物件No.121 「志免炭鉱竪坑櫓」 福岡

「墓標の街」

 この廃墟を、始めて知ったのは、3年ぐらい前に銀座のギャラリーに展示されていた小林伸一郎氏の写真だった、当時はこの特異な形をした建造物がなんの為に立てられ、どんな用途に使われたかも知らず、その写真から放たれる「存在感」に憧れの念すら抱いたものだった・・・。
 詳しくは「廃墟の歩き方」に掲載されているので割愛するが、簡単に説明するとこの建物は、地下の石炭を採掘するためのエレベーター昇降装置として使われた。しかし、石炭の価値が無くなると共に、炭鉱が閉鎖。そして、巨大なコンクリートの建造物だけがその骸を晒している。まるで、石炭産業と、この街のひとつの時代の終わりを告げる墓標のように・・・。

*「墓標の街」という副題をつけていますが、いやな意味では有りません。炭鉱産業の墓標という意味です。ちなみに志免町役場の観光課の方は色々親切に教えてくれました。また、竪坑を保存して公園化する町の計画には大賛成で有り、古いものはすぐに壊すといった自治体との姿勢違いに敬意を表します。

街の風景

その圧倒的な存在感をもった巨大な建造物は突然現れる。
しかし、街の人々は「その存在」を認識していないが如く、
そこを通り過ぎていく・・・。
境界線

レンガ色に彩られた歩道を境に、数十年前と現在とが
区切られている。
時空の境界線に、立っているようだ。
柵外にて

もはや、画像や文字でこの建造物の「存在感」伝える事は
不可能で有る・・・。
機会があったら皆さんもご自身の目で見て欲しい・・・。
門外にて

時計回りにチョット移動。
下部の格子状の骨組みの中に、ジグザクの階段が
確認できる。
曇り空の下

曇り空のなか高く聳え立つタワーから太陽が覗く・・・。
黒く四角く開いたその窓から手を伸ばせば、届くような
錯覚すら感じる・・・。
竪坑下部

私が、訪れたのは1月だったが、時期が時期なら、
柱に絡んだ蔦が、下1/3を深緑に彩る。
そんな光景を、いつかきっと見てみたい・・・。
鉄塀

高さ約3mの鉄柵が、竪坑に近づくことを拒む。
見上げる

とにかく出来る限り近くまで近づき竪坑を見上げる。
この出っ張った部分にゴンドラが吊り下げられていた。
鉄柵上から

3mの鉄柵の上にはさらにねずみ返し状の真新しい
有刺鉄線が・・・。
潜入難易度Sクラス!!
ひさし

建物内部に入るには、さらに鉄格子を突破しなくては!!
それにしても巨大なヒサシが突き出る。
ひさし下

近づいてよく見ると、鉄格子の一部が無くなっていて
鎖が巻きつけてあり、南京錠で留っていました。
内部

鎖の隙間から何とか潜入。
乾いたセピアの空間が広がる。
内部へり

しかし、こんな所まで落書きが・・・。
古さから推測すると、昔はウエルカム状態だったようだ。
真下から見上げる

まるで、巨大な生物の体内に擁かれているようだ。
大きなため息がでる・・・。
端の部屋

錆びた鉄格子、レンガ、トタン・・・。
全てが過去の遺物で形成されている。
時間に彩られた色彩に押しつぶされそうになる。
落書き

モノトーンの世界に描かれた落書き。
こんな稚拙な落書きすら極彩色の壁画に見える。
斜めの石柱の内部に階段が有る。
階段

角が削れて昇りにくい・・・。
ここまで来れば本気で遺跡でしょう!!
2階より

2階より下を見る。
こんな時、広角レンズがあれば便利なのだが・・・。
開いた外壁部分には全て鉄格子がはめ込まれている。
2階より

今度は2階より上を見る。
強度を得るため、X状に支柱が施されている。
さすがに2階より上に鉄格子は無い。
空へ

枯れた蔦が天空に向かい伸びていく・・・。
もし数百年後もこの廃墟が残っていたら、
緑のタワーになってしまうかもしれない。
斜坑

こちらは斜坑の入り口。
ちなみに直角に掘ったのが竪坑。
斜めに掘ったのが斜坑。
かなり強固な鉄格子で入り口が封鎖されている。
斜坑内部

苔むしたトンネル内部。
突き当たりはさらにコンクリートで完全に封鎖。
この奥に数十km以上の、暗黒の世界が繋がっている。
ぼた山

右下の家と比べてその大きさを比べて欲しい・・・。
この山が数個連なっている。
数百mもの地下から掘り出された土で出来ている。
花と石炭

掘り出された石炭が転がっている。
こんな不毛の土地にも、原色の花が咲き誇る。
死んでしまった石炭産業へのはなむけのようだ・・・。
大樹

人間の手によって立てられた建造物にも関わらず、
まるで自然の風景に見える。
人間の手を離れて十数年・・・。
もはや自然の一部に帰依したと言っても過言ではないだろう。