Do It yourselfe(それくらい自分でやれ)

番外編


 「使うかどうか分からないモノは捨ててしまえ」てな話がブームになった背景には、「必要になったら買えば良い」と云う考え方があったはずである。ゆえに震災で「無いと困る」「あるに越したことはない」「品薄になりそうだから」と需要が喚起され、どこにでも売っているはずのモノが無くなる。
 遠からぬ(であって欲しい)復興の暁には、これらのモノが使われぬまま捨てられるか、いつまでも死蔵されるのかと思うと、実に「もったいない」。

 市中から消えたのが、一部の電池だ。家の片隅に忘れ去られていた大型の懐中電灯、そう云えばこのラジオ電池でも動くよね、と、単一、単二の電池が根こそぎ無くなってしまった。
 幸い我が印度総督府のラジオ−褒められた話ではないが、2011年3月12日に買ったもの−は単三電池二本で動き、手元にある小型LEDライトも、単三電池一本で光る。

 と云うわけで、単一・単二の電池が無くても生活には困らないのであったが、実家に電話をかけると開口一番「あんたの友達で電池持ってる人いない?」。
 嗚呼おっかさん!
 何軒かの店を廻ってはみたものの、あるのは単三・単四に、カメラか何かに使うモノばかり。総督府は停電区域外にあるが、実家はキッチリ電気が停まる。聞かなかったことには出来ぬ。ならば単三電池が使えるように工夫するしかあるまい。

 ロシアの民芸品じゃあないが、単三電池に皮を着せて、一回り二回り大きい電池用機器を使えるようにするアイデア商品がある。電池が無い昨今、こう云う便利グッズも売り切れてしまっているが、それを自分でこしらえてやろう! と決めたのだ。

 「社団法人電池工業会」のウェヴサイトに『電池の規格』が公開されている。
 単三電池:高さ50.5ミリ、直径14.5ミリ
 単二電池:高さ50.0ミリ、直径26.2ミリ
 単一電池:高さ61.5ミリ、直径34.2ミリ
 (寸法に0.5だ0.2だとあるのは、元々の規格がインチなのだろう)
 器具の電池入れを見ればわかるが、電池を固定しているのは、電極に接する金具である。ゆえに高ささえ規格に則ってさえあれば、直径が規格内に収まる限り、電池式の機器は動く。
 単二電池用機器は、単三電池をそのまま入れても良い、はずなのだが、現実には電池入れに出来る空間が、受け金具にかかる力を逃がしてしまって、電池が固定されない。単一用機器の場合は、そもそも高さが1センチも違うから電気が流れない。このへんをどうにかするのだ。

 まずは、直径だけ何とかすれば良い単二用「ゲタ」を作る。
 手近な材料として、台所に溜まっている割り箸を切り出す。電池の高さそのままに切り出すのではなく電極が上下に露出する長さ−2ミリほど小さく−する。
 プラスとマイナスの電極が、縦方向を支えてくれるので、木の長さは適当にやっている。

 切った木を、電池に巻き付けて行く。
 一時的なモノと割り切って、ガムテープに4−5ミリの間隔で部材を並べる。
 
 電池を置いて、木を巻いて行く。円筒形になるよう、木の数と間隔を調整する。


こんな感じになる
 
 巻き付けてカタチが出来たら、さらにテープを巻いて固定する。

 電池を抜けば、これで完成。機器への出し入れの際、外の皮がグラグラしてやりづらいが、電池の極が金具にちゃんと当たっていれば、実用上の問題は無い(はず)。


下の本は、本編とは無関係です。


 単一用の「ゲタ」は、もう少し面倒になる。
 単二同様、割り箸を切って巻けば良いと、模型用ノコギリで切り始めたのだが、単二が木の9本・10本で済むのに対し、単一は単純に円周だけに必要な木が、幅5ミリ換算で約21.5本必要になる。割り箸一膳分から、所定の長さの木は6本しか切り出せず、実家のライトは単一を四本使うので、余り物を活用するレベルではなくなる。部材の選定からやりなおしだ。

 と云うわけで、もう少しマトモなモノを考えてみる。
 本体−径のカサ上げ−は、単一電池直径の丸棒に、単三電池が入る穴を開けてもらい、しかるべき長さに切ってもらう。高さが10ミリ足りないのは、適当な金属で下駄を履かせてやる、と思案して、新宿の東急ハンズへ行く。
 売り場には幸い、直径30ミリで真ん中に径16ミリの穴の開いた「木筒」(長さ200ミリ)なる商品があり、同じ30ミリ径の銅棒(長さ10ミリだから、『円盤』ですね)もある。ノコギリ四回挽けば所要の四個が作れる、と喜び帰宅。

買ってきた材料の一部

 作業を始める。二十年ぶりくらいでノコギリで木を切るのだが、たちどころに、自分が「真っ直ぐ挽けない」人であった事をイヤと云う程思い知らされる。

これはあまりにも酷い

 新宿ハンズに戻り、改めて棒を買い直し、切断してもらうのは情けなさすぎるので、渋谷の店に行かなくては…と落ち込む。…が、「上下当たるのは電極だけ」の原理と、機械で切断してある棒の上下は、そのまま使える事実に気付いて立ち直り、とにかく四個切り出す。


四人はアイドル、では無い

 切り出した木の上側をヤスリで削る。水平に削れるわけは無いのだが、そこは「上下当たるのは電極」だから問題は無い。鉄ヤスリで削ったあとは、600番の紙ヤスリで磨きあげ、単三電池を入れて見る。
 …出るはずの電極が出ていない。


これは大問題だ

 筒を切る寸法を間違えていたらしい。せっかく四つ分の整形が終わったと云うのに、また下手くそな鋸挽きをやらねばならぬ。


切断終わる


 木の部が終われば、あとは銅の部との接合を残すのみとなる。
 瞬間接着剤でくっつける。衝撃に弱いので、落としたりするとあっさり木金泣き別れだ。


電池より重いかもしれない…
 
 これで完成だ。

 実家に出かけて「現地調整」する。
 単二のラジオは、電池入れに差し込む時、ちょっと手こずるが、入れてしまえばこっちのモノ。単二作戦は完了。
 単一の懐中電灯は、四本の電池を二本ずつ、プラスを上、マイナスを上にして入れなければならない事が判明し、現状では逆さにしたら、単三電池はスポリ落ちてしまうので、チラシを切って巻き、落ちないようにする。ここでスイッチを入れてみるが、灯りがつかない。径が足らないのが悪さをしているようなので、外皮の外にチラシを巻き付けて、点灯を確認する。


  

見てくれが大部情けなくなる

 木の側面も、ザラつきが無いよう磨いておいたのに、無意味になってしまった。どうせ紙を巻き付けるのであれば、木と銅のつなぎ目にガムテープを巻いて、木金の剥離を防いでおくのだったと今にして思う。あるいは内径30ミリのパイプを被せて、銅部分の絶縁も考慮した仕上げとしても良かったかもしれない。

 単一用「ゲタ」四個分の材料費は以下の通り。
 「木筒」273円×2=546円
 「銅棒」241円×4=964円
 部材の切り出しから出来上がりまで、半日ほどの仕事であった。
 安くはない銅無垢なんぞはよして、底にネジを埋め込んだ方が、木金剥離の心配もいらずで良かったなあ…と今頃になって改善点が出てくる。そのへんは、自分でもやってみよう、と思われた読者諸氏の創意工夫で、より良いモノをこしらえてもらえれば、と思う次第である。