「クミタテ兵器」で(まもなく)79万5千おまけ
今回は、骨董市で買ったペーパークラフトの大砲だ。
(先にお断りしておきますが、もったいないので組立てたりはしていません)
クミタテ兵器
本なら「表紙」にあたる紙の下側に、「クミタテ兵器」と商品名が記され、紙面のここかしこにセールスポイントが書かれている。
右書き・左書きが混在していて面白い。書く方も読む方も気にしてないとしか考えられない。実際のところ、右からでも左からでも良いが、まず2、3文字目で追ってみて言葉になっていなければ、逆から読んで行くだけの事で、回文よろしくしまいまで逆から読もうとする必要はまったく無い。
児童の頭脳と技術を考慮して出来た科学向上資料
考案 小林欣朗先生 意匠 冨永一敏先生
ずいぶん大上段に構えたものだ。
脚が一本なので三八式野砲がモデルなのだろう。大砲らしからぬ素朴な画がある意味凄い。プラモデルの箱画よろしくカッコよく大砲を描いてもよさそうなものだが、それでは出来たモノとのギャップが大きくなってしまい、組み立てた児童、カネを出した親御さんからの文句が避けられず、教育に悪いと云うことか。
「実物組立図」と記してある、この画なら、多少ゆがんで組み上がったところで気にはならないだろう。
すてきな大砲
楽しい組立
貯金函にもなります
「貯金函(箱)にもなります」がイイ!
捨てるばかりの空き箱空き瓶も、「貯金箱」と云われれば無下に放り投げるわけにも行かぬ。土産物屋に並ぶ「いやげ物」も、「貯金箱」と記してあれば、堂々「実用品」として贈答の御用を務め、後先はさておきビミョーなる微笑を以て受け取らざるを得ない。
「貯金箱にもなります」を、何かの末尾に付け加えてみて下さい。ことばの威力がわかります。
春は曙 貯金箱にもなります
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス 貯金箱ニモナリマス
あやまちは くりかえしません 貯金箱にもなります
光あれ 貯金箱にもなります
前にある言葉が重く厳粛であればあるほど、膝がカックン崩れ落ちるおかしみが、しみじみ感じられるのだ。
誰にも解るやさしい組立て方と大砲の性能が中にあります
こう云う事が小さく書かれているのも不思議な感じがする。しかし右書きなのに何で左詰めにするかなぁ…。
「やさしい組立て方」は後に廻し、まずはこの商品の説明だ。
(例によってタテのものをヨコにして、仮名遣いなどを調整してあります)
愛国組立兵器貯金函
日本ノ少年ハ誰デモ兵隊サンガ大好キデスネ!!
体ヲ丈夫ニシ良ク勉強シテ世界一強イ兵隊サンニナッテ下サイ。今私達ヲ護ッテ暑サ寒サノ中ヲ正義ノ為戦ッテイラレル兵隊サンニ感謝シ其ノ兵隊サンガ毎日使ッテイル兵器ヲ自分ノ手デ組立テ見マショウ。
作リ方ハトテモカンタンデス。此ノ紙ノ裏ニ図解入リデクワシク書イテアリマス、又表紙ノ裏ニコノ兵器ノ威力ヤ知識ガ書イテアリマスカラ作リナガラオボエマショウ。
出来上ッタラ毎日一銭ヅツデモ貯金シテ学校名学年姓名ヲ書キ入レコワサズソノ儘献金シマショウ。
ソウスレバ兵隊サンノ使ッテオラレルコウシタ兵器ガタクサン出来ル訳デス。
「表紙」には「貯金函にもなります」と書いてあるが、商品説明は「愛国組立兵器貯金函」。なります、どころかそのものになっている。
日本の「世界一強イ兵隊サン」、輸送船もろとも海没したり、餓えて倒れて祖国に戻ることが出来なかった者が少なくない。兵隊を動かす側が世界一とは云わずとも世界レベルでなければ「世界一強イ兵隊サン」は成立しない。
国民皆兵の建前、兵役の義務があったとは云え、少年はみんな「兵隊サン」好きで、将来も「兵隊サン」一択と見なすのはいかがなモノか。おおっぴらには云えなくても、兵隊嫌いな少年だっていたと思う。
「やさしい組立て方」は、「作り方」として描いてある。
作り方
作リ方
リンカクノ線ニソッテ、キレイニキリトッテ下サイ。
……線ニハ、カルクナイフメヲアテテ、上手ニオッテ下サイ。
線デ書イテアル、二枚一組(註:無地の紙に白描したものがオマケで付いている)ハ皆サンデ、クレオンカ、絵具デ自由ニ美クヌッテオ作リ下サイ。ソウスルト絵ノ練習ニモナリマスシ、自分デ描イテ、自分デ作ルト、トテモ楽イモノデス。
(2)ヲ(1)ノ下ヘハリマス
(3)ヲ先ズ(5)ヘ通シマス(6図)ソシテ輪ヲハメ(7図)(4)ヲカブセマス。ソウシマスト、トテモ輪ガ良クマワリマス。
砲身ハ鉛筆ヲ入レテグルグル廻シハリマストマルクハレマス。
砲身ヲサシコム
「組立」がやさしいのではなく、説明書きを書くのがやさしいだけなんぢゃあないのか、と思わぬでもない。
砲身をキレイに丸めるのが難しそうだ。これを「のり」で接着しなければならないのはツラいです。
そして、「貯金函」なのに、どこから硬貨を入れるのか記載されていない。「(適当なところに硬貨差入口をつければ)貯金函にもなります」が正しい文なのであった!
