生活を楽しく!

東芝の先行きが心配でならぬ73万1千おまけ


 古書市で、こんなモノを買う。


東芝の家庭電気器具

 わが「兵器生活」は「戦前・戦中」の話題(ネタ)を紹介するサイトを標榜しているので、戦後モノには手を出さないのだが、絵が可愛いのでツイ買ってしまい、面白いネタが見つけられないまま更新時期が迫ってきたので、ツイ載せてしまう次第である。

 紹介されている「電気器具」を見てみると、


 左から
 東芝電気洗濯機 FW型200W ¥53,000
 東芝電気洗濯機 P型 80W ¥28,000
 東芝電気冷蔵庫 DOF−2000型
 東芝ミキサー 130W ¥12,300
 東芝トースター 400W ¥1,990



 東芝電気ストーブ 2KW ¥11,500
 東芝電気ストーブ 600W ¥3,600
 東芝パーコレーター 500W 8人用
 東芝電気コンロ 600W ¥850
 東芝ボイルクッカー 5A ¥890



 東芝クリーナー 250W ¥16,500 特別付属品 ¥3,000
 東芝電気アイロン 4ポンド 300W ¥1,240
 東芝コーヒーポット 350W 6人用 ¥2,850
 東芝足温器 40W ¥1,450
 東芝あんか 60W ¥1,260

 東芝1社だけのチラシなんだから、いちいち「東芝」を付けなくても良いぢゃあないか、とちょっとだけ思う。


 戦前の電熱器具を紹介した、「来るべき電熱生活」にあった器具に、電気冷蔵庫・電気洗濯機・掃除機・ミキサーが加わったことになる。白黒テレビが入れば高度経済成長期の「三種の神器」が勢揃いするわけだが、時代はそこまで来ていない。
 新顔の電気器具には、どれもモーターが組み込まれている。そして電熱製品の価格が千円・2千円(2KWのストーブは別)レベルなのに、モーターがあると一挙に1万円の大台を超えているのだ。

 このチラシは何時発行されたものか?
 「渋沢社史データベース」(渋沢栄一に関連する会社の社史を中心に約1,500冊分の『目次』『資料編』『年表』『索引』が検索出来ると云う)から、『東京芝浦電気株式会社八十五年史』(1963.12)の「年表」を見ると、

 昭和26年
 12インチひまわりR・同銀河T、数寄屋扇など各種扇風機、電気洗濯機FW形、電気冷蔵庫DOF-2000形を新発売等の家庭電機製品

 昭和27年
 12インチ卓上扇ばらT、8インチなでしこS-1、クリーナ肩掛形、トースタ(ターンオーバ形)、コーヒーポット、ボイルクッカ、電気洗濯機P形、あんか、足温器、タイムスイッチ等の家庭電機製品を発売

 昭和28年6月1日
 東芝商事(株)発足、これに伴い組織を改正、事業運営会議事務局を調査事務局に改組

 とある。
 夏物家電の扇風機が記載されておらず、ストーブにアンカがある所から、昭和28年秋から冬のチラシと推定出来る。しかし年表で26年に発売されたとある冷蔵庫DOF−2000型に、価格と通産省電気試験所の承認番号の記載が無いので、断言は出来ぬ(年表が誤っている可能性もある)。まあ「ゴジラ」第一作の公開前と見て差し支えはあるまい。

 紙面下を拡大する。
 割烹着ではなくエプロン姿の「若奥さん」(胸元のワンポイントは東芝の『T』だろう)のヨコにある文章は、こう書かれている。


 生活を楽しく!

 御家庭の生活はまず東芝の家庭電気器具で楽しく過しましょう。東芝電気洗濯機に、ミキサーに、コーヒーポットに… 皆様の御家庭のあらゆる電気文化生活にそなえて東芝は長年の伝統と優秀なる技術で皆様の御要望に応じたいと存じ豊富に製品を取揃ております。

 東芝の家庭電気器具

 東京芝浦電気株式会社
 東芝商事株式会社

 戦前の「電熱生活」は、「衛生―清潔―簡易―安全―高能率」をアピールしていたのだが、戦後の「電気文化生活」のキーワードは「楽しさ」である。

 とは云え、やっていることは、炊事・掃除・洗濯の「家事労働」そのものでしかない。電化製品が行き渡って久しい今日では、単なるメンドーな雑事に過ぎないが、戦前、庶民には高嶺の花だった便利なモノが、ようやく手の届くところまでやって来たことを「楽しく!」と表現したくなる高揚感が伝わってくる。その喜びも明日明後日…と経つにつれ「平凡な日常」になってしまうのだから、人間勝手なモノだ。

 電化製品の普及で家事労働の負担が軽減され、余暇が生まれたことで、あえて竈に薪をくべてご飯を炊いたり、薪ストーブで暖を取ったりと、「不便」を楽しめるところまで世の中便利になったのだが、手洗い洗濯だけは、楽しもうと云うには手間を喰い過ぎると、単身生活最初の一週間で痛感した事がある。
(おまけのおまけ)
 戦前の値段の感覚が「2〜3千倍」なのは、「兵器生活」のあちこちでも書いているが、昭和28年ってどうなのよ? と思う。

 『値段史年表』(朝日新聞社)の「砂糖」を見る。白砂糖1キロが、
 昭和13年 43銭(以後27年まで統制品)
 昭和28年 120円
 昭和61年 261円
 この先は総務省の統計資料(東京都区部小売価格(昭和25年〜平成22年)以下も同じ)を使って、
 昭和63年 254円
 平成10年 222円
 平成20年 200円
 昭和28年を「1」とすると55年で「1.8」。

 ハガキ一枚は
 昭和28年   5円
 昭和63年  40円
 平成10年  50円
 平成20年  50円
 昭和28年を「1」とすると55年で「10」。

 『文藝春秋』一冊では
 昭和28年  95円
 昭和63年 559円
 平成10年 704円
 平成20年 739円
 昭和28年を「1」とすると55年で「7.7」となる。

 「電気器具」はどうか? ヨドバシ.com価格(2017.2.22調べ)を見る。
 電気コンロ(600W)は、東芝製ではないが「イズミ IZUMI IEC-105」が税込1,590円−税抜き1,472円である。昭和28年の850円を「1」とすれば「1.73」。
 掃除機は安い物高いモノ色々あるが、「東芝 TOSHIBA VC-D50K(L) [紙パック式掃除機 ブルー]」の場合は税込み7,040円−税抜き6,519円となり、「0.4」と55年前よりも安くなっている。

 一口に「何倍」と云うにはサンプルが少なすぎたようだ(笑)。

 この調子で東芝の株価を50年60年さかのぼって調べると、さぞや抱腹絶倒(除く株主)な事になっているに違いないが、それはやめておく。

 東芝がこの先どうなってしまうのかは、当事者では無いので成り行きを見守るしかないのだが、「東芝未来科学館」と、その収蔵品は残しておいて欲しいと心底願っている。