ここからは「修身」(現代の道徳に近い)に関するもの。
 先に挙げた項目と重複しているものが多い。それだけ重要であると云うことか。

 第三 修身に関する試問
 其の一(尋常科第六学年程度)

 一、(問)日本国民の一番大切な徳行は何ですか。
    (答)忠君愛国です。

 二、(問)忠君愛国とはどういうことですか。
    (答)君に真心をささげ、国家の為に尽くすことです。

 三、(問)国に大事のある場合、国民たるものはどんな覚悟が必要ですか。
    (答)国民は協力一致して、めいめい自分の本分を尽くす覚悟が必要です。

 四、(問)忠君愛国の心を実際に行うには、どうすればよいでしょうか。
    (あなたのような子供でも、忠君愛国が出来ますか)
    (答)自分のなすべき事をまじめに行って善良有為の人となり、
       国家の大事に当たっては身命をさざげて君国に尽くし、
       平時には自分の職分を励んで国の富強を増し、
       文明を進めるように心がけます。

 五、(問)親に孝行するには、どんな事をすればよいでしょう。
    (答)親にやさしくしてよく其のいいつけを守り、身体を健全にし、
       勉強して立派な人となって、親の名を挙げ、
       親を喜ばせるように心がけます。

 六、(問)「忠臣ハ孝子ノ門ニ出ヅ」とは、どういうことですか。
    (答)「忠義な家来は孝行な人の家から出る」ということで、
       君に忠を尽くすほどの人は、家に居って必ず親孝行である。
       忠といい孝といっても其の心は一つで、ただ君に尽くすを忠といい、
       親に尽くすを孝というので、忠臣は必ず孝子であるというのです。

 七、(問)祖先はなぜ尊ばなくてはならないのでしょうか。
    (父母の恩と祖先の恩とは、どちらが重いと思いますか)
    (答)私たちの家では、父母が家の繁栄と子孫の幸福を計っていますが、
       父母の前は祖父母、其の前は曾祖父母というように、先祖代々が
       家の繁栄と子孫の幸福を計って下さったのですから、祖先の恩は
       父母の恩とかわりがありません。
       こうして祖先の恩を受けて生活する私たちは、此の大恩を感謝して
       祖先を尊ばなくてはなりません。

 八、(問)祖先の恩に報いるには、どんな心がけを持たなければなりませんか。
    (答)祖先の祭りを厚くすること、自分が立派な人となって
       祖先の名を挙げるように努力することです。

 九、(問)勤勉の必要であるわけをいってごらんなさい。
    (答)勤勉は成功と幸福を得る基(もとい)ですから、志を堅くして
       勉め励まなくてはなりません。

 一〇、(問)「精神一到何事カ成ラザラン」とはどういうことですか。
     (答)何事でも、成し遂げようという決心を堅く持って勉め励んだならば、
        成し遂げられないことはない。必ず成功するものであるということを
        教えた格言です。

 一一、(問)自立自営とはどういうことですか。
     (答)自分一人の力で働いて、他の人にたよらず、独立独行してゆくことです。

 一二、(問)公益とはどういうことか、お話しなさい。
     (答)私たちは一人で世の中に生活しているのではなく、社会の人々と
        互いに助け合って生活するのですから、常に他人の利害を考え、
        迷惑をかけないばかりでなく、進んで社会の為に利益幸福を
        増すように尽くすことを公益といいます。

 一三、(問)学校の生徒はどんな事をしたならば公益になりますか。
     (公園などで遊ぶ時は、どんな心得が必要ですか)
     (答)学校を大切にして常に校内を清潔にし、紙屑やごみなどを
        散らかさない様にし、又公園の樹木を大切にし、他人の迷惑に
        ならない様にするなどは、小さいながら公益であります。

 一四、(問)協同の精神はなぜ必要ですか。
     (答)吾等の生活している社会は自分一人のものではないから、
        人々互いに協同一致しなければ、社会の福利を進めることが
        出来ないからです。

 一五、(問)「人事ヲ尽シテ天命ヲ待ツ」とはどういうことですか。
     (地震や火事の時には、どんな覚悟が必要ですか)
     (答)自分の力で出来得る限りの事を為して、もう此の上は
        何うとも致方がないという時は、落ち着いて自然のなりゆきに
        任せるという意味です。

 一六、(問)日本国民として必ず守らなければならない大切な義務があります。
        それは何々ですか。
     (答)兵役に関する義務、租税を納める義務、議員を選挙する義務です。
        (兵役・納税・選挙の三大義務です)

 一七、(問)兵役の義務とはどんなことですか。
     (兵役の義務についてお話ししなさい)
     (答)我が国民中、満十七歳から満四十歳までの男子は
        皆兵役に服する義務があります。故に男子は満二十歳になると
        徴兵検査を受け、合格したものは現役兵となって兵役に服し、
        もし国に一大事の起こったときは、現役にあるものはもちろん、
        予備役・後備役にある者も召集に応じて出征します。

