タミヤのプラモじゃありません

時局に因んだ「盆景セット」


 大きな骨董市―ビッグサイトのホール一つ丸ごと貸切(コミケットの規模が尋常で無いことがわかる)!―で、昭和12年頃の大丸デパート通販カタログを、中身もロクに見ないで少し買う。さて面白いモノはないかと読み進めると、昭和12年12月号に、こんな商品があった。


時局に因んだ盆景セット

 「盆景」とは、耳慣れぬ言葉だが、「婦人家庭百科辞典」(ちくま学芸文庫・原版は三省堂から昭和12年に刊行)を引いてみる―例によって仮名遣いの変更・読点を追加―と、
 
 楕円形・方形いろいろの形の盆の上に、粘土や枯草の埋れたのを捏ねて山嶽・島嶼・林泉などの形をつくり、松・杉・檜などの小さなのを植え添えて楽しむもの。

 とある。さらに「箱庭」「盆栽」「盆石」「水石」は、枝分かれした兄弟分にあたるなど記載されているが、略す。
 「和式ジオラマ」「汽車の走らぬレイアウト」「水槽から出した(魚と水草のない)アクアリウム」等、言葉連ねれば、どんな趣味か―その趣味の人は『一緒にするな!』と耐え難いところだが―イメージが掴めるかもしれぬ。『そう云うものがある』とこだけ押さえていただければ良いのだ。そうでないと先に進めない。

 昭和12年12月は、7月勃発の「支那事変」から約半年後となる。このカタログを印刷しいるか郵送しているだろう11月20日に大本営が設置され、カタログを読み大丸に何か註文してるかもしれない12月13日には南京占領と、帝国陸軍がノリにノッてた時期だ。よって「盆景」も、時局の色彩を色濃く反映したものとなり、「兵器生活」格好のネタとなる次第である。(以下の文面は推定した文字も含む)

時局に因んだ盆景セット
 勅題に因んだ神苑
 御宮1、橋1、杉木5、鶴二対、鳥居1(鳥居は木製) 2円90銭


 台付別

 高射砲セット(将兵3、高射砲1) 80銭
 肉弾セット(兵7、梯子2) 1円30銭
 突撃セット(将2、兵5) 1円30銭
 野砲隊セット(野砲1、将兵4) 1円45銭
 支那兵 22銭 以上アンチ製
※註

 一個もの
 楽焼 
 楼門(小65銭、大1円)
 支那民家(小13銭、中22銭、大30銭)
 砦25銭


 以上、台は別種々お取合わせお庭や床に飾りますれば可愛い記念になります

 「セット」と云うと、
 ・コーヒーの横にゆで卵が置いてある
 ・ハンバーガーにポテトと飲み物がまとめて安くなる
 ・ラーメンと小さいチャーハンが同じお盆で出てくる
 等々思い浮かべるところだが、プラモ少年なれの果ての身は、真っ先にタミヤ1/35「ドイツ歩兵突撃セット」「小火器セット」等が最初に出てこなければならない。その流れで「盆景セット」のラインナップの「凄さ」がわかるのだ。
 天下のタミヤが未だに「日本陸軍歩兵セット」一つで足れりとしているのに、既にこちらは「高射砲セット」「肉弾セット」「突撃セット」「野砲隊セット」と云う、帝国陸軍模型ファンが泣いて喜ぶ商品群が用意されている(『将』『兵』『将兵』と表記を使い分け、ハシゴで城壁に挑むのは『兵』だけと云う所がまたシブい)。自分が生きている間はタミヤから出ることは無いだろう「支那兵」に、中国の城壁、楼門まで用意されており、時局便乗にも程がある! と主筆大喜びなのだが、冷静になってみれば戦車が無いのか…。

 これら「盆景セット」がどのようなものだったのか、カタログの写真を拡大してお目にかけよう。


神苑


高射砲(右)、野砲(左)


突撃セット(右)、肉弾セット(左)

 一応説明は付けてみたが、主筆の眼にそう見えるだけの話で、「兵」と「将」の区別はおろか、どこに「支那兵」がいるのものか、実はサッパリ解らない。
 もちろん、実際の大きさも不明なのだが、1/72〜1/150くらいではなかろうか。

※註: 「アンチ製」とは、アンチモン、アンチモニーと云う金属(合金として用いられる)製の意味。骨董市などで売られている金属製品の材料として有名だが、現在も製造されている(東京アンチモニー工芸協同組合)