三井信託「大保管金庫」で81万おまけ
6畳ひと間に台所。便所はあるが風呂は無し。冷暖房って何ですか? な一室借りて25年(くらい)。西新宿の片隅家賃は低廉。会社最寄り駅までは地下鉄一本乗り換え無用。近場の銭湯壊滅が―ひとつあるが、裸で濡れた階段を浴室まであがるのがイヤで行かない―玉に瑕。出先・帰りに風呂屋に寄れば、人の体面保たれる。
ひとり暮らしの気楽さで始めた「兵器生活」23年。アクセスカウンタ81万無事突破(一日何万何十万読まれるトコロもあるソーですが)。それだけワタシも生きてきた(税金は払っているから、ムダに生きているとは云えまい)。ネタにした、これからする(かもしれない)/しようの無い、古書古紙小物ガラクタと、買った新刊書籍が溜まりにたまって「ゴミ屋敷」。世間に流れる「ゴミ屋敷」「孤独死」記事が、我が身の末路を見るヨーで、元気なウチに書いておく、特殊清掃(そうじ)の人よ、ありがとう。
新刊書店に行くと、面白そうな本が週に5冊10冊と並んでいる。全部買うとカバンに収まらないし重くてイヤになるから、2冊3冊に留める。週に2冊3冊読めれば上等(マンガなどは別)。次の週末に行けば、買わずに残した読みたい本に重ねて、また面白そうな本が新たに5冊10冊と置いてあり、また2冊3冊、文庫新書だけなら4冊5冊買ってしまう事もある。読み終えた本は云うに及ばず、これから読む本、まだ読むつもりでいる本、買ったことも忘れた本が、寝場所だけはつぶさぬよう部屋の中に、ガンジスでの河原で死者を焼く薪のように積み上がっていく(写真省略)。何とかしなくちゃあなぁ…とは思う。
しかし、本の始末を考える・片付ける時間があるのなら、本を読んだり町に出ね方に使いたい。休日は本をカバンに入れて出かけてしまう(部屋にいたくないのだ。夏場は特に!)。持って出た本は喫茶店で読み進めるが、コーヒー一杯で読み切ることは出来ず、夕方呑めば部屋に戻ってバタンキューで読書は進まない。本屋に入れば、面白そうな本が店先に3冊5冊とあるから、ドーしても2冊3冊買わずにはおらない。「兵器生活」のネタも仕入れる必要だってある。帰宅すると積んだ山の一部が、1センチくらい高くなっている。
今の住まい自体に不満は無いが、エアコンを設置出来るだけの―電器屋さんが取り付け作業できる空間含め―場所は欲しい。アタマと足がつっかえないよう、足元枕元にも空間は欲しい。埃及(エジプト)の木乃伊みたく手を組んで寝なくてもいいくらいの、寝床と本とのスキマは欲しい。
ゆとりある、とは云わないが、空間は欲しい。本が積めるから。
「揺れてる…地震?」事務所の人たちが少し騒いだ日、帰宅すれば本雑誌の山で表層雪崩。落ちかけた本を積み直していると、買ったことも忘れていたパンフレットが出て来る。
そのひとつがコレだ。
大保管金庫 御案内
三井信託株式会社(大正13年創業。ウィキペディアを見ると、戦後、信託銀行となるが、2000年に中央信託銀行と合併して中央三井信託銀行となる。この時、存続会社が中央信託銀行となったとあり、現在の三井住友信託銀行とは直接の関係は無いと云う)の「大保管金庫」のパンフレットだ。大金庫の丸扉の中に描かれているのは、昭和4(1929)年竣工の三井本館で、重要文化財になって現存している。
2023年9月撮影
部屋が片付かないので、せめて保管サービスのパンレットを見て収めた気になろうと云う趣向なのだ。馬鹿である。
皆様の御貴重品保管には世界有数の安全金庫
保護金庫面積 九拾六坪(96坪)
包装預り金庫面積 九拾七坪(97坪)
保護金庫内貸金庫数 六千参百参拾八函(6318函)
安全、便利、料金低廉
御序(ついで)の節御来観下さいますれば親しく御説明申し上げます
「世界有数の安全金庫」の扉は、米国モスラー社製。三井本館には、銀行の大金庫用の「厚さ21インチ(53.3p)重さ50t」を始め、大小24個の金庫・書庫扉が設けられたと、この建物の7階のブレートに書いてある。金庫の本質は「頑丈な扉」だったのか!
