人口動態の推移から、近年、ヨーロッパ先進国で移民流入が増加していると見られる点について図録1172でふれた。先進国全体では図録1171bで見た通り1990年頃を境に増加テンポが早まっている。ここでは、直接各国の移民人口の比率がどのように推移しているかの図録を作成した。OECDデータは少し年次が古い。Eurostatによる欧州諸国の最新データは図録9026参照。

 移民人口を統計的にあらわすには、2つの方式がある。すなわち、外国籍人口(外国人人口)を取る場合と外国生まれの人口を取る場合とがある。たとえば、日本におけるフィリピン人人口という場合、フィリピン国籍の外国人を指す場合もあれば、日本に帰化した者も含めてフィリピン出身の者を指す場合もある訳である。言葉の意味からすれば移民人口とは外国出身の人口であるが、日本の国勢調査では、国籍は調査していても出生地を調査していないので、厳密な意味での移民人口は分からない。ただし、日本の場合、日本生まれでも外国籍の在日韓国・朝鮮人、在日中国人がかなりの人数いるので注意が必要である。

 欧米では外国生まれの人口を調査しているので、外国生まれという意味での移民人口の推移が得られる。

 図を見れば、いずれの国でも移民人口の比率は上昇傾向にあることがよく分かる。欧米の多くの国で10%以上の高い水準に達していることが分かる(図以外の国を含めて最新年の移民人口比率については図録1170a参照)。

 外国人登録によれば、日本の外国人人口は2009年末で219万人、1.7%である。国立社会保障・人口問題研究所の人口移動調査によれば外国生まれの人口比率は1.1%である(2011年)。日本の移民人口比率がいかに欧米諸国と比較して低いかがうかがえよう(OECD諸国の移民人口比率、及び日韓の外国人比率については図録1170a参照)。

 近年の動向を見ると、いずれの国でも上昇傾向にある。ただしスペイン、イタリアなど高失業率の国は横ばいあるいは低下傾向。また、一時期のスペインの大きな上昇、北欧の最近の上昇などが目立っている。反移民、反多文化主義の主張から、2011年7月に、ノルウェーで恐るべき大量殺戮事件が起きたが、当時からノルウェーでは移民の増加が他国より急激だったことが分かる。北欧の中では、デンマークは比較的上昇テンポが緩やかである。

 スペインは高い経済成長を移民流入に頼って達成したといわれるが確かにめざましい移民人口比率の拡大といえる。ただし最近経済が低迷し失業率が急増したので移民も苦境にある。実際、2012年以降、他国が皆移民比率を増大させているのと対照的に同比率が低下傾向にある。スペインは、また、カソリック国にもかかわらず離婚率が世界上位にある点にも社会変化の大きさがしのばれる(図録9100参照)。

 移民人口の出身地別割合、また近年いずれの国からの移民が増加したかについては、同一図録でふれると大きくなりすぎるので、別途、これについて図録1171aを作成したのでごらんいただきたい。結論的には、各国でどの国からの移民が多いかは多様であるが、一般傾向として、東欧からの移民の増大とともに旧植民地途上国からの移民が同時に拡大している。

 中東移民と欧州の文化との摩擦については喫茶店文化がないことをさびしく思うイスラム系移民の気持ちからもうかがわれるようだ(図録0476参照)。

 ここで示した移民比率以上に各国の国民は移民が多いと感じている状況については巻末コラム参照。また、移民が成人スキルの水準に及ぼす影響については図録3936参照。

(注1)イタリアの移民人口

 イタリアの移民人口は、”OECD International Migration Outlook 2011”までは、海外生まれの人口ではなく、外国籍人口であらわしていた。しかし、その他の国の海外生まれという定義と実態上の違いは余りないと思われる。というのは、イタリアは、19世紀の建国以来、「両親のいずれかがイタリア人」でなければイタリア国籍を与えられないという「血統主義」をとっているからである。他の国では、国籍を取得した移民も多いが、イタリアではこの規定により、移民は普通いつまでも外国籍のままだからだ。イタリアでは、移民が人口の1割近くにまで増加し、移民の子も57万人、全児童の6%にまで増えているという状況下で、2011年11月のベルルスコーニ首相の退陣後、移民の子に国籍を与える「出生地主義」に転換するべきだという気運が高まっている(毎日新聞2011.11.25夕)。もっとも北部同盟など保守派は北アフリカ出身のイタリア人が増えてしまうと反対している。
(注2)デンマークの移民政策

