「子供そば」チラシで76万9千おまけ
米のメシにおてんとさま、そして古本は、どこへ行ってもついてくる。
先日(2019年8月12日)、「信州戦争資料センター」が行った展示会を見に行った。
「戦争ト玩具」と題されたそれは、「ネタ度の高さ」で、驚愕と嫉妬。さらに総督府で野積み山積みとなり、顧みる者さえいないネタ(と予備軍)への慚愧の想いが入り交じり、いい歳をして舞い上がってしまう。
観覧者が着ている「はだしのゲン」Tシャツの写真を撮らせてもらったり(ありがとうございました)、主催者を質問攻めにしてしまうなど、呑んでもないのにヨーやったモノだと思う。
夕方近くになり、呑む店を探しがてらに、「権堂」なるアーケード街を歩いていたら、古本屋があり、地元の映画館(相生座)や商店のチラシを見つけてしまう。安いものではないが、旅の土産物と思えば一興と買ってくる。
その中にあったのがこれだ。
「子供そば」チラシ
新年初頭の巨弾!
剛健なる第二の国民を造る
子供そば
子供うどん
たかがお子様用麺類に、えらく大仰な事を云うもんだ。
文面は尋常小学の低学年でも読めるように、読本みたいなカタカナ書きになっている。雰囲気を味わっていただきたいので、タテヨコ変換だけやり、あえて仮名遣いはなおさないことにする。
サァ元気に読んでみませう!
オボツチヤン
オヂヨウチヤン
ミナサン ノ オナジミノ
ノラクロ ト ミツキー ガ
コンド カワイイ オセイロト
カワイイ オドンブリ ヲ コシラエテ
コドモソバ ト
コドモウドン ヲ ハジメマシタ
ドウゾ カワイガツテ クダサイ
オネガイ シマス
ゴンドウ オカザワヤ
ノンキナ トウサン
ツメタイノモ
アタタカイノモ
一ツ 五セン ヅツ
カワイイ オセイロ ト オドンブリ
大日本雄弁会講談社が、いまさら何か云ってくるとは思わないが、「ミツキー」の元締めはちょっと怖い(『兵器生活』なんて誰も読んでないから心配ご無用、なんてホントの事を云ってはいけません)。
画を拡大してみよう。
オセイロ
「オセイロ」です。
蓋に「日の丸を掲げて突撃する兵隊さん」が描かれ、側面に「桃太郎」「のらくろ」「うさぎ」「たぬき」そして例のネズミ(そうは見えないが)だ。
まさか漆器ぢゃあないですよね(笑)。
「オドンブリ」も似たようなもので、
オドンブリ
「飛行機」「大砲」「のらくろ」「うさぎ」に、例のネズミ(ウォルト・ディズニーが激怒しそうだ)が描かれているようだ。
メニューに載せ、チラシを出すわけだから、この食器がそれなりの数量あった事は確実だ。画と現物に、多少の相違はあるにせよ、(無許可)キャラクターグッズとして貴重なものだろう。
どこかの骨董屋か、郷土資料館、あるいはコレクターの手許に一揃いくらい残っていても不思議ではありませんね。
ガキ、もといお子様が「食べたい」と云っても、サイフの口を開くのは親だ。"意識高い系"親御さんを呼び止めるため、ごていねいに栄養分析表が記載されてある。
栄養分析表
ついたコピーが、
一個に
これ程多量の
栄養素
こうやって栄養素で訴えるのは立派なモノですが、この成分量は「そば」「うどん」どっちなんでしょうね…。そこは「ノンキナ トウサン」だから問題無いのか。
と云うわけで、
ハハのんきだね〜♪
(おまけのおまけ)
この店の「昭和十年正月改正お値段書」も入手している。
召上がりもののデパート
召上がりもののデパート
献立を百貨店になぞらえ、値段の順に階層分けがされている。五階建ての屋上庭園(塔屋)つき。立派なものです。
今回の「子供そば」「子供うどん」が塔屋で「金五銭」。おなじく「金五銭」で食べられるのが、
高等きしめん
しのだ
何が「高等」なのかは聞かないでもらいたい。
階層が下がるにつれて値段は上がる、タワーマンションとは逆向き?なのが面白い。
他のメニュウを見ていこう。主筆はソバ屋には行かないため、品書きの説明は出来かねる。各自想像されたい。
「金八銭」
もりそば・かけそば・もりうどん・かけうどん・あつもり
「金十銭」
中盛・中かけ
「金十二銭」
大もり・大かけ・ねぎ南蛮・「元祖 満洲そば/うどん」・山かけうどん・煮麺(にゅうめん)
「金十三銭」
自慢 ざるそば
「金十五銭」
名古屋うどん・みすずうどん・花まき・彌栄(いやさか)そば・カレー丼・珍味 そばとろ
「金十七銭」
天なんばん
「金十八銭」
玉子とじ・月見そば・そばがき・釜揚うどん
「金二十銭」
御弁当
「金二十三銭」
天ぷらそば・五もくそば・おかめそば・あんかけ・名物 鍋やき・回天やき・並天どん
「金二十五銭」
玉子丼
「金二十八銭」
しっぽく・鴨なんばん・カレー南蛮・天とじ
「金三十銭」
おた巻むし・茶碗むし・御膳そば
「金三十三銭」
親子そば・上天どん
「金三十五銭」
親子どん・茶そば
「満洲そば」と、ラーメン・中華そばの関係が気になるところだが、不明としか書きようがない。ダシが違うんでしょうね。もう、「カレー丼」「カレー南蛮」があるのも興味深い。
親子丼が一番高額な料理なのに驚く。玉子丼も良い値段になっていて、鶏肉・玉子のステイタスの高さがわかる。茶そばの地位も今の目で見ると不思議に感じるが、今でも和食のお店が「茶そば」を置いてあるのを思えば、高級品だったのでしょう。
「カツ丼」を始め、「肉」を押し出した品目が無いのにも注意すべきだ。戦前日本人の栄養事情の一端が垣間見える(ような気になる)資料なのです。