農業保護については、OECDのPSE指標による各国比較を行ったが(図録0308参照)、ここでは、漁業補助について、やはりOECD作成のGFT指標による各国比較を行った。前者は、生産者支持評価額(Producer Support Estimate)であり、関税などによる内外価格差から生じた消費者負担額を含んでいるのに対して、後者は、政府財政移転額(Government Financial Transfers)であり、それを含んでいない点には留意が必要である。

 日本の漁業補助は29.5億ドルと第2位の米国の8.8億ドルの3倍以上と、世界一のレベルとなっている。ただし、日本の水揚げ金額は世界一の水産国のため他国と比較して巨大であり、水揚げ金額に占める漁業補助額の割合を漁業補助率として算出すると、20.9%と世界第7位とそうレベル的に高くなく、OECD平均やEU平均をやや上回る程度にすぎない。

 日本の漁業補助の特徴は、分野別構成のグラフを見れば一目瞭然のように漁業インフラ、すなわち漁港への補助が7割以上と非常に大きい点にある。経営対策や資源管理対策などその他の分野への補助は小さい。漁業インフラを除いた漁業補助率は、日本の場合、5.5%とOECD諸国の中でも下位のレベルとなっている。これで日本の漁業は守れるのかという素朴な疑問が生じる。(漁港整備が中心の漁業インフラの比率が高くなっている点については予算制度の中で漁港制度の存在が日本独自であり、他国は一般港湾の整備の中で漁港機能が整備されるためと指摘されることもある。もとになったデータの整理の中で港湾整備費の中の漁港機能の分が取り出されているかについては要検討。)

 日本の漁業政策の一大特徴は、このように、漁業インフラ補助、すなわち漁港整備への傾斜である。漁港整備補助の嚆矢は、昭和恐慌期に、漁業組合の育成による漁民生活の安定とともに、「農山漁村経済更正運動」の一環として展開された救農土木事業による漁港、船溜まりの建設である(平沢豊(1981)「日本の漁業―その歴史と可能性 (NHKブックス)」)。このときは予算額も比較的少なかったが、この伝統から、一般的な公共事業重視の潮流の中で、漁港づくりが戦後の水産政策の中心を占めるに至ったのである。

 また、動力船、漁労機械、船内保冷施設の低コスト化、小型高性能化という大きな流れの中で、戦前には大手水産会社が独占していた遠洋漁業に、戦後は、各地の中小漁業が母船式漁業の付属船として、また独立の漁船として進出し、沖合漁業、沿岸漁業に従事する漁船漁業の発達とともに、全国各地で漁船の基地としての漁港の重要性を高める結果となったことも、地域振興の意味合いも兼ねて漁港整備に政策が集中した大きな要因だったと思われる。さらに、高度成長期前期まで水産物が国民への動物性たんぱく質の供給増の主役だった(図録0280)こともこうした政策を背後で支えていたといえる。

 逆に、漁業インフラ以外の漁業補助が、魚食民族国家日本において、何故、そう多くないのかという疑問が残る。網野善彦氏が強調しているように、農業・農民と比較して、漁業・漁民はもともと、国政上位置づけが低かったためと考えられるが、食生活上も、実は明治期以前には、量的には日本人は今ほど魚介類を消費していなかったためであると思われる(図録02800290)。世界一の魚食民族となった現在(図録0260)ではこうした位置づけは改めるべきであろう。

 漁獲量と漁獲努力の量的拡大の時代の終焉、世界的な水産物需要の増大(図録02400270参照)、世界的な水産資源乱獲への懸念、輸入水産物への依存による食用水産物自給率の低下(57%、図録0312)、燃油高騰や漁船員確保難などによる漁業経営の困難などを考え合わせると、消費者の視点、海洋に囲まれた国としての優位性の発揮(図録9410)、世界的な需給動向などを踏まえた水産政策の抜本的見直しの中で、水産国日本の再生へ向け、資源管理型漁業と輸入元国に負けない漁業効率のための水産予算の拡大と公共予算からのシフトという方向で漁業補助を再整理する必要が大きくなっているのではないかと考えられる。

 世界的な水産資源の乱獲に結びついている漁業補助については、WTO、FAO、国際水産資源管理機関などの世界共通のルールで補助削減に努める必要があるが、農業と同じように、漁獲物輸出拡大へ向けた補助金と国内供給維持のための補助金を同一にとらえることは公平ではないだろう(図録0308参照)。

(2007年1月31日収録、2008年7月16日漁港予算という日本独自の仕切についてのコメント追加)


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