観光協会のクレーム必至な49万おまけ
一応、「兵器生活」はミリタリー系ウェヴサイトとして、世間様にはご認識されているのだが、どこが「兵器」だ、何が「軍事」だと詰問されても、こたえようの無いネタばかり続いて久しい。
しかし、「総力戦」が国家・国民のすべてを戦争に捧げるものであるならば、ミリタリー色の無い、一見「ただの戦前生活ネタ」に見えるものであっても、やがて先の戦争に押し流されていったがゆえに、それは『軍事』であると云える。
逆に、戦争のさなかにあっても、人は生き、暮しているゆえに、兵器そのものですら『生活』の一要素であると断言しても良いのだ。
要するに「今回も好きなようにやるよ」と、云いたいのである。
と云うわけで、今回ご紹介するのは、
「朝日新聞」昭和6年5月23日広告
「プロユカタ」の時コピーした古新聞から拾った、大島・下田行き汽船の広告である。
新緑 初夏の海を渡りて
乗り物は驢馬
登山案内はアンコ
とてもグロ百%な
大島へ
時恰も目に青葉
山ほととぎす初鰹
エロと味覚の
下田へ
遊覧純客船
菊丸 橘丸
毎夜十時出帆
賃金特別割引
大島往復 三円半
下田往復 五円
いくら昭和の初めが「エログロナンセンス」の時代だとは云え、遊覧の案内に「グロ百%」とはいかがなものか。「エロと味覚」で客を呼び寄せて、文句は出なかったのだろうか?
汽船会社や現地の宿屋を心配したところで、もはや手遅れなのだが、この広告、「グロ」と云う言葉が、当時どの程度の印象を与える事を期待されていたのかを知る、良いサンプルである。どうひいき目に見ても、「ちょっと変わった」だの「野趣溢れる」と云った程度のものでしかない。
ちなみに、伊豆大島の三原山が自殺の名所になるのは、昭和8年のこと、「グロ百%」が自殺の名所ゆえと早合点してはならない。
さて、贈呈される「案内書」はエログロ満載だったのか? 非常に興味あるところだが、『観光案内』にまで手を出したら、古本の泥沼にアタマの先までつかってしまう(ウソだと思うなら、百貨店の古書市で『観光案内』のコーナーを漁って見給え)ので、あえて追求しない。刊行年月がご丁寧に記載してある観光案内が見つかるのかも怪しいし。
現代の観光案内サイトを見る。驢馬は無いのか、ロバは!
一度くらいは大島に行って見たいものだなあ…と想いは残るが本題はここで終る。
世間一般が期待する「エロ」とは、こんなモノである。
東京エロ・オンパレード
●全巻皆殺人的エロ!
キス一回十円二銭五厘也 に始まって 非常ズロースの奇怪・角帽を食う女の贅沢なエロ・カジノの舞台裏から腋の下の毛をのぞき、踊る肉の棒・とうきょう・おとこ・おんなよりほんとに察しが悪いに至り 写真・漫画数十枚を加えて 古今東西エロ本中のエロ本は此の一巻に盡きる!
「殺人的エロ」、「非常ズロース」って何? とツッコミを入れたくなるくらい、蠱惑的で、古本屋で買ったら5千円は下らないような本である。この領域も奥が深いので、不用意に踏み込みたくないところだが、見つけたら絶対買う(笑)。
(おまけのおまけ)
ひさしぶりに「やおい」(ヤマなし、オチなし、意味なし、と云う、本来の意味において)ネタにしてしまった。寝覚めが悪いので、もう少し続ける。
戦前、エログロと云えば、江戸川乱歩先生である。
「朝日新聞」昭和6年5月5日広告
雑誌「講談倶楽部」6月号広告に載った、「恐怖王」の煽り文句を味わっていただきたい。
見よ!破天荒の怪奇大探偵小説!
恐怖王!恐怖王!彼の正体は果して何者?
ゴリラと死美人の婚礼!
一台の金ピカ葬儀自動車が、どこへという当てないらしく、東京市中を、グルグルと走り廻っていた。車内には、よく見ると、確かに白布で覆った寝棺がのせてある。棺の中に死人が入っているのかどうか分らぬけれど、棺をのせた葬儀車が付添いの自動車もなくただグルグルと町から町へ走り廻っているのは如何にも変だ! …発端既に読者を怪奇と恐怖のドン底に惹き込む死骸盗賊、恐ろしき婚礼に始まりたる物語は進むに従って身の毛もよだつ大怪奇事件突発!愈々世にも稀なる怪人と一代の名探偵の決死の一騎打!真にこれ程凄艶怪奇な探偵小説又となし!正に乱歩先生の代表作!
「恐怖王」を読んだことのある読者諸氏には、解説無用。読んでない読者諸氏には、どう書いたところで理解不能。よって広告の説明はしない。