「電気雑誌」の熱意に82万4千3百おまけ
「ネタが無いなら高円寺に行け」
心の声に導かれ、古書会館で紙屑漁りコレを買う(300円)。
電気雑誌『OHM(オーム)』大正7(1918)年1月号(30銭)
版元のオーム社は、理工学の本を買わない・読まない自分でも、その名を見ている有名出版社。こんな雑誌を出していたとは知らなかった、と云うよりも、これが社名の由来だったのかと驚くばかり。創業大正3(1914)年の老舗であります。
「電気雑誌」が目新しい。
表紙の生成AIがこさえたヨーなウソ臭い写真は、
今年の花時の上野公園を飾る電気博覧会の予想
とある。
電気博覧会は3月20日から5月30日まで開催された由(20日と紹介しているページが多いが、神戸大学図書館デジタルアーカイブ新聞記事文庫で公開されている、『報知新聞』記事『電気博の回顧』の記述に従う)。まだ関東大震災(大正12(1923)年)前の事。欧州大戦(第一次世界大戦)はまだ続いていて、この年の11月にヨーやく休戦する。ここに写った壮麗な建築物は震災で崩れてしまったのだろうか。それとも戦災で焼けてしまったのか(高度経済成長期に建て替えられた、と云うのが一番悲しい気がする)。手前の池は今もある池なのか、メイン会場の不忍池なのか、それすらも分からない。「予想図」だから、会場にコンナ建物は無かった可能性だってある。
「見逃す勿(なか)れ此の壮観! 今から時間と旅費を用意して」のコピーが正直で泣かせる。飛行機も新幹線も高速バスも無い当時、地方から赴くにはちょっとした旅行になってしまうのだ。
その下に小さく、「若し自分が来る暇がなければ、附近の小中学生の団体観覧を勧誘せよ。未来の国民に電気思想を吹込むは永遠富国の長計。」と記されている。「電気思想」が何か知る由も無いが、電灯くらいしか思い浮かばぬ民衆に、電気の有り難さを知らしめよう、親しませようとする意思は分かる(それが無いとリチウムイオン電池を分別せずに捨ててしまうヨーな人になってしまうゾ)。
この雑誌の読者である電気技術者、電気機器製造・販売者、それを目指す学生本人が、電気博覧会に行く時間が取れないのなら、地元の小学生・中学生(旧制だから今の高校生まで含む)を見学に送り出せと云う。旅費滞在費まで支援してやったら美談、正しき選良意識と云うものだ。
「電気雑誌」の中身を一瞥したとこで、「電気思想」無き我が身だ。面白そうな記述を探すくらいの事しか出来ぬ。雑報に「電気散髪機」「電気剃刀」が発明された、なんてモノがあるが、説明文を理解するのが面倒なのでそれはよして(汗)、表紙の隅にあったコレを紹介しよう。
人は本誌を利用せよ
真に広告を利用する
本号印刷部数 七千六百部
この雑誌の印刷部数が記されている。7600部は出版業衰退が進む2026年時点の目で見れば驚くに値する。7600人の読者―借りて読む者も含めれば1万人近くなるのではないか―があるのだから、広告効果はバツグンと云いたいらしい。
広告を見ても、載っている製品・商品が専門的に過ぎ、中身を語れないのだけど、
2500キロ単相油入水冷式変圧器
「日立製作所」が、久原鉱業株式会社の「工場」扱いになっているのは興味深い。枝葉を拡げる大木(たいぼく)も、芽生え若木の時はあったのだ(ト、未だ『芽が出ぬ』我が身を歎いてみる)。
広告下に、「本誌は毎号実際の印刷部数を明記す。我邦電気界に於て斯の如き印刷部数を有する雑誌他にありや」とある。一番刷られていると胸を張っているわけだが、当時の電気界向けの新聞雑誌がいくらあり、何部刷られていたのか無勉強にして知らないし、調べて解るモノでもあるまいから、真贋の程は解らぬ。
裏表紙の広告は、戦前・戦中の雑誌広告でおなじみの「マツダランプ」。
天上天下普(あまね)く照らす
マツダランプ
一個毎に烙付(やきつ)けられたるジーイーの商標(マーク)は偉大なる学者の数十年に亘る実験(じっさいのしけん)と巨額(たくさん)の資本の有する信用の保障也(ほけんであります)
製造元 神奈川県川崎町
東京電気株式会社
まだ川崎市が出来ていない(市政施行は大正13−1924年)!
広告の画は、ヘットランプも誇らしい鉱山労働者の勇姿。坑道を征く「電車」、竪坑を急ぐ「エレベーター」も描かれ、鉱山の下から上まで電気の世話にならぬトコロは無い! と訴えている。ふりがなの付け方が、まだ江戸・明治を引きずっているトコロも楽しい。読者は知的階級なのに。
裏表紙のヨコにも「本号印刷部数 七千六百部」が謳われ、
広告の効力は印刷部数に正比例す。本誌広告の効力の大なる言わずして明かなり。商機に敏なる人は必ず本誌を利用せらるべきを信ず
の文言が踊る。広告が効くのは読者(商品・サービスの潜在顧客)に届くか否かだから、印刷部数より実売部数だろうと、月のページビューが500に届かぬ「兵器生活」主筆が、野暮を承知で敢えて云う。
掲載された広告は、個々の製品を広く読者に告げるより、一番売れている雑誌に広告を出すことで、企業の存在を認知してもらう方向に重心を寄せたモノも少なくない。会社の名前と営業品目が羅列してある詰まらない広告がソレだ。開店記念や葬礼に並ぶ花輪と同じで、こんな雑誌に広告を載せるのだから信用出来る会社なのだローと思わせるのが目的なシロモノだ。図版は載せない。
広告ページ欄外には
此の広告を見て注文する御方はオーム社庇護のため是非『オーム広告を見て』と御記入を乞う
と記載されている。業界内、持ちつ持たれつなのである。
(おまけのおまけ)
九州電燈鉄道会社佐世保支店作歌の「電気節」をご紹介。「デカンショ節」の替え歌とある。
二十世紀は電気の世界 デンキ々々
電燈、電熱、電動機、ヨーイ々々電気界
手練手管のエレキを客に デンキ々々
かける芸者も電気技師、ヨーイ々々電気界
猫の電気で浮かれたお客 デンキ々々
内はモーターの火の車、ヨーイ々々電気界
「九州電燈鉄道会社」は、ウィキペディアの記事を見ると、博多電燈(明治29(1896)年設立)が発展した会社で、大正11(1922)年に関西電気と合併。関西電気は事業拡大を受け東邦電力に改名、「五大電力」(東京電燈・東邦電力・大同電力・宇治川電気・日本電力)の一つとなる。戦時下「電力国家管理」の圧力に抗えず、昭和17(1942)年に解散する。
「猫」は「芸者」の隠語。大戦景気で浮かれる会社重役・株主を横目に、現場技術者がヤケクソで唄ったんぢゃあなかろうか。
当時、「電気あんま」があったのかは知らない。
(おまけの余談)
「電気あんま」を説明する必要があるよなぁと思い、ウィキペディアの記述(あるんだよ、コレが!)を引く。
二人で行う遊びであり、一方がもう一方の股間に足を入れぐいぐいと揺らすものである。行う際に足を入れる側がもう一方の両足を掴んでよりしっかりと股間に足をあてがうことが多い。
エレキの「シビれ」を足裏の震動で表現したのか、電動マッサージ器の動作を模したモノなのか? 子供の遊びだけど、発祥は花柳界なんぢゃあないかしら。