各種だし材料に含まれるうま味成分の組成を示した。出し昆布、鰹節、干しシイタケ、煮干しに代表されるだし用加工食品は日本特有の食材である。

 干しシイタケは禅宗などの精進料理に不可欠のだしとして古くから高価な食材であった。安土桃山時代に農・乾物の一大集積地であった大阪は多湿な気候が乾物や昆布の旨味を熟成させたことから、江戸時代になると昆布のダシを特徴とした食べ物が「大阪の食い倒れ」として有名になったという。燻乾を経て水分を落としうま味を凝縮した乾物製品である鰹節は江戸時代に開発された(かつお節についてはコラム2参照)。煮干しは手軽なだし材料として明治以降庶民に普及した。

 図で明らかなとおり、昆布にはグルタミン酸、鰹節、煮干しにはイノシン酸、干しシイタケにはグアニル酸が多く含まれている。

 別の2資料では以下のように各食品にうま味成分が含まれているとしている。


 「うま味は種々の成分で構成されているが、その中のグルタミン酸(アミノ酸の一種)、イノシン酸、グアニル酸(核酸成分の一種)の3種がかなめである。グルタミン酸は植物性食品に、イノシン酸は動物性食品に多く含まれている。グアニル酸はシイタケなどキノコ類に多く含まれている。」日本における「うま味を求める伝統の影響か、うま味研究の面で大きな足跡を残してきたのは日本の学者たちである。池田菊苗博士が昆布のうま味の正体はグルタミン酸であることを発見した(1908年)話は有名だ。その5年後に池田の高弟小玉新太郎が、鰹節のうま味はイノシン酸であることをつきとめた。さらに1960年にはグアニル酸のうま味が、国中明博士によって解明されている。」(小俣靖「「和洋中」料理とだし」(週刊朝日百科130[1983.6.19]))また、同じ国中博士が、こうしたうま味成分相互の相乗効果も発見し、日本料理において昆布と鰹節でだしをとることが、強いうま味を引き出す工夫であったことが明らかになった。伏木亨京大大学院教授によれば「昆布のグルタミン酸、カツオ節のイノシン酸は組み合わせることで相乗効果が出ます。昆布だし単独の場合に比べ、一番だしでは10倍以上のうま味になります。これが日本の伝統的なだしの特徴です。」(毎日新聞2010.7.25)

 なおグルタミン酸がうま味成分として最初に発見された1908年、グルタミン酸ナトリウムが早くも鈴木三郎助・忠治兄弟によって調味料として商品化(商品名「味の素」)され発売された。やがてイノシン酸、グアニル酸も加わって、化学調味料、うま味調味料が日本から世界に広がっていった。

 古来、中国では、五味(ごみ)として鹹甘酸苦辛(かんかんさんくしん)、すなわち塩味、甘味、酸味、苦み、辛さを味の要素と考えた。20世紀初め頃、世界の学界では、味覚神経を通じて感知される味として、五味のうち辛さを除く4基本味説が支配的であった。上記池田博士は、グルタミン酸の「うまい」と感じる独特な味を「うま味」(UMAMI)と名付け、5番目の基本味と主張した。その後、これが国際的にも認められるようになった(国際的にうま味が認められるまでの経緯は平坦なものではなかった点については巻末コラム参照)。

 味覚は栄養摂取上のシグナルとなっている。「甘味」は、生命体の活動に即つながるエネルギー源の目印となっている。「塩味」は、原始の海から深化した陸上動物が、海の成分と似た自身の体液から汗や尿によって失われがちなミネラル、特にナトリウムを常に食べ物から摂取する必要から生じている。「酸味」は、食べ物が未熟、あるいは腐敗していないかを見分けるため、また「苦み」は毒性の高い食物であるかを見分けるために備わった味覚と考えられる(山口静子監修同上書、弓狩康三・鳥居邦夫「味の栄養学」(小石秀夫・鈴木継美編「栄養生態学―世界の食と栄養」恒和出版、1984年)。

 一方、「うま味」は、身体にとって不可欠の栄養素であるたんぱく質摂取のシグナルととらえられる。「タンパク質も重要な栄養物であるが、ごく少数の例外は別としてそれ自体には味がない。タンパク質は約20種のアミノ酸から構成されているが、タンパク質に組みこまれていない単独のアミノ酸(遊離アミノ酸)には味がある。タンパク質が存在するところには、遊離アミノ酸が存在するので、アミノ酸の味はタンパク質のありかを知らせるシグナルの役割をはたしている。グルタミン酸はタンパク質のなかでももっとも多く含まれるアミノ酸であり、グルタミン酸がもつうま味はタンパク質の代表的なシグナルである。」(栗原堅三(1998)「味と香りの話 」岩波新書)「舌にうま味の受容体があることが明らかになっています。」(伏木教授、毎日新聞2010.7.25)

