深い溝−1940年型軍用機拾遺

あるいは「他人の褌で相撲を取る」一例


 「1940年型戦闘機はどうなるか?」と云う航空雑誌記事と、それに対する読者の意見を以前に紹介したが、これらの意見はあくまでも一航空ファンのものであり、実際の軍用機スポンサーである軍当局の考えとは別ものであったことは云うまでもない。
 また軍当局自身はどう云う軍用機を求めていたか、と云う事については主筆の勉強不足により、まったく触れる事が出来なかった事も事実である。


 旧式兵器勉強家BUN氏が、氏のページ「真実一路」において「性能標準」(だけ!)から見た海軍戦闘機」と云うタイトルで昭和5年〜18年における戦闘機性能標準を最近明らかにされた。内容そのものは直接氏のページをお読みいただくものとして、以下私見を述べる次第である。


 「航空機種性能標準(修正第一案)」では、戦闘機を「艦上戦闘機」「局地戦闘機」「戦闘機兼偵察機」「水上戦闘機」「水上戦闘機兼爆撃機」の5つのカテゴリーに分け、それぞれに要求される性能=性能標準を記述してある。記載事項は「機種」(5つのカテゴリー名)「用途」「座席数」「特性」「最高速力」「航続力」「機銃」「通信力」「主用高度」「記事」である。

 あれだけ「空」誌上で読者が侃々諤々の議論を展開していた「単発」「双発」などという記述は影も形も見られないのである!発注者である軍令部から見れば、所定の性能を達成していれば(基本的には)形態などどうでも良いと云うことなのだろう。確かに我々の生活を振り返ってみても日々の食事は栄養があって、腹が一杯になればパンでも米飯でもどうでも良い話なのである。

 この資料で形態を間接的に規定する部分は各戦闘機の「特性」「(1)格闘戦に強きこと」(艦上戦闘機)、「(2)極力格闘戦性能の向上を計ること」(局地戦闘機)、「(2)敵戦闘機を撃攘し得ること」(戦闘機兼偵察機)が相当し、この文面を額面通り受け取ると「格闘戦重視=単発単胴機」と云う形態が導かれてくる。複座を条件とされた「戦闘機兼偵察機」だけは「双発もありうる」と云うことになる。
 「1940年型軍用機」では「時速650キロの戦闘機」と云う前提での話であったが、「性能標準」自体も「最高速力」は「350ノット(648キロ)以上」(艦上戦闘機)であり、必要な性能の要求は「空」読者のものに必ずしも劣っているわけではない。武装に関しても、「敵攻撃機及び敵飛行艇の撃破」(ここでの攻撃機は爆撃機も含む)を要求される機体には「20粍固定銃」=重武装(当時)が必要との認識は持っているのである。


 結局のところ「当時の航空機ファンはどうでも良い議論をしていた」と云うはなはだ情けない結果しか出てこなかったのである。

 兵器立案者、製造者、使用者と、兵器ファンの溝はかくも深いものなのである。当然「兵器生活」もその溝を日夜掘り進めている事は云うまでもない…。

 (本来であれば陸軍機における性能標準についても言及したいのであるが、引用資料が海軍機に関するものであるため、残念ながら今後の課題としたい)

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