「ドイツ軍イギリス本土上陸」報道で67万おまけ
古本屋に行くと、こんなモノがあった。
独軍英本土上陸成る
「独軍英本土上陸成る」とは穏やかではない。
第一次、二次の世界大戦を通して、ドイツ軍がイギリス本土に攻め込んだなんて話を聞いた覚えは無いのだが、「史上空前の上陸攻略戦」とまで書いてある。パラレル・ワールドに迷い込んでしまったのか?
しかし、「ニューヨーク発本社至急報」の上にある日付は空白なのだ。
新聞社では、天皇崩御の記事をあらかじめ用意してある、と昭和60何年かに父から聞いたことがある。
いつか必ず起こり、語るべき内容は概ね決まっている物事であれば、あらかじめ記事を用意しておく方が、その時が来てあわてて書き上げるより仕上がりは早く、内容もこなれているに違いない。「予定稿」と云うやつだ。
定例会議の開催通知を、前回送ったメールを流用してやっつけるのと同じであるが、なぜかこちらの場合は、場所や曜日を間違えて(なおし損なって)送ってしまう事がある。安易な流用は良くないと云うことか。
『新愛知』は、昭和17(1942)年に『中部日本新聞』(今の『中日新聞』)に統合された日刊新聞である。
ドイツ軍が英本土上陸を目論んでいた昭和15(1940)年頃、こんな号外を用意していても不思議ではないが、日付の入らぬ号外をストックして何かメリットがあるのか? 印刷した紙の置き場は馬鹿にならないし、ニューヨークから電信が届いたところで社員総出でて日付を書き入れるとは、想像することも出来ぬ。
日付の入らぬ無い新聞など、「怪文書」も同然ではないか。
ドイツ軍英本土上陸を報じる『幻の号外』を、奇特な人が保存し続け、ついに力尽きて後、古本屋の店先に並べられたそれを、自分が偶然引き継ぐ図式が面白いばかりに、大枚叩いて買ってはきたものの、マジメに考えれば考えるほど、その図式が成り立たない事に思い至る。衝動買いなんてするもんぢゃあない。
しかし、ネタはネタだ。スキャナにかけるべく手に取ると、紙面の下に(物凄く小さく)
「新愛知附録」と記載されているのを見る…。
上陸作戦が実際に行われている必要はない。日付は『新愛知』本紙を見て読者が書き込めば良いのだ。大ブリテン島の全図が描かれているのは、上陸作戦の実況を示すには大雑把にすぎるが、何処から攻め上がるのか解らないのだから仕方あるまい。これくらい広範囲の地図であれば、ドイツ軍の上陸地点だけでなく、進攻ルートをでかでかと書き入れ、敗残の英軍がどこに落ち延びていくかを、無邪気に予想するにも都合が良いものと考え直す。
オリンピックやワールドカップの、試合の組み合わせや順位予想の親類と思えば、腹は立たないのだが、こんな時局便乗な販促品が出てしまうほど、帝国日本がドイツに幻惑されていたとは(少し前にナチス・ドイツの宣伝映画『意志の勝利』を観て、こりゃあマネしたくなるわなあ…と感心したのを思い出してしまった)…。
大雑把な地図(下半分)
それにしても、首都ロンドンがこんなに大陸寄りにあったのかと驚く。
(おまけのおまけ)
YAHOOの地図で英独仏の位置関係を見ると、フランスが屈服すれば、イギリスもすぐに音を上げてしまうに違いない、と思わせるモノがある。
ロンドンなんか一息ぢゃあないかと思ってしまう地図
本当の事を云うと、リヴァプールとロンドン間がこんなに遠かったのかと云う方が、個人的には驚きだったりする(リヴァプールとドイツのハンブルグも『ちょっとそこまで』と云う距離ではない)。
(おまけの蛇足)
「小松崎茂 幻の超兵器図解 復刻グラフィック展」と云う展示会で、『機械化』の創刊から休刊までの図解ページ(のコピー)を見たのだが、確かに昭和15−16年頃はドイツ物が多い感じがあった。