「軍人褌」で61万5千おまけ
「ふんどし」は、赤いものだと思い続けていた。
のちに赤フンドシが、むしろ珍しいモノであることを知った時の気持ちは、たぶん、地動説を認めざるを得なくなった、西欧の聖職者が抱いた感情に近いような気がしてならない。
その頃には褌に、「六尺」「越中」の二種類(実際はもっとある)があり、「六尺」こそ日本褌の王道であるとの知識も得てはいたのだが、それでもフンドシの絵を描けと云われれば、三尺布の一辺に紐のある「越中褌」を描くつもりだ。
ミリタリー世界の褌と云えば、われらが帝国陸海軍である。
しかし、最初に見た写真が、支那の泥河を渡る場面を後ろから捉えたもののせいか、尻のカタチを覆い隠す、越中褌の緩みある白布が、「トムとジェリー」の子ネズミが穿いてる「おむつ」の親玉にしか見えず、なんともカッコ悪いものだよなあ…と思って今に至っている。
と云うわけで、今回御紹介するのは、大丸百貨店が昭和12年に出したカタログに掲載された「褌」である。
(元資料が行方不明になっているので、何月発行と書けないのが実に申し訳ないところ)
軍人褌
軍人褌
白金巾製二枚組
ゴム付
軍人以外一般用としても簡便で御徳用褌
白金巾製ゴム付
二枚組…0円三五
その名も勇ましき「軍人褌」!
「武運長久」の文字が、手柄と凱旋をお約束します、などと現代なら切々と訴えそうなものを、「一般用としても簡便で御徳用」と、初手から腰が退けている。
六尺式の一枚布ではなく、布を二つ折りにして、上端に紐を通した越中褌スタイルに見える。しかし、「ゴム付」とあるから、紐の代わりにゴムがあり紐を締めずに着用が出来るカラクリなのだろう(そうとでも考えぬと何が『簡便』なのか理解出来ない)。
股の部分が細く絞られているから、着用後の見た目は「おむつの親玉」より「脇の無いブリーフ」寄りになるはずだ。
軍人向け褌、と云うよりは、「モダン簡便褌」(総督府仮称)が思ったより売れぬので、「武運長久」の判を押し、慰問品用途を当て込んだリニューアルと推測する次第である。
「桜に錨」(海軍)、「星」(陸軍)の印をつけ、陸海両用にしているところなど、セコい商売やなあ…と思う(今月のネタに使わせてもらっていながら、何て事を!)。
力士は立ち会い時にマワシの具合を確かめる。今でも大仕事の前には「フンドシ締めてかかれ!」と気合いを入れる。しかし、ゴム付き越中フンドシでは締め直すことは出来ないのだ…。
(おまけの余談)
これが戦後「合格パンツ」のヒントになったかどうかは、書くまでもなく不明だ。
もちろん、戦前に「兵学校合格褌」やら、「幼年学校合格褌」が存在していたのかも歴史の闇の中である。