよりにロケ地を探すのは難しいが、この案内図のなかで大林監督も書いているとおり、迷子になることで新しい発見や素晴らしい出会いに巡り会うことができ、画一化されない自分だけの旅を創造することができるのではないか。


           



    


  まず西願寺へ向かうが、その途中にヒロキと百合子が壊れた自転車を押しながら歩いた道がある。映画では海岸沿いの道のように見えるが、ロケは市内を南北に流れる栗原川下流の川沿いの道で行われている。そこから約15分で西願寺到着。ここは一般のガイドブックにも載っている寺であるが、途中に案内板が全くないので、初めて来る人は必ず迷うところである。百合子が自転車のチェーンを直していた三叉路、寺へ続く坂道、寺への階段、鐘、本堂、お墓といった映画で何度も見た光景がそのまま残っている。お墓を登っていくと市内を一望できる。それにしても暑い!本堂に冷たいお茶のサービスがあったのはありがたい。すぐ汗になると判っていながらついがぶ飲みししまう。お茶を飲みながら訪問ノートを閲覧する。今年に入ってから30件書込まれており、そのうち11件に「さびしんぼう」がきっかけでここを訪れた旨の記述がある。多いのか少ないのかは判らないが、なかには「5回目の訪問」とか「子供に弘樹、百合子と名付けた」とか、かなりヘビーな「さびしんぼうフリーク」の方も来ておられ、こういうのをみるとすごく親近感を覚える。


  


  


次に向かったのが百合子の通学場面にでてくる福本渡船。6時から22時10分まで運行で人は片道60円、約5分の船旅だ。とりあえず向島まで往復して、本土側へ戻った。



 次にロケ地とは直接関係のない所を2箇所訪れるが、いずれも期待外れに終わる。一つはおのみち映画資料館。当然大林監督関係の展示があると思い込んでいたのだが、小津安次郎監督を中心とした1970年代以前の作品関係がメインで大林監督関係は皆無であった。しかし入場券売り場の窓口に「大林宣彦のa movie book 尾道」というガイドブックが置いてあったので、せめてここへ来た記念にと買って読んでみると、ロケ地の詳しい情報に加えて初めて聞くような映画にまつわるエピソードが満載されており、思わぬ収穫があった。(あとで調べるとその道では有名な本であったが)

 もう一つは文学記念室。林芙美子、志賀直哉関係の資料館なのだが、そこにさびしんぼうの等身大人形があると以前何かで読んだ記憶があり、一度みておきたかったので行ってみた。しかし、撤去されたのか、記憶違いだったのか、結果的には徒労に終わった。(これについてはで後で事情が判明する)


 百合子が自転車で走り抜けるのをヒロキが追いかけた商店街を往復した後、次に向かったのが、ふたりが自転車を押しながら歩いた海のみえるみかん畑の坂道。向島の津部田(つぶた)地区というところがロケ地なのだが、渡船の乗り場からかなり距離があるので尾道駅前からタクシーを利用した。地図を頼りにだいたいこのあたりと思われる所へ行ってもらったのだが、それらしい場所が見当たらない。地元の人が数人で立ち話しているのをみつけて先程購入したばかりの本に掲載されているロケ写真を示して聞いてみたが「よくわからないが、多分あのあたりだろう」とのこと。意外に知られていない事に不安に思いつつ、言われた方向へ車を走らせてようやくロケ地案内の看板を発見した。この坂道は「さびしんぼう」だけではなく、「ふたり」「あした」の3作品で撮影に使われているが、看板には「あした」のロケ地としか書かれていないのはちょっと残念。しかし坂道の途中からみかん畑越しに瀬戸内の海を見おろすと、よくぞこんなところまで来たものだと感慨深いものがある。
 運転手さんには何の用事でこんな所に行くのか事情は話したが、こういう目的の客は初めて乗せたそうだ。「ありがとうございました。また尾道へいらっしゃる機会がありましたらまた是非、ビサンタクシーをご利用ください」と愛想がいい。へんな指示をを出す客であったが往復で4千円くらいの出費であり、上客の部類にはなるだろう。


   

  これで、今回の探訪は終了したが、日暮れまでまだ時間がある。「時をかける少女」で有名な「タイル小路」でも見ておこうかと近くまで行ったのだが、映画をみるまえにロケ地を先にみるのは本末転倒だろうと思いなおして途中で引き返した。実は「時をかける少女」に限らず「さびしんぼう」以外の大林監督作品をまだみていない。我ながら偏った趣味だと思うけど・・・。次回の課題として残しておこう。

 最後に、夕暮れの尾道の全景をみたくなりもう一度西願寺へ行くことにした。目的を果たしてお茶を飲んでいると、住職さんが話しかけてきてくれた。「さびしんぼう」が縁でこの寺を訪ねてきたという話をしていると、本堂の中に入れてくださり、映画撮影時のスナップ写真のアルバムまで見せてもらえることになった。全く望外の出来事で恐縮の至りである。(ただし、お寺の行事のない時間のあるときだけで、常にこのような案内を受けることができる訳ではないのでご留意下さい。)その時の住職さんの話の中で、文学資料館の「さびしんぼう人形」は2年ほど前に撤去され、今は市内の倉庫に保管されていることが判った。

 
            

  これで今回の尾道探訪は無事終了。尾道という町はこうして一日滞在していると、また来たいと思わせる不思議な魅力を内在する町であることを実感することができた。次は「さびしんぼう」以外の映画をみて、そのロケ地を探して迷子になるつもりだ。
 21時15分発寝台特急あさかぜ乗車まで時間がるあるので、尾道唯一の温泉という「養老温泉」に行って汗を流した。一日歩き回った後に、温泉に思いっきり足を伸ばして入るのは正に至福の時である。

                  
 


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