 動物によっては5つの基本味を感じる味覚のうちいくつかが進化の過程で失われることがある。例えば、南極のコウテイペンギンは、鳥になる段階で、甘みが失われ、その後、うまみ、苦みが失われ、今では、酸味と塩味しか感じられないという(図録4175参照)。

 うま味が日本の科学者によって発見され、日本でうま味調味料の工業的な生産もはじまったのは偶然ではない。「うま味」調味に特別な重要性をおくようになった日本における食文化の発達の特殊性については図録0214参照。

 なお、五基本味の性格を見るため濃度と味の強さの関係図を以下に掲げた。


 いずれもフェヒナーの法則に沿って味の強さは濃度の対数とともに直線的に増大する関係となっているととらえられる(山口前掲論文)。甘味、塩味、うま味といった栄養摂取と関連する物質は一定程度の量がないと味とならないが、避けるべき物質を示す酸味、特に苦みでは、微量でも味として感じる点が印象的である。また、グルタミン酸ナトリウムは、他の基本味と異なり、勾配がゆるやかであり、量を増やしても強烈にはならないおだやかな味である点に、ごく日常的に摂取する対象の味である特徴があらわれている。イノシン酸ナトリウムやグアニル酸ナトリウムはさらに勾配が小さいという。

 なお、だしはうま味と香りからなっており、だしの香りは学習が必要だという。伏木教授によれば、「日本人でも子どものころにだしの香りを体験していなければ、おいしいと感じることができません。そのためにも小学校低学年までには、各家庭でだしを使った料理を食べ、体験しておく必要があります。」(毎日新聞2010.7.25)私が鰹節産地の食品メーカーから、鰹節には中毒性があり、一度食べれば止められなくなるときいたことがあるが、おなじことを言っているのかも知れない。

【コラム】うま味(umami)が基本味として世界に認められるまで

 1985年10月にはハワイのカウアイ島で「第一回国際UMAMIシンポジウム」という学会が開催されるに至った(山口静子監修「うま味の文化・UMAMIの科学」丸善、1999年)が、まだ、国際的にうま味が認められたとは言い難い状況だったようである。

 栗原堅三(1998)「味と香りの話 」岩波新書は、うま味が世界的に認められるようになった経緯について、以下のように述べている。

「日本人は、うま味という味が存在するという考えをごく自然に受け入れてきた。ところが、欧米にはうま味が固有の味であるという概念がなかった。多くの研究者は、うま味物質には4基本味を強める作用があり、このためうま味物質の添加により食物がおいしくなると考えてきた。ただし、こうした考えには、とくに科学的な根拠があるわけではなかった。じっさい、味の素の山口静子(元東京農大教授)は、被験者を使って味覚テストをおこない、グルタミン酸ナトリウムには4基本味を増強する効果はないことをしめした。こうした研究がおこなわれていも、ヒトの味覚テストのデータだけでは、うま味に関する論争はなかなか決着がつかなかった。うま味という固有の味があるかどうかを明らかにするには、動物を用いて神経生理学的なデータをうるのがもっとも直接的である。」

 その後、マウスやサルを用いた研究で「グルタミン酸ナトリウムによく応答するが、他の味には応答しない神経繊維が存在すること」が見出された。「このように、グルタミン酸はほかの4基本味とは明らかに独立の味であることを支持するいろいろなデータが蓄積されてきた。(中略)以前は、umamiという言葉を使った論文は欧米の学術誌からことごとく掲載を拒否されたが、先ほど述べたようなデータが蓄積されてくると、欧米の学術誌も論文を掲載するようになった。わたしたちはumamiという言葉を使うことにしたが、外国人のあいだでは、umami tasteという使い方が定着していった。」

 1993年の第11回嗅覚・味覚国際会議(札幌)で、オープンな形でのumamiに関する最初の国際シンポジウムが開かれたのに続いて、1997年の第12回嗅覚・味覚国際会議(サンディエゴ)で米国モネル化学感覚研究所所長と栗原堅三北大薬学部教授が企画したumamiシンポジウムが開かれ「何人かのアメリカやヨーロッパの著名な研究者がシンポジストとして参加したこともあって、会場にはたくさんの聴衆が詰めかけた。多くの聴衆は、うま味というなにやら怪しげな味が、じつは多くの食品の味に重要な寄与をしていることをはじめて知ったようである。このシンポジウムの内容は、うま味は第5番目の基本味であるというタイトルで、アメリカをはじめ世界各国の新聞に報道された。(中略)安全性の問題以来グルタミン酸ナトリウムにはとかく冷淡なアメリカのマスコミとしては、うま味が食品の味の重要な構成要素であることをはじめてとりあげたことになる。」