 一八、(問)日本男子たる者の国家に対する心得をお話しなさい。
     (答)少年の時から身体を強健にし、元気を養い、成長の後は
        見事に徴兵検査に合格して陸軍又は海軍に入り、
        名誉ある護国の義務を果たすことが出来るように
        心掛けなければなりません。

 一九、(問)軍隊に入れない人はどうして国に尽くしますか。
     (答)常に心身を練り、技能を磨いて、すわといえば
        直ちに之に応じて国難に当たる覚悟が大切です。

 二〇、(問)国民はなぜ税金を納めなければならないのですか。
     (答)国民共同の福利を増す為に、国で行わなければならない
        多くの仕事をなすには非常に多くの費用がいりますから、
        これらの費用を国民が納めるのは当然であります。

 二一、(問)議員を選挙するには、どんな人を選ばなくてはなりませんか。
     (答)候補者の中から、性行がりっぱであり、
        よい考えをもっている人を選びます。

 二二、(問)議員を選挙する人も、選挙されて議員となった人も、
        どんな考えをもたなくてはなりませんか。
     (答)かりそめにも私情に動かされず、利害にまどわされず、
        奉公の至誠を以て尽くすという考えです。

 二三、(問)勇気とはどんなものですか。
     (答)何か事をなそうとする途中で、難儀や不安の事に出会っても、
        それに打ち克って初めの志を貫きとおすという気力です。

 二四、(問)勇気はなぜ必要ですか。
     (勇気の必要であるわけをお話しなさい)
     (答)すべて物事は、たやすく出来るものではありません。
        さまざまの困難やじゃまがありますから、それをきりぬけるには
        勇気がなくてはなりません。

 二五、(問)教育はなぜ必要ですか。
     (教育の必要なわけをお話しなさい)
     (答)世に立って国民の務めを果たすにも、又農工商其の他
        どんな職業に従事して共同の福利をはかるのにも、
        教育を受けていなければ、よい成績を挙げることが困難で
        あるからです。

 二六、(問)教育を受けた人々はどんな心がけがなくてはなりませんか。
     (答)忠良な臣民となって、国家の繁栄をはかるようにつとめることです。

 「修身」復活を目論む人達がいるわけだと思う内容ばかりだ。しかし、これがなくなったから日本が悪くなったとは、証明の仕様も無い。

 「義務」ばかりで「権利」の存在が希薄なのが特徴であると云える。考えてみれば、帝国憲法も教育勅語も下賜されたモノ=「上から目線」なのだ。議員の選挙も「義務」だったと云うのが驚く。

 「学校の生徒はどんな事をしたならば公益になりますか」の質問が、「公園などで遊ぶ時は、どんな心得が必要ですか」とその答えにおいて同じ、とする編集上の豪快さが光る。

 其の二(尋常科第五学年程度)
 一、(問)善い事をするとどんな心持ちがしますか。
       悪い事をするとどんな気持ちがしますか。それはなぜですか。
    (答)よい行いをすると、人に知れなくても心嬉しく感じ、悪い事をすると、
       人に知れなくても、自分で気がとがめます。それは良心があるからです。

 二、(問)良心とは何でしょうか。そしてどんな働きをするものですか。
    (答)人の行いのよし悪しを知りわける心で、人の生まれつき
       持っているものであって、よい事をすると心嬉しく感じ、
       悪い事をすると気がとがめて、気持ち悪く感じます。

 三、(問)倹約とはどういうことですか。それでは、倹約するには
       どんな心掛けが大切ですか。
    (答)すべてむだづかいをしないことです。無益にお金や品物をつかわないこと、
       やたらに物を捨てないことです。

 四、(問)進取の気性とはどんな気性ですか。
    (答)常に従事していることに安んじないで、更に進んで
       それ以上の事をなそうと心がけることです。

 五、(問)自信はなぜ必要ですか。
    (答)若し人に自信がなかったら、困難に出逢って直ぐくじけたり、
       自分を力ないものと考えたりして其の志をとげられません。
       忍耐も勇気も自信があって力を増すものです。

 六、(問)友だちと交わるにはどんな心がけが大切ですか。
    (友だちとは、どういう心がけで交わればよいですか)
    (答)互いに親切にして助け合い、約束をたがえず、うそを言わず、
       過ちをゆるしあって仲よく交わるようにすることであります。

 七、(問)よい友達とはどんな友達ですか。
    (どんな友達がまことの友達ですか)
    (答)親切で正直で、約束を守り、もし悪い所があったら諫めてくれ、
       困難に出会った時には真心をつくして助けてくれるような友達です。

 八、(問)他人やお友達と約束をしようとする時には、どんな心掛けが
       大切ですか。
    (答)約束が守れるかどうかをよく考えた上で約束するようにし、
       決して軽々しく後先の考えなしに約束しないように致します。