部品はこうなっている。
色のついてないものが一つオマケで入っている(画像は略す)。
タイホウ1
砲座(1)(2)
タイホウ2
車輪、砲身、防楯、四角いのは車軸にあたる部分。
2の裏面
楯の裏に名前を書き込むところが白抜きされている。車輪は厚紙(といっても菓子箱に使われているレベル)一枚であるから、「良クマワリマス」とあっても「ごろごろ〜」なんて遊んでいるとスグ壊れてしまいそうだ。
紙一枚の大きさは、長辺が新書のタテより5ミリほど大きく、短辺は新書のヨコより1センチちょっと大きいくらいである。このペーパークラフトの出来上がりの大きさが、さほどのモノではないことが想像できよう。「貯金箱にも」なる部分は、大砲の薬室と脚くらいしかないから、硬貨を詰められるだけ詰めたところで幾らになることやら…。
「表紙」?の画が素朴に見えながら、実はキチンとペーパークラフト現物を描いていることが、車輪の描き方でよく解る。「実物組立図」はダテじゃあない。
そして「大砲の性能」だ。
陸ノ花形野戦砲
陸ノ花形野戦砲
此ノ大砲ハ野戦砲ト言イ山ノ多イ今度ノ事変デハ非常ニ活躍シテ敵ヲ悩マシテイマス。其ノ使命ハ歩兵ノ進ムノヲ後ノ陣ニ在テ助ケタリ亦敵ノ陣ヤトーチカ・城壁ヲ木葉(ママ)微塵ニ粉砕シマス。
砲身ノ長サハ三十口径デ初速(初メノ速度)ハ一秒間ニ六百米カラ七百米モ飛ンデ行キマス。口径(口モトノサシワタシ)ハ七糎半ノガ最モ多ク使ワレテイマス。射程距離(タマノトドク処迄)ハ一万米カラ一万四五千米位デス。
砲車ノ前ニ前車ト言ウモノヲ付ケテ射撃ヤ行軍ニ必要ナ弾薬ヤ道具ヲ入レテ馬カ牽引車ニ引カセマス。発射速度(弾ノ出ル早サ)ハ一分間ニ六発カ七発ガ普通デス。
大砲ニモ色々種類ガアリマスカラ次々ニ作ッテ見マショウ。此ノ野戦砲ハ作リ方ヲ良ク見テ輪ガ廻ル様ニスルノデス。
歩兵の後方から援護するだけでなく、必要があれば前線に出てトーチカと撃ち合うのだ。
兵器の性能秘匿がやかましく云われているはずだが、一般論として語られる場合なら具体的な数字を挙げても良いらしい。
三八式野砲の口径は7.5センチ。射程距離は8,350メートル、改造三八式野砲は11,600メートル。発射速度―「弾ノ出ル早サ」では初速と同じになってしまう―は毎分8から10発と、ウイキペディアには書いてある(笑)。
(おまけのおまけ)
解説に記された「今度ノ事変」の語と、「表紙」? の「マル公」マークで、この商品が価格等統制令施行(昭和14年)後に作製されたことまではわかる。しかし何時、印刷・販売されたのかは不明である。そこから先は、現物と一緒に骨董屋に引き取られであろう「紙クズ」(封筒や梱包材に使った新聞紙など)から推測するしか無いのだが、並んでいたのは現物だけなので、「昭和前期」、「昭和戦中期」がいいとこである。
昨今「キャッシュレス」が方々で推奨されるようになり、電車・バスの運賃は、テレビ・クーラー・冷蔵庫・電子レンヂを持たぬ「兵器生活」主筆ですら、交通系ICカードを使うまでになっている。現金が用いられなくなれば、硬貨を入れる貯金箱は、実用性の建前をはぎ取られ、ただの置物に成り下がることになる。
紙の書籍が、図書館の貴重書庫でしかお目にかかれない時が来れば、「貯金箱」が死語になるのは必定だ。
(おまけの余談)
久しぶりに兵器の話が出てきたのだが、兵器の要目を記した本・雑誌の類はことごとく本の山に埋めてしまった。要目は記さずとも内容に影響は無いのだけど、寿司折りに「バラン」(仕切りに使う笹の葉を山形に切ったもの)が無いと物足りないように、兵器の話で要目が抜けているのは寂しい。
と云うわけで、ウィキペディアから抜き出しておいたのだが、自称とは云え「印度総督」を名乗る者がそれでイイんですか? と読者に云われたヨーな気になり、新宿西口ブックファーストまで足を運び、光人社NF文庫の棚を見に行ったのではある。
目当ての『大砲入門』は見つからない。
ネット書店・古書店を探せばナンボでもあるのだろうが、取り寄せると不在の時に届いて郵便局まで行かねばならず、不在郵便受取窓口は営業時間短縮で、確実に引き取れるのが週末になると、更新に間に合わない。
質を高めるため、更新を休んでしまうやり方はある。しかし今回必要なのは「だいたいのところ」を語る数字に過ぎず、その出所が全体の出来上がりを左右するわけでも無い。むしろ定期の更新を完遂させる方が大事だ(書き手自身の評価には多大の影響をもたらすが、浮かぶ瀬が無いのは今に始まったことではない)。
と云うわけで、ウィキペディアでやっつけてしまう。読者諸氏にはお詫び申し上げる次第。
(おまけの世迷い言)
リツィートが千で「炎上」と慌てふためくのは恥ずかしい(曲解)と云うカキコミを見る。ひと月のアクセスカウンター(遠からず死語か…)のアガリが、せいぜい千止まりの「兵器生活」主筆は何を思うべきなのだろう…。