ペン先は鉄帽より強い、のか?

「鉄帽ペン」で51万おまけ


 恐竜・その他の絶滅動物の図版、模型を見るのが好きである。「兵器生活」の看板をあげて10年になるくらいだから、絶滅兵器の類も(使用の是非はさておき)面白いと思っている。と云うわけで、絶滅した商品も、収集するほど熱をあげているわけではないが、憎からず思っている。

 先日、古本市で「株式会社内田洋行 商品総合型録」(昭和9年)を買った。すでにそこからネタを一つ公開しているのだが、今回ご紹介する商品も、読者諸氏の興味を多いに惹くものと思っている。


鉄帽ペン

 東洋製鋼の新製品、鉄帽ペン先はペンの中央部が鉄帽型に作ってあるため、尖端の弾力が非常に強く、従って従来の舶来ペンに比べて優に三倍の耐久力を持っています。又鉄帽型の凹みにインキが貯えられ、一回つけると万年筆のように長く書き続けることが出来ます。

 794 鉄帽ペン  ニューム鉄帽型 TETSUBO PEN 一グロスに付き 2円 
 見ての通り、中央が帝国陸軍の「鉄帽」(鉄カブト−ヘルメット)のカタチをしている「ペン先」である。ご丁寧に「TESUBO」の文字左は海軍の「錨」、右は陸軍の「星」と云う無敵の意匠(笑)だ。素材がクロームモリブテン鋼を使っていれば、さらに趣が出るのだが、そこまで贅沢には出来ていない。
 舶来品の「三倍の耐久力」が何とも頼もしい。

 今日、「つけペン」は文具と云うよりも画材(身もふたも無い云い方をすれば『マンガの道具』)になってしまっているが、昭和9年当時、筆記具として相応の地位にあったことが、「万年筆のように長く書き続けることが出来ます」と云う言葉から伺える−そして昔の雑誌のあちこちに「丸善アテナインキ」の広告が掲載されていることも−。
 逆に云えば、万年筆のステイタスが、今日我々が想像する以上に高かったと云うことでもある(『中一コース』『中一時代』の購読予約をすると、万年筆が進呈されたのは、そのなごりか)。実は、このカタログに「万年筆」の項目は無い!

 「三倍の耐久力」「万年筆のように長く書き続けることが出来」ると云う、このペン先、他の商品と比べると高いのか安いのか気になるところである。
 同じカタログ記載の「パイク カブラペン」(『パイク』は内田洋行自社ブランド名)鉄製が1グロス1円、ニューム1.15円、クロームは1.3円。東洋製鋼の「優良国産日光ペン」は、ニュームの匙ペン1グロス1.15円。「鉄帽ペン」は、値段で云えば高級品なのがわかる。ちなみに舶来ペン先は、「ヒュース」(GEO.W,HUGHES PEN) ニューム匙ペン1グロス3円で、国産の三倍の値段。よって、「鉄帽ペン」は、「舶来の三倍の耐久力」で値段は国産一般ペンのニ倍と、なかなか面白い価格設定をしていることがわかる。

 古道具屋で見かけたら、サイフの中身と相談して買いたい一品と云える。

(おまけのおまけ)
 「鉄帽ペン」「日光ペン」製造元の東洋製鋼合資会社(当時)は、東洋製鋼株式会社−日光ペン株式会社−日光ビルディング株式会社(工場敷地の賃借−不動産業化とペン製造の廃止!)−ニビック株式会社と業態・社名を改め、現在に至る。
 現在「日光ペン」は、『株式会社立川ピン製作所』から販売されている。