吊るして運びます

珍しく時代を先取りした「敵前上陸艇」


 上野のソバ屋で呑んだあと、酔い覚ましに歩いていたら、不忍池で骨董市をやっていたのである。出物は無いかと物色してみると、ボッロボロになった「機械化」を見つけてしまったので買ってきた。
 その、昭和17年12月・18年新年合併号に掲載された、「未来新案兵器 敵前上陸艇」をご紹介する。
 画と文は、「日本三大茂」の一人、ミスター機械化・小松崎 茂である。


未来新案兵器 敵前上陸艇

 ここに創案しました上陸艇は、図に示しましたように双胴式の飛行艇に懸垂して、目的地に運ぶように工夫してあるのです。

 上陸地点までは、この双胴式飛行艇の両側にある胴体の内側へ、この上陸艇を牽引して運んで行くのです。このようにして運ぶと、遠浅の海岸でも、海底の起伏が多くて、船が入ることの出来ない珊瑚礁の内海にでも、自由に着水して、上陸艇を運ぶことができるのです。
 上陸艇を牽引した双胴式飛行艇が敵前の上陸地点に着水すれば、ただちに上陸艇は飛行艇をはなれて、目的を決行するのです。

 この上陸艇には戦車及び飛行艇から乗り移った将兵が大勢いますが、敵弾や海水の浸入は装甲してある上蓋板で防ぎますから、敵前上陸の被害は殆ど受けません。
 上陸艇が、海岸に到着すれば、上蓋板はただちに跳返って桟橋となるのです。この桟橋を渡って戦車を先頭に突撃するのです。
 このように他の艦船で運ぶことができない場所へ、自由に上陸することができるのです。

 1は懸垂装置。2は着岸の時に岸へ打込む楔。3は操縦席の窓。


上蓋板は桟橋となる


 英国ショート・サンダーランド飛行艇を、二つつなげて、サボイアS55飛行艇と掛け合わせたような機体は、あくまでも「オマケ」で、あくまでも本体は「敵前上陸艇」と云うところがミソ。
 イラストの背景に、飛行艇と結合された姿が描かれており、上陸艇と、胴体に挟まれた主翼中央部の間には、空間があるように見えるが、軽め穴のある、支持材を露出したまま飛行するのは、空気抵抗がありそうで、そのへんは解説には書かれない工夫があるのかもしれない。

 荷物を搭載した部分を機体から切り離すことで、迅速に物資を引き渡そうと云う発想の輸送機(ヘリコプター含む)は、第二次大戦後に登場している。有名(プラモデル化されている)どころでは、シコルスキーCH−54ヘリコプターがあり、マイナーながらも、「敵前上陸艇」と同様に、機体と切り離し可能な貨物室を、胴体とピタリ合うようにデザインしたものとして、フェアチャイルドXC−120パックプレーン輸送機(実に良く似ている)がある。しかし、一番有名なのは、架空の機体ではあるが、「サンダーバード2号」であろう。
 これら同類? が、切り離す部分は、あくまでも貨物室と云う器(うつわ)に過ぎないのであるが、本兵器は貨物室が海面を進んで敵地に強行上陸することになる。こちらの方が、一枚上を行く発想なのである。
 貨物室を切り離したりはしないが、米海軍ではコンベアR3Y飛行艇を試作した際、当初想定していた哨戒任務ではなく、上陸用舟艇がわりに、機首に大型の扉をつけ、機体を着水・接岸させて人員・物資を一気に陸揚げしてしまおうと、検討した事がある。

 いずれも戦後の事ではあるが、こう云う事例が存在することを思うと、「敵前上陸艇」の発想は、過去いくつか紹介してきた空想兵器の中では、ダントツに良い部類に入ると云える。
 オマケ飛行艇を含めたコンセプトは、のちに米軍がパクった、と書けば、読者諸氏の8割が信じるくらいに良く出来たものだが、「本体」の上陸艇を改めて見ると、オッサンこっちがオマケやろ、と云いたくなってくる。

 戦車一台を揚陸出来る、と云うのは帝国陸軍が実際にやっているところであり、昭和17年末の空想兵器であれば、これくらいの事が想定できないようでは、むしろ困るくらいだ。「上蓋板」を設けて防弾・防水させるアイデアは面白いところだが、それを180度回転させて桟橋にする所が、理解に苦しむ。日本の大発(大発動機艇−上陸用舟艇)が、船首に扉を設け、それを前に倒して「踏み板」にする、単純かつ非凡な発想であるのに比べると、(この時期に)大発と同じ機構を公表出来なかった事情が仮にあったとしても、板を動かすカラクリは大掛かりにならざるを得ず、面白くない。

 前方に敵が火砲を構えているところに突き進むのに、操縦席が船首にあるのも解せない。これでは船内? から外に出る際に、操縦席を乗り越えていかなければならず、敵の的になる危険が増すばかりで、せっかくの防弾「上蓋板」がもったいない。そのくせ、例の「上蓋板」には、砂浜に打ち付ける「楔」が装着されていたりする(岩場に取り付いた日には、桟橋がグラグラしたりしないのだろうか?)気配りを見せるところが、なんともアンバランスだ。
 空想兵器には、必ず読者がツッコめるポイントを作っておかなければならない、と云う内規でもあったのだろうか…。

 コンセプトは優秀、しかしツッコミ所アリ、と云うのが「敵前上陸艇」の評価である。もちろん、レシプロエンジン4つで、戦車一輌プラス兵員を載せた「艇」を吊り下げ、敵前に着水出来るんだろうか? と云う根本的な疑問は、一瞬たりとも考えてはならないのだ。

(おまけ)
骨董市で買い求めたものが、見事本稿のネタ本となったわけだが、作り終わってふと、手持ちの「機械化」の中に、同じ号が入っているんじゃあないのか? と云う疑念がよぎり、ひっかき廻して調べてみると…


多分 立体には見えません

 みごとにダブっておりました(笑)。
 あえて払わずとも良かった○千円(骨董市での購入価格)を悔やんで泣くべきか(本文欠落もあるのだが、口絵欠よりはマシ)、先に買ってあった本を痛めずに画像取りこみが出来た事を喜ぶべきか、おおいに迷うところでありますが、ここは今月の更新ノルマを達成し、読者諸氏に新ネタをおとどけ出来たことを、素直に喜ぼうと思っております。