からっぽで良かった53万5千おまけ
古本・古雑誌で「兵器生活」なんて云うウェヴコンテンツをこしらえているくらいだから、古いモノは好きだ(食べ物は別)。とは云うものの総督府の容積には限りがあるので、古道具・骨董品の類には手を出さないようにしている。
しかし、面白いモノは好きなので、たまには「モノ」でネタ一つ。
マーズ猟用無煙火薬
カジュアル系古道具屋(笑)で見つけた、『マーズ猟用無煙火薬』。
なんでこんなモノを買ってしまったかと云えば、
陸軍造兵廠火工廠
板橋火薬製造所製
の文字のせいだ。
帝国陸軍が民生用の火薬(猟銃の発射薬)なんそ作っておったのか…と書くと、モノを知らないのが暴露されてしまうのだが、知らぬものは知らぬのだから仕方がない。
出典不明だが、ネット上の記述(http://www1.cts.ne.jp/~fleet7/Museum/Muse300.html)では
明治33年: 無煙猟用火薬の製造を開始→軍用火薬の需要減により、民間用の火薬製造を始める。
明治44年: NN猟用無煙火薬の製造を開始し、従来の無煙猟用火薬の製造を中止する。
昭和10年: NN猟用火薬の製造を中止。粗質無煙火薬で強力なマーズ猟用無煙火薬の製造開始。
とある。昭和15年に「陸軍造兵廠火工廠」は「陸軍第二造兵廠」に改称されているので、この缶は、昭和10−15年の間に製造・販売されたものらしい。
缶の色は、黒に近い紺色。中央の「赤い星」は、労農赤軍のシンボルのわけはなく(笑)、戦いの星−火星を表す。黄色と朱色を使い、立体的に見えるようにデザインされていて、「マーズ」の名前も含めてハイカラなもの。
缶の側面には、「注意」(使用上の)と、「証明」(検査規格合格)が印刷(ラベル貼付ではない)されている。
注意
1 「マーズ」火薬ハ霰弾銃ノミニ使用シ装量下記ノ如シ
使用銃/装薬量 メートル法 匁法 「マーズ」火薬 霰弾 「マーズ」火薬 霰弾 十二番 2.0瓦 28−32瓦 0.53匁 7.5−8.5匁 十六番 1.8瓦 25−28瓦 0.48 6.6−7.5 二十番 1.5瓦 20−22瓦 0.40 5.3−5.8 二十四番 1.3瓦 16−18瓦 0.34 4.2−4.8
以上ノ内十二番銃ニ対シ弾量30瓦火薬2.0瓦ヲ用フルヲ最モ適量トス
2 装弾調製ノ為本火薬ヲ容積法ニテ計量スルコトヲ得ルモ念ノ為時々其重量ヲ点検スルコト
3 装弾調製ニ当リ火薬ヲ強ク撞固セザルコト
4 保存ノ為メニハ乾燥セル冷暗所ニ貯フコト
「強ク撞固セザルコト」と書いてあるのはおっかないが、この缶一つに火薬が200グラムも入っていた事の方が、もっと怖い(笑)。
子供の頃、プラモデルなどを爆砕するのに使った「爆竹」は、『火薬類取締法施行規則』によれば、
(5) 爆竹(点火によつて爆発音を出す筒物であつて筒の外径が四ミリメートル以下のものを連結したもののうち、その本数が二十本以下のものに限る。)であつて、その一本が火薬一グラム以下、爆薬(爆発音を出すためのものに限る。)〇・〇五グラム以下のもの
と定義されている。爆竹を素手で持って投げるヤツを英雄視していたと云うのに、こんな程度の火薬量でしかない(専門家から見れば、花火、鉄砲の発射薬、砲弾・手榴弾の装薬をひとくくりにして、その量の大小を述べるなんてぇ事は、爆竹、通常爆弾、原子爆弾の区別なく「一個、二個」と数えるようなナンセンスな話なんだろうなあ…)。
何にしても、わずか2グラム−1円玉二枚分−「ドカン」と鉛ダマをぶっ放てば鳥獣(人に向けてはいけない)が倒れることだけは確実だ。
証明
本火薬ハ下記ノ検査規格ニ合格シタルコトヲ証明ス
1 仮比重0.335乃至0.350
2 揮発分2.0%±0.5
3 耐熱度アベル法65度試験ニヨリ30分以上
4 検速検圧
検速銃ハ12番円筒銃腔長762粍トス
検圧銃ハ12番猟用検圧銃トス
薬莢及雷管英国エレー会社製グランドプライス及同中管装薬量2.0瓦
装弾量六号霰弾(一粒ノ重量約0.104瓦)32瓦
実包調製法火薬、紙塞、毛塞、紙塞、霰弾、紙塞ノ順序ニ填実シ巻返シ程度約六粍トシ抜弾抗力18乃至20瓩トス
速率銃口前7.50米ニ於テ310乃至330秒米
最大腔圧480乃至520瓩/糎
陸軍造兵廠火工廠
「かやく」と云えば、カップ麺の『無い方がむしろ潔い』チャーシュウ・ネギ・玉子の類が真っ先に思い浮かぶ主筆の事ゆえ、「証明」に対して何か云えるものではない。
せいぜい、「国産品愛用」と呼号していても、試験用の薬莢はイギリス製を使っているんだ、と誰でも思い付くイヤミを云うくらいなものである。
ドロップの缶のようなフタ
文庫本との比較(『アニメ映画』は、ついにDVD化が決まりました!)
こんなモノ、良く残っていたよなあ…。
(おまけのおまけ)
書籍雑誌チラシの文字を打ちこむ面倒さに、「モノ」ネタにすれば文字を打たなくていいな、と思った次第だが、写真の撮影など、かえって手がかかってしまった。慣れないことはするもんじゃあない(笑)。
こうしてネタに投入してしまうと、この先の使い道までなくなってしまうのだ…。