特別企画第5弾 もうじき80万HIT記念

「ある小僧の一生」

彼の名は「自来也小僧」。あるユウモアにあふれる村、その中でも1番のアトラクションである「忍者屋敷」の一番目立つところに住んでいる。
村が栄えていた頃、多くの親子連れが彼を見ては驚いた。もちろん、様々な意味でだが・・・。
でも、彼は満足だった。ライバルといえば「アリス館」のマンモスぐらいであろう。

しかし、遂に村に最後の日が訪れた。長引く不況下で国が自治体に対しての援助を打ち切ると言うのである。
村長を始め沢山の人々が村を出て行ってしまい、電話を皮切りに電気、ガス、水道などが止められ村は完全に棄てられてしてしまった。

彼は頑張った、梁の上の忍者やかつてのライバルであったマンモス、そして恐竜達と力をあわせて。いつかまた村を再興させようと。

以前のように沢山の人は来ない。たまに訪れるのは懐中電灯を片手に握り締め、真暗な室内でフラッシュを光らせて、写真を撮っていくグループぐらいだ。
しかしやつらは、彼と記念撮影をするでもなく、足早にそして静かに、ドアを元通り閉めて去っていく。もちろん子供などは連れていない。
でも、やっぱり彼の存在を発見すると驚いていく。以前ほどでは無いがチョット満足だ。

ある曇り空の日。外の世界に雷鳴が轟いた。いやこの季節は雷がなる時期では無い。それは、数台の改造車輌から発する排気音であった。
轟音が止まる。そして静寂がもどる。小一時間たったであろうか、家屋の外で喧騒が聞こえる。数人の若い男性の騒がしい声だ。
彼の胸の中をいやな予感が走る。その直後、乱暴に引き戸が開けられた。「何だ、まっくらだな。」1人がそう叫ぶ、「こえーのかよ、イヒヒヒ」
Aベルサーチという刺繍が入ったナイロン製のジャージを来た一番背の低い男が下品に笑う。前歯が溶けた口元からは、汚い唾液が飛び散る。

カシャ!!最初に入ってきた薄汚れた白いジャージの男が、左手にもった100円ライターに火を点ける。あたりがかすかに明るくなる。
暗闇で彼の姿が浮かび上る。「うわーー!!」大げさなリアクションで先頭の男が尻餅をついた。全員が一歩あとづさる。
中間にいた、一番背の高い男が気を取り直し、彼に近づく「おめーらびびってんじゃねーよ。」黒いジャージにワーナーのキャラクターの
犬が刺繍されている。頭髪が異人のように黄色い、しかし、細く剃った眉毛は真っ黒だ。「なに、ジクルナリ小僧、なんだ、おどかしやがって。」
脅かすも何も、彼はこの村が出来た頃から、ずっとここにいるだけだ。良く見ると全員が手に、棒のようなものを持っている。

ベキッ!!鈍い音とともに、彼の脇腹に衝撃が走る。「このやろー、なめやがって!!」誰に向って叫んでいるのか?わからない・・・。
しかし、全員が彼を取り囲んでいる。一瞬の静寂のあと、こんどは左足に衝撃が襲う。ばきっ!!「ヒヒッ!!ヒヒッ!!」気色の悪い笑い声が
室内に響く。焦点の定まらない、黄色く濁った目が恍惚の表情を浮かべる。

何度衝撃が彼を襲ったか、もはや数えることも出来ない。ボコッ!!凄まじい音が聞こえた直後。彼は平衡感覚を失った。
生まれてから、ずっと一緒だった「巨大ガエル がま君」から足が離れたのだ。「がま君は、大丈夫だろうか?」真っ先にそんなことを考えた。

明るい・・・。室内は、煌々を蛍光灯がともり、父親の足にしがみ付く小さな男の子、顔が強張っている。
「自来也小僧は絲(がま)の妖術を使う忍者で、悪いやつでは無いんだよ。」意味がわかったのか、父親の表情に安堵したのか
男の子の顔に、笑顔が戻る。彼は表情を変えない、しかし、心のなかで笑っている。最高の瞬間だ・・・。
室内が、更に明るくなっていく、風に乗って音楽が聞こえてくる。「村が帰ってきた・・・。」そして、眩いほどの光が彼の視界をさえぎる。

ピーポーピーポー、サイレンの音が近づく。「ヤベー!!」「イヒイヒヒヒ・・・。」「うわーーー。」それぞれの奇声を発しながら、男達は一目散に
走り去っていく。数分後、爆音とともに、サイレンの音も小さくなり、そして消えていった。

暗闇が朝日により明けてゆく。小鳥の声が静寂を破る。
全てが元の世界に戻っていく。ただ一つ違うのは、そこに自来也小僧の姿は無く、土間の床には、かつて自来也小僧
だった、彼の残骸が転がっていることだ・・・。

2003年、小学生になった男の子は両親と、入学式の写真を整理するため、アルバムを書棚から取り出す。
隣のアルバムが、なにかの拍子に落ちてしまい。ページが開く・・・。
そこには、凛々しい姿でガマに乗る「彼」が生きていた。無表情だがちょっと得意げでもある・・・。

(この物語はかなり事実に近いフィクションです。)

(破壊された「自来也小僧」の画像、そしボクの孫六さまから提供)

(あとがき)
破壊したものは、2度と戻らない。
「自来也小僧」は破壊されなければ、ならない事をしたのであろうか?
否、彼は何もしていない。村が出来たときから、ずっとそこに、静かに存在しただけだ。
「廃墟の歩き方」で私は、彼らを異形のものと表現した。オリジナルの家屋と対比して使った表現だ。
しかし、それは、正しく無い表現かも知れない。彼らはこの中で間違いなく正当な存在であり。
我々こそが「異形の存在」であるのだ、その異形な存在が、正当な存在に手を下してよい訳が無い。
自来也小僧は、本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。
せめても「ガマ」が無傷だったのが、救われる・・・。