1944年式モードはこれだ!
戦前・戦中様々なプロパガンダ雑誌が作られた事は、読者諸氏もご存じの通りであるが、その中で<伝説>となっているのが東方社が編集・発行した「FRONT」である。
「兵器生活」30000接続突破おまけとして、この伝説的雑誌をネタに出来る事は、主筆にとって大いなる喜びであり、読者諸氏にとっては、どうでも良い事ではある。
「FRONT」とは、東方社が出版した外国向けプロパガンダ雑誌なのであるが、従来は戦時広告の一つの頂点としての紹介か、時局に同調しつつ、作り手がやりたい放題に作り上げた特異な例としての取り上げ方が主流であった。写真系や広告系、あるいはマスコミ系で取り上げられるのであるから、これらの見方は当然ではある。
しかし「兵器生活」の<おまけ>で取り上げる以上は、別な切り口をすると云うのが義務であり、楽しみである。よって、今回は通常取り上げられない、「FRONT」シリーズ最期の本となった<戦時東京号>を俎上にあげる事にする。
なお、以下の図版は「FRONT 復刻版」(平凡社)から引用している。オリジナルは印刷完了時点に<東京大空襲>で罹災して現存しない。
これが表紙である。復刻版のサイズがB4版のためスキャナ取り込みが出来ず、一度カラーコピー縮小の上、画像取り込みを実施した。よって色調が多少異なっている。
「戦時東京(タタカウ トウキョウ)」となっているが、中国(語圏)向けに、本文は中国語(一部カタカナ)となっている。戦時色の見られない表紙であるが、もちろん「帝国日本は依然戦争継続能力がある」と云うハッタリを効かせているのである。背景に<平和の象徴である>鳩を飛ばすことで、国内の平静を暗に伝えようとしているようだ。
本文は、最初に皇居、靖国神社、共栄圏からの来訪者、東京の町並みの平穏さをアピールし、隣組、<厳しきこと鉄壁の如し、の防空陣>と題された、消防態勢の紹介をへて、この日本橋三越前で撮影された、1944年末?モード写真へと続くのである。
ボウクウソシキガ カンゼンニ デキテイル トウキョウデハ ツトメノ フジンモ ツネニ ハタラキヤスイ ウツクシイ ボウクウフクソウヲ シテイル
とカタカナのキャプションと、中国インテリを想定した、もう少しマトモな中国語の本文が付けられている。「ボウクウソシキガ カンゼンニ デキテイル」と書かれているが、実際はそうではなかった事は、あえて書くまでも無い話である。
1.ウチヤ コウジョウデ ハラタクタメノ(ママ) シゴトフク
「ハラタクタメノ」と、いきなり誤植が発見されてしまった。もちろん「ハタラクタメノ」が正しい。後年の<ヘビーデューティー>(死語)を先取りした感がある。くっきりとしたスボンの折り目が<労働>を感じさせない。小粋にちぢれた前髪もなかなか<非国民>している。靴も上等そうだ。
東方社の仕事は、軍の金(実際は財閥から資金の提供を受けていた)を使って好き放題やっていたと云う風評を見事に物語っている。
2.ソトヘ デテ ウゴクノニ ヨイ 「モンペ」フク
やはり御禁制の<パーマネントウェーブ>している。宣伝活動とは、恐ろしいものよ。ちなみに「モンペ」を中国語表記にすると「蒙被」となる事が判明した。
3.ミズノ トウラナイ キジデ ツクッタ ボウクウフク
表紙の女性の後ろ姿である。これまた従来の<銃後>のイメージを裏切る服装である。このカバンの中には、どのような<防空頭巾>が入っているのだろうか?
この三枚の写真に共通しているのは、画面に占める空の大きさである。彼女たちの足下をよ〜く見てみよう。
彼女たちがビルの屋上の縁に立っている事がお分かりいただけだろうか。
ことさらに平穏さを強調した<戦時東京号>であるが、先に記した通り製本途中で焼失してしまった。これらの<防空衣服>のモデルさんたちが、無事敗戦を迎えられたのかは不明である。
「FRONT 復刻版」の解説を読むと、一冊の製作に半年から一年要したと書かれている。国内向けの「写真週報」が毎週出ていると云うのにである。そしてこの雑誌の流通と、宣伝効果についてを、製作者側は殆ど意識していなかったとも云う。
これも<高度国防国家>の一面だったのである。