 デンマークの移民比率の比較的緩やかな上昇はデンマークの移民政策が影響していると見られる。東京新聞は2012年1月14日に「EU域外者移民に厳しいデンマーク - 国際結婚救う”愛の橋”」という記事を掲載した。

 「デンマークの移民政策は、十数年前までは他のEU諸国より少し厳しい程度だった。ところが、2001年に中道右派が政権を奪うと、トルコ系移民が増大するとの懸念から移民法を改正。EU域外出身の配偶者に永住権を認める条件として、24歳以上であることや5万3千クローネ(70万円)の保証金納入などの要件を定めた。10、11年にはさらに条件を厳しくし、保証金は10万クローネに増額。デンマーク語の試験も導入して一定水準の語学力を求めた。その結果、両年とも申請者の4分の1は永住権を取得できなかった。」

 この結果、アフリカ女性と結婚したデンマーク男性などが、夫婦の一方がEU出身者であれば居住が認められるスウェーデンへと移る例が10年前ぐらいから増え、2008年には約1,200人にのぼった。「配偶者の出身国はタイやフィリピン、ウクライナが多いという。」こうしてスウェーデンに移転した者がデンマークと結ぶ全長16キロのオーレスン橋(通称ラブブリッジ)を渡って通勤するケースが相次いでいるというのだ。

 2015年には1月にパリでイスラム過激派による連続テロ事件に続いて2月14〜15日にもデンマークの首都コペンハーゲンでも「表現の自由」をめぐる討論会会場とユダヤ教礼拝所(シナゴーグ)が銃撃され二人が死亡するという連続テロ事件が起こった。「幸福の国世界一」で知られる国で起こったため移民社会の背景に注目が集まった。

 もう一度経緯を振り返ると、デンマークはもともとは移民歓迎の国だった。1960年代から労働力不足を補うため、移民を歓迎し、1980年代からは積極的に難民も受け入れてきた。ところが、「90年代から「高福祉へのただ乗り」などの批判が出始めた。01年に自由党と保守党が連立して誕生したラスムセン政権は、移民の家族の呼び寄せに年齢や所有財産などの条件を設ける移民規制を実施。閣外協力した右翼「デンマーク国民党」党首は移民への差別的な発言を繰り返した。オーフス大のメディ・モザファリ教授(イスラム過激主義研究)は「テロで社会にくすぶる矛盾が露呈した」とみる。ラスムセン政権は難民の母国のイラクやアフガニスタンに派兵した。「若者らは祖国を攻撃されていると感じ、過激化の要因の一つにもなった」。過激派「イスラム国」などに参加するデンマーク人は100〜150人とされ、人口比では西欧でベルギーに次いで多い」(朝日新聞2015年2月23日)。

 2011年に発足した中道左派のトーニングシュミット政権は移民規制を緩和した。移民の人口比は11%と同紙では報じているが、そうであるなら図の推移と比べると、この緩和政策により移民は急増したことになる。この状況に反発する反移民派と雇用情勢が厳しく「幸福の国」の中でかえって疎外感を増した難民出身の若者との間で対立が激化したとも考えられる。沖縄の普天間基地移転問題にも見られるとおり、最低でも県外と出来ない期待を抱かせられた場合の反撥はかえって尾を引くことになるとも言えよう。「イスラム教の支援団体「イスラム社会」広報のイムラン・シャーさん(39)は指摘する。「難民は戦争から逃れ、普通の移民以上に支援が必要。それなのに政治が追い詰めている」」(同)
(注3)スウェーデン政治における移民増加の影響

 移民の増加は欧米の政治状況に大きな影響を与えている。その一例として2013年に16.0%ともっとも移民比率の多いスウェーデンの近年の動きを紹介しよう。

 毎日新聞2014年12月20日経済観測「スウェーデン政治の光と影」宮本太郎中央大教授によると、スウェーデンでは2014年の9月に総選挙が行われ、介護、医療、教育の充実のため消費税などの増税を打ち出した社会民主労働党が勝利して政権に復帰する一方で、ネオナチの系譜を引き、反移民を掲げる極右政党の民主党が13%の得票で第3党に躍り出た。「民主党は、政治難民受け入れを90%減らし、浮いた財源で85歳以上の自国民の医療費を無償化するといった政策を掲げる。野党の穏健党なども極右政党とは手を組まないという態度だ。だが、12月3日、与野党均衡のなかの予算案の議決に際して、キャスティングボードを握る民主党は戦略的に野党の予算案に賛成、これを成立させた。予算案を否決された政府が野党の予算案を執行するという前代未聞の事態となった。政治は八方ふさがりとなり、解散総選挙が決まった」。翌15年春に議会解散が行われることになっているという。(その後、政権与党と中道右派連合の6政党間で達成された合意(12月合意)により再選挙は回避された。ところが2015年10月には政策対立により同合意が破棄され、今後の安定した国会運営に課題が残る状況。)

