公称48万おまけ
48万、なのである。貯金の額ではなく「兵器生活」のカウンタの話。
数字一つが百円になれば、ウハウハの4800万円、ゲンコツ一発になればハウハウの48万発(死んじゃうぞ)である。
今回は、48万とは全然関係無いのだが、数の話である。
「都新聞」昭和15年11月23日付に掲載された、松竹映画「西住戦車長伝」の広告である。
この規模! この成果!
遂に抜いた世界的水準!
と、凄い言葉が並んでいる。広告の中央に「本映画の製作概要」として
このような数字が誇らしげに記載されている。
「チエツコ機銃」は、支那事変で、中国軍が使用した軽機関銃の俗称。現代の「スカッドミサイル」と云う言葉が持つ、「敵国兵器情緒」を醸し出している。
機銃小銃あわせて3千余りも使用(野砲、重砲、山砲など大砲について何も記載されていないのは、どう云うことか?)とは、それを持って走り回る兵隊が3千人以上出てくるわけで、この頃の戦争映画はすごいよね、とウッカリ思ってしまうが、問題は「戦車延台数・5千台」である。
帝国陸軍の主力戦車、九七式中戦車の総生産台数は、2123台。主力戦車同様に使われた九五式軽戦車(日本で一番多く作られた戦車でもある)は2378台。ちなみに西住戦車長が使った八九式中戦車は404台である(成美堂出版『太平洋戦争 日本帝国陸軍』より)。帝国日本が敗戦までに生産した主力戦車の総数に匹敵する数の戦車が、一本の劇映画のためにかき集められたのである!
…てなわけは無い。ちゃあんと「延台数」と書いてある。
「のべ」である。タッタ一台の戦車でも、5千回画面に現れれば「五千台」、5台が千回でも、立派な「五千台」である。ウソじゃあない(笑)。もしかするとフィルムのコマに写っているのが「五千台」なのかもしれないが、それは映画会社に対する侮辱になるから、そこまで云わぬ。
「世界的水準」とは、所詮ハッタリの水準である、と書くと、「松竹大船全機能動員画期的大作」の文句が泣いてしまうのだが、そんな事を書いてしまうのも、名作の誉高い、この映画を見る機会が無いからなので、ぜひともDVD化(ついでに『海の神兵』、『敵機空襲』あたりも)を祈念して一巻の終わりとする。
(おまけのおまけ)
広告の下には、上映劇場の名前がズラリと書かれている。
関東地区
国際劇場、渋谷松竹、新宿松竹、銀座映画、池袋昭和、神田松竹、鎌田常設、川崎映画、横浜常設、小樽松竹座、札幌松竹座、横須賀松竹、静岡映画、助川松竹、水戸美都里館、秋田松竹、盛岡内丸座、新潟松竹、仙台文化キネマ、浜松松竹
関西地区
大阪劇場、大阪松竹、阪神松竹、心斎橋松竹、京都座、京都昭和、神戸聚楽、神戸元町松竹、中京劇場、八重垣劇場、姫路松竹、岡山帝国、広島東洋座、小倉常盤座、八幡記念館、福岡友楽、熊本電気館、富山松竹、岐阜美殿館、高知世界館、京城明治座、台北劇場
京城(ソウル)の『明治座』ですか…。