 ここで、安全性の問題とは、1968年に米国でグルタミン酸ナトリウムを多く含んだ中華料理を食べて顔が火照り頭痛がするという症状を訴える人が出てきて、1969年にはワシントン大学における生まれたてのマウスの実験で大量のグルタミン酸ナトリウムが神経障害を引き起こすという結果が発表され、安全性が問題とされた事象をいう。その後、国連のFAOとWHOの合同食品添加物専門委員会における安全性の確認(1987年)、EUの食品科学委員会での同様の評価(1990年)を経て安全性が公式に世界で認められた。

【コラム2】かつお節の製法

 かつお節の作り方について要領のよい記事が見つかったので紹介する。新聞記者がかつお節問屋から聞き取った内容である(毎日新聞2014年12月16日)。

「かつお節は世界で最も堅い発酵食品。伝統的な製法では、うまみを閉じ込め保存性を高めるため、時間をかけ水分を飛ばしていく。

 まず、生のカツオを三枚におろし釜で煮る「煮熟(しゃじゅく)」を経て、骨を抜き火で水分を飛ばす「焙乾(ばいかん)」と「あん蒸(放冷)」を繰り返し「荒節(あらぶし)」をつくる。表面のタールや脂肪を除き形を整える「削り」、天日で乾かす「日干(にっかん)」で「裸節」ができる。

 さらに、カビの力を借りて水分を減らし、保存性を高めるのが「カビ付け」。雑菌が付くのを防ぎ脂肪を分解する効果もある。カビ付けと日干を繰り返し、ようやく「本枯節(ほんかれぶし)」となる。

 店頭などで見かける「花かつお」は荒節を削りパック詰めしたものだ。手間を減らしコストを抑えているが、そもそも本枯節にならない素材を使うことが多い。

 カツオ漁法は、一度に大量捕獲できる巻き網漁がここ30年で圧倒的な主流になった。これも生産コストを下げるためだが、近海一本釣りものとはうまみに差が大きいという。「伝統的な方法だからいいわけではなく、科学的な裏づけがある」と稲葉さん。

 かつお節のうまみ成分イノシン酸は、生涯泳ぎ続けるカツオのエネルギー源、アデノシン三リン酸(ATP)が死後、酵素分解してできる。一本釣りのカツオは船上で死後硬直する過程で、たっぷりイノシン酸を含む。しかし、巻き網漁のカツオは、網でもがいて暴れることでATPが無駄に消費され、結果的にうまみが少なくなり、乳酸が発生して酸味が出るという。」

 スーパーなどで売っているかつお節の削り節パックも、荒節からの削り節と本枯節の削り節とがある。品名は、それぞれ、「かつお削り節」、「かつお節削り節」と異なっているが、紛らわしい名称なので注意。

 また、漁法や漁獲後の処理によって魚が暴れるとおいしくなくなるというのは一般法則であり、運んでいる途中のストレスが大きいため、見た目では新鮮な活魚も実は概しておしくなく、漁獲後すぐに船上で活〆(いきじめ)したものを適切な温度管理の下で運搬し食卓に載せたものが最高の味となる。

 ここで、検索のため、取り上げた食品名を重複をいとわず列挙する。牛肉、豚肉、鶏肉、鶏がら、ヒラメ、タイ、鰹節、煮干し、サバ節、干し貝柱、干しエビ、昆布、干しシイタケ、マッシュルーム、ニンジン、タマネギ、セロリ、カブ、トマト、ハクサイ、もやし、かんぴょう、筍、ダイズ、アズキ、真昆布、羅臼昆布、パルメザンチーズ、のり、せん茶(茶葉)、トマト、シメジ、ホタテ貝、車エビ、白菜、アサリ、カツオ節、アジ、サンマ、鶏肉、豚肉、タイ、サバ、イワシ、煮干し、車エビ、牛肉、シイタケ(干し)、編みがさ茸(干し)、ホタテ貝、のり、ポルチーニ(干し)、ドライトマト、ズワイガニ、ウニ、シイタケ、コンブ、チーズ、一番茶、アサクサノリ、イワシ、スルメイカ、ホタテガイ、トマト、バフンウニ、ジャガイモ、白菜、煮干し、カツオブシ、シラス干し、カツオブシ、アジ、サンマ、タイ、サバ、イワシ、豚肉、牛肉、クルマエビ、ズワイガニ、乾しシイタケ、マツタケ、エノキダケ、生シイタケ、豚肉、牛肉。

(2009年7月20日収録、2010年7月26日別資料追加、2012年1月23日成分別資料、コラム追加、2014年12月17日コラム2追加)


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