7階書庫の扉(現在は使われてない)
近所に立ち寄ったついでに来てくれれば、懇切丁寧にご説明します、とある。何かのついでに貸金庫! どんな客層なのか。平民庶民サラリーマンの想像を超えた世界。怪人二十面相に狙われる側であることだけは間違い無い。
この扉を開くと何が見えるのか(休日なので不明)
パンフに戻る。
貸金庫(保護函)
鍵 各函毎に異なり居り他人は開閉不能
お入れになる物
諸證券、宝石、貴金属、諸書其他重要書類
開閉
営業時間中は一日何回でも御自由
客用秘密室
御収蔵品御整理の為め十六室の設けあり
料金
壱ヶ年八円より(裏面御参照)
ロッカーみたいな形体だ。カギが「各函毎に異なり」と、わざわざ記している。他人は開閉不能だけど、たぶん管理者はマスターキーで全部開けられるんだろう。空想科学小説に出て来る発明家・科学者の「設計図」なんかもこんなトコロに収まっていそうだが、図面が入る大きさなのだろうか?
営業時間中は何度でも開閉自由とはあるが、休日・時間外は絶対開けないと書いてあるのに等しい。「火急の時」―土日祝日深夜早朝―に中のモノが必要になったらドーするのだろう。
「客用秘密室」と云うのが魅惑的である。整理の場に立ち会いたい(眼福になるモノに限る)。
貸金庫
包装預り(荷物預り)
保管金庫
御預り品の永年保存に最適の温湿度を保持する完全設備あり
御預り品
書画骨董品、衣服、其他貴重品類 御預り品は厳重に御封印を願います
御預り品の入替
営業時間中は御自由
料金
参ヶ月最低参円より(裏面御参照)
こっちはデパート古書市、レジカウンター奥の商品預かり所の雰囲気がある。「厳重に御封印を」とあるから、入れたらそのまま。なまもの、薬品・火薬類、臭いのあるモノはダメとは書いてはいないが、ダメなんでしょうね。ダメとは書いてないから預かれ、と無理難題を吹っかける客は丁重にお帰りいただくのだろう。
包装預り
白黒写真なので、高価なモノのようには見えない。向かって左側二段目には、風呂敷包みらしきモノすら見える。タテに紐をくるりと廻し、封印の札をつけてあるようだ。
裏面(料金表)
料金
貸金庫(保護函)
※表は作成しなおした。
貸金庫のサイズが尺貫法である。金庫の扉が米国製だから、中の棚もアメリカから持ってきても良さソーなもの。もとはヤード・フィート・インチ表記だったものを、換算しているかも知れない。1尺・1フィートはともに約30センチだが、寸・インチは10進数と12進数の差が出て計算が面倒だから、換算はしない。
料金は壱ヶ年分前払
開閉は一日何回にても無料
「種類」1から10まで番号があるが「7」が無い。ラッキーナンバーとして上得意のため取っておいてあるのか、すでに三井の会社で使用中なのか。
包装預り(荷物預り
最低料金参ヶ月一個に付参円前払
容積一立方尺に付六ヶ月五円三ヶ月参円それ以上一立方尺又は其端数を増す毎に壱円累加
御預り品入替手数料一回毎に五拾銭頂きます
一個あたりひと月1円換算の最低料金と、容積も尺貫法なので、一辺約30センチとして、その立方体分の容積利用料がこれも月1円弱。入れ替え一回50銭は今の千円千五百円。棚に上げるのは三井の人がやってくれるのか。こちらには秘密室がなく、封印願いますだから、梱包した物品を持ち込むようである。
御不審の点は保護函係へ御問合せを願います