 排外主義と反在日を主張する次世代の党はネトウヨの盛り上がりに大いに期待したが、ふたを開けてみると2014年12月の衆議院選挙の結果では議席を減らして敗北した。日本では、移民が非常に少ないため、右派の主張が国民全体に広く説得力をもつに至らないためであろう。スウェーデンのように移民受け入れが雇用面で自国民の働き場所を奪っていると感じられたり、また高齢者や低所得者などを支援する社会保障と財源的に切実に競合するとなると多文化共生も自国民の生活も両方大切だという左派の主張は日本でも偽善的とみなされる可能性が強まろう。

 2015年には中東やアフリカから欧州に押し寄せる難民の波が大きくなったが、スウェーデンは、同年、16万3千人の難民申請を受け、人口比でEU最大規模の難民を受け入れた。しかし、2016年に入っても難民の波は収まらず、国内での福祉予算等へのしわ寄せ懸念から反発が強まり、「直近の支持率で、中道左派の与党、社会民主労働党は半世紀で最低の23%に落ち込んだのに対して、反移民の極右政党、民主党は2割に迫った」(東京新聞2016.2.1)。こうした状況下で、スウェーデンは、難民申請が却下された最大8万人を国外退去させる方針を明らかにしている。

【コラム】移民についての欧米の世論


 移民に対する欧米国民の意識については、ピューリサーチセンターの記事(Refugees stream into Europe, where they are not welcomed with open arms、2015.4.24)でも紹介されているが、最初の「移民は重荷」のグラフはこの記事の元となった2014年春調査の結果から描いたものである。イタリアやギリシャといった南欧で「重荷」感が強く、英国、ドイツではそれほどではない。ただし、各国の右派と左派では感覚にかなり大きな違いがあることも分かる。

 また、同記事が引用するドイツマーシャルファンドの意識調査結果が参考になるのでこれからさらに2つのグラフを示した。

 まず、移民が多すぎるかどうかについて、調査対象者を2つに分けて、この図録で紹介した各国の移民比率に関するOECDの推計数字を示した後に訊ねた場合と、示さずに訊ねた場合とでどのくらいの差が出るかを調べた結果を示した。

 興味深いことに、だいたいどの国民も、数字を示されると、数字を知らないで答えた結果よりも「多すぎる」とする割合は大きく減少する。つまり、数字以上に移民が多いと各国の国民は感じているのだということが分かる。日本の我々には、10%以上という数字自体に非常に多いという印象をもつのであるが、驚くことに欧米では、なんだ実際はその程度かと数字は実感より小さいと感じているようなのだ。

 なお、実際の移民比率も参考までに掲げておいたが、「重荷」感も「多すぎる」感も、必ずしも移民比率の高さに比例していないことが分かる。

 最後に意識の時系列変化であるが、移民を問題視する国民の割合は、フランスでは上昇する一方であるのに対して、ドイツや米国では少なくとも2013年の段階では以前より少なくなっていることが分かる。移民比率は低下してはいないので、社会問題化しているかや政策課題の処理がうまくいっているかなどで、問題視するかどうかは変動することがうかがえる。2014年から15年にかけてイスラム過激派テロなどで中東・北アフリカからの難民が増えている状況では、再度、問題視する比率が上昇している可能性もあろう。

(2011年1月10日収録、7月25日更新、ノルウェー追加、11月26日イタリアの移民人口の(注)追加、2012年1月14日デンマーク追加、1月15日日本の移民人口比率記述追加、7月11日更新、2013年6月30日更新、2014年12月19日更新、12月20日注3追加、2015年2月23日イスラム過激派テロを受け注2の記述アップデート、5月2日コラム追加、2015年10月26日更新、2016年2月1日スウェーデンの最近事情追加、11月5日更新)


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