女性問題を扱う国連の報告書(The World's Women 2010)は、途上国においては水運びや薪集めにかかる時間が女性に過分な負荷を与えていることを指摘する(図録1020参照)と同時に、煙突のない状態で薪炭・わら・家畜乾燥糞など固形燃料を使う調理方法が屋内に充満する煙で女性に健康上のリスク(呼吸器疾患)を生じさせている点を分析している。

 この分析で引用されている、アジア、アフリカ、東欧の台所加熱設備の現状を図録にした。なお、途上国における住戸に上水道、トイレ、電灯が整備されていない割合については図録1021を参照。

 地域別の固形燃料使用割合の都市・農村別集計結果は下図の通りである。


 アフリカや東南アジア・南アジアの農村部では、先進国では多くを占めるガス、石油、電気を使用するのではなく、薪炭など固形燃料を使って調理している人々が8割以上を占めている。また図録に見られるように、そのうちの多くが煙突やフードを備えていない直火やかまど(竈)で調理している。

 人類の加熱調理の歴史を概観してみよう。以下の叙述の参照資料の中心は、中尾佐助「世界の台所と調理器具」「イラストマップ目で見る世界の食文化17」(『週刊朝日百科世界の食べもの』137号、1983年)である。

 野外での焚火による加熱が人類の調理のはじまりと考えられる(末尾の「台所加熱設備の系統(エネルギー革命以前)」参照)。これが屋内に持ち込まれて地床炉が生じる。アフリカ諸国、特に農村部は、なお、この段階にある。野外調理は多くない。エチオピア、ネパールでは固形燃料で加熱を行っている世帯の比率はそれぞれ95%、83%であるが、野外調理の比率は、それぞれ6%、5%に止まる。一方、リベリアのように固形燃料使用比率99%、野外調理比率57%となお野外料理が中心である場合もある(UN, The World's Women 2010)。

 日本においてもかなり長い間この段階が続いた。仁徳天皇が税を緩め庶民の生活を回復させた結果を歌ったとされる和歌「高き屋にのぼりて見れば煙(けぶり)立つ民のかまどはにぎはひにけり」(新古今和歌集)もこの時代の情景を示している。かまどといってもなお地床炉が多かった竪穴式住居から煙が漏れ出ているイメージである。屋内の人間はどの程度煙たかったのだろうか。

 加熱のもう一つの方法は焚き火で焼いた石を土の穴に入れ、この上に食材をのせて蒸し焼きにする方法であり、これはオセアニア諸島でなお重要な調理方法となっている。間接熱を利用するという点では、後に発達したオーヴンやタンドリーといったパン窯も、窯を火で熱くしたのち余熱で焼くので石蒸し炉と共通した特徴をもっている。

 地床炉で五徳や自在鉤を使用するとともに、それを取り囲んで家族が団らんする設備が「囲炉裏(いろり)」である。北日本から中央アジア、西アジアの遊牧民圏で普及した方法である。屋根や柱が煙で燻されるのが通例である。

 火がむき出しの地床炉が粘土や煉瓦などによって立体構造物となり竈(かまど)が生じる。インド、ネパールの平竈は座ったりしゃがんだりして使う竈、江戸時代までの日本の立ち竈は立って使う竈である。平竈は竈そのものから、日本の立ち竈は焚き口から煙が出て、いずれも屋内が煙で充満する。そこで日本の立ち竈は土間や別棟に置かれた。

 立ち竈の発展型として中国で煙道立ち竈(煙突つきの立ち竈)が開発され、無煙炭の利用とあいまって、世界に冠たる中華料理の発達の原動力となった(図録4030参照)。煙突をつけることなど簡単な工夫だと今では思えるが、歴史的にはそんなに古くからあったものではないらしい。ヨーロッパでも長く地床炉の段階が続いていたが、中世にはマントルピース(煙突からサンタクロースが降りて来る暖房を兼ねた加熱設備)が開発された。しかしヨーロッパで一般に中華料理に匹敵する高度な加熱料理が出来るようになったのは、産業革命以後に、ヨーロッパ型の煙道立ち竈というべき煙突を備えたレンジが普及してからである。「レンジは鉄製のほかに漆喰、煉瓦、タイル製のものがあり、最初からオーヴンが組み込まれていた。」(中尾1983)

 図録に立ち戻ると、固形燃料を使用している比率が高い国でも、煙道設備なしの地床炉やかまどが中心の地域と煙道つきの改良かまどが中心の地域とがある。

 アフリカ諸国では改良型かまどは概して少ないが、ギニアビサウといった例外国もある。

 東南アジアの中では、タイ、ベトナム、ラオスでは改良かまどの比率がやや高いが、中国の影響ではないかと思われる。平竈が多い南アジアでは、改良型は少ない。

 中央アジア、東欧で、改良型かまどの比率が高いのはヨーロッパの台所文化の影響と思われる。



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(2011年8月4日収録)


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