問い合わせてみたいのは山々だが、今ではやりようが無いし、あったらあったで営業妨害にしかならぬ(笑)。
東京市日本橋区室町二丁目一番地一
三井信託株式会社
(電話番号等は略)
貸金庫は、一番深くて1メートルくらい。本を入れるには足りない。保護庫なら一番大きい区画?で 8尺あるから2.4メートルちょっと。幅奥行きも2メートル程度ある。頑張れば部屋半分に積み上げたモノが収まるヨーな気がしてくる。
問題は価格で、年に650円、月65円(12分の1では無い)。戦前値段3千倍で年額195万円、2千倍でも130万円だ。包装預かりはドーか。1尺立法の包みで、2メートル立法程度の容積を埋めると仮定する。しかし100を30で割ると余るから、一辺は30センチ×6で180センチにしてしまう。6の三乗で1立方尺の箱が216個収まる。ひとつ月1円で216円。容積占有代もひとつ月1円だから432円となる。129万6千円か86万4千円。貸金庫よりは安いが、どちらも庶民向けではない。アパートもう1部屋借りるか、貸倉庫・トランクルームを利用するのが現実的と云える。
(おまけのおまけ)
今回は、ネタの現地・現物が現存しているので、久しぶりに日本橋に足を延ばす。地下鉄降りてテキトーに歩けば良いだろーと、高島屋、丸善の方に行くが見つからず。京橋までは歩きたくないなぁ…と思い、丸善でハヤシライス(ポークと書いてあり驚く)喰って気を落ち着かせる。あれは三越の隣ではなかったか、と思い出す。日本橋の北側だ。南側を歩いて見つかるわけが無い。
重要文化財になったのなら、地下の金庫室も見られるんぢゃあないか、と期待していたのだが、本館は三井記念美術館のある7階しか、一般人は入れない。三井住友銀行と三井住友信託銀行は入っているから、ここで口座を持てば客として堂々窓口までは入れるはずだ(営業時間に行けばヨカッタと今にして思うが、平日は会社だから立ち寄れないし、写真なんか撮ったら警備員に怒られてしまいソーであるからやらない)。
建物の前で、タキシードとウェディングドレス姿のカップルが、カメラマン・撮影助手を何人か連れ回し、写真を撮っているのを見る。結婚式の記念写真なら、親族友人が取り巻くはずだから、広告宣伝写真あるいは「写真だけ婚」と云う事か。
三井本館の隣は三越で、裏手は日本銀行で、日本の近代建築の名品が並ぶところと云って良い。
手前の影は日本銀行、奥の塔は三越
東京のビジネス・センターと云うと、「丸ノ内」の印象が強いのだけど、江戸時代に遡れば日本橋が商業の中心である。三井は順当に日本橋、新興の三菱は丸ノ内を(払い下げの上)開発と、棲み分けていたことが実感出来る。
丸ノ内、日本橋界隈も高層ビルばかりになって変貌した。渋谷駅まわりも壮絶な事になっていて、新宿駅も小田急百貨店が取り壊されつつある。新宿駅が様変わりしても、わがアパートは「登録有形文化財」になるくらい、末永く健在であってもらいたい。
(おまけの余談)
部屋・台所・廊下に本が積み上がっているけれど、6畳の部屋がもうひとつあれば、「山」も机の高さくらいになり、本棚押し入れに片付いてしまうかも知れない。「本が山積みになっている」は、世間へのハッタリにはなるが、愛書家・蔵書家の方々に向けては、収納場所を増やす努力を怠っているダメな奴です、と公言するヨーなものなのである。