 九、(問)約束はなぜ厳しく守らなければならないですか。
    (答)人に迷惑をかけますから。

 一〇、(問)人と約束してはいけない場合がありますか。
        では、一旦約束したことで、どうしても実行の出来ない時には、
        どうしたらよいですか。
     (答)あります。それは約束の守れない時です。
        約束の実行出来なくなった時には、其の理由を話して
        成るほどと承知してもらって、双方相談の上其の約束を
        取消すように心掛けます。

 一一、(問)あなたが決して忘れてはならない恩はどんな恩ですか。
     (答)皇室の御恩、父母の恩、先生の恩です。

 一二、(問)人から恩を受けた時は、之に対してどんな心掛けがいりますか。
     (答)常に恩に報いることに心がけますが、それには平生、「有難い」
        という感謝の念を失わないことと、恩人の志を無にしないことが
        最も大切です。

 一三、(問)よい日本人となる心掛けの中で、一番大切と思う事は何ですか。
     (答)、忠君愛国の道を励むことです。

 5年生相当の「修身」知識は「道徳」に近いものがある。「良心」「友達」「約束」などが問われているが、ここにも「忠君愛国」は一番大切とされている。

 其の三 一般
 一、(問)いろいろの事を知っている人と、知らなくてもよく行う人と、
       どちらがよいでしょうか。其のわけを言いなさい。
    (答)いろいろの事を知らなくてもよく行う人がよいです。
       すべて実際に行われなければ何の効能もないし、何事も出来ないから。

 二、(問)あなたが立派な人間となるためには、毎日どんなことに注意していますか。
    (答)よく勉強して賢くなり、よく運動して身体を丈夫にするように注意しています。

 三、(問)人は学問をして多くの知識を得ることも大切であるが、
       善い人物になることは尚更大切である。其の心掛けをお話しなさい。
    (答)身体の健康に注意し、徳行を修め、知能を磨くことに心掛けています。

 四、(問)偉い人になるには、学問さえ出来ればよいでしょうか。
    (答)いいえ、徳行が大切です。

 五、(問)貧乏でも学問のあるのと、金持ちでも無学なのとは、
       どちらがよいでしょうか。
    (答)貧乏でも学問のある方がよいと思います。

 六、(問)きたない服装(みなり)の老人が道端で病気のため苦しんで居った。
       丁度学校へ行く途中通りかかったとする。其の時はあいにく学校の
       始まる時間が近づいていた。その場合にはどうしたらよいでしょう。
    (答)ほかの人に此の出来事を話して、助けてやる様に頼んでから
       学校へ行きます。

 七、(問)道でお金を拾ったとしたら、あなたはどうしますか。
    (答)近くの交番か、派出所か、警察署へ届けます。

 八、(問)道に金が落ちていた時、次の中でどの行いが最もよく、
       どの行いが最も悪いと思いますか。
    (1)その金を見ないふりをして通り過ぎる。
    (2)その金を拾って自分のものにする
    (3)その金を拾って困る人に与える
    (4)その金を拾って交番か派出所へ届ける。
    (答)最も善い行い(4)、最も悪い行い(2)

 九、(問)貯蓄とは、どういう事ですか。
    (答)不必要やぜいたくの事に金を使わないで、入用の時に使う
       たくわえをすることです。

 一〇、(問)次の事はよいですか悪いですか。又そのわけは。
     (1)重い病人に「医者は大丈夫といった」と、うそをいうこと。
     (2)他人の金を盗んで貧乏な人に施すこと。
     (3)年老いた親を家に残して外国へ出稼ぎすること
     (答)
     (1)よいです。病人に安心させるから。
     (2)悪いです。盗まれた人がめいわくするから
     (3)悪いです。
        親に心配をかけるし、孝養をつくすことが出来ませんから。

 一一、(問)神様や仏様の前で敬礼するのはなぜですか。
     (答)敬い尊ぶからです。

 一二、(問)運動競技の場合に、正しく全力をつくして負けたのと、
        てだてを選ばないで勝ったのとでは、どちらがよいと思いますか。
        そのわけをお話しなさい。
     (答)正しく全力をつくして負けた方がよいと思います。
        運動競技は身体の健康をはかる為に行うので、
        ただ何でもかまわず勝ちさえすればよいという
        わけのものではありませんから。

 学年を問わぬ、「修身」一般の設問だ。
 知識より行為・徳行が重んじられ、お金のネコハバは良くない事とされ(今でもアタリマエの話だが)、遠方への出稼ぎよりも親の近くで孝養をつくすことが求められている。

 運動競技の勝負に関する設問への回答例は興味深い。運動競技と雖も勝敗を決める以上、手段を選ばず勝ちに行くべきだ、と教えていたら、日本は戦争に負けていなかったかもしれない(そんな国に住みたいとは思わぬが)。 

次は「礼儀作法に関する試問」