一般に、人間の寿命は、所得水準が向上すると伸びていく傾向にある。時系列的には、どの国でも、経済が成長すると貧しい時代と比較して長寿になってきたし、また、現在時点の国際比較でも、豊かな国ほど平均寿命は長いことが明らかとなっている。

 しかし、平均寿命に関する国内の地域格差は、国全体の所得水準が向上しても、残存する場合があり、米国がその典型である。

 米国の平均寿命は、経済が発展した先進国の中で、もっとも短い点がよく知られているが、これは、国内の地域的な健康格差の大きさによってもたらされている。その理由は、国内の所得格差そのものがなお大きいためであり、また、所得格差があっても健康格差を生じさせないような制度的な仕組み、すなわち国民皆保険を米国が先進国の中では例外的に普及させてこなかったせいでもある。

 この点を、分かりやすく理解するために、州ごとの状況を日本の県別の状況と対照させながら散布図であらわした。

 X軸には、1人あたりの地域GDPであらわした所得水準をとり、Y軸には、平均寿命の男女計の値をとっている。平均寿命と所得水準の地域格差を一挙に見て取ることができよう。また、米国については、2016年の大統領選の州別結果もマークの色であらわした。

 特徴点は以下の5点にまとめられよう。

@ 所得格差(所得水準のばらつき)は東京をふくめると日米でそう変わりがないが、東京を除くと、日本の方が格差が小さいといえる。
A 平均寿命の水準は日本の各地域が米国の各州を明らかに上回っている。日本で最も平均寿命の短い青森県でも米国で最も平均寿命の長いハワイ州を上回っている。
B 寿命の地域格差は日本の方が明らかに小さい。日本の都道府県の寿命の差はほぼ2歳の範囲に収まっているが、米国の場合は、州により7歳ぐらいの差がある(平均寿命の地域格差が日本で大幅に縮小してきた点については図録7248参照)。
C 日本の場合は分布の状態に右上がりなどの傾向は認められず、地域別の所得水準の差は寿命格差にむすびついていない。まさに国民皆保険のもたらす効果といえよう。これに対して、米国の州の場合は、右上がりの傾向、すなわち、所得水準が高いほど平均寿命が長くなるという傾向が認められる。これは貧困層ほど無保険者が多く、適切な医療が受けられていないのが主因と考えられる(州別の無保険者比率と平均寿命の相関については図録1700参照)。
D 所得が低く、寿命も短い州ほど、共和党を支持するレッド・ステートが多く、逆に、高所得で寿命の長い州ほど民主党を支持するブルー・ステートが多い傾向が認められる。

 選挙公約としてオバマ大統領が推進してきた健康保険制度改革(いわゆるオバマケア)は、貧しかったり既往症があると健康保険に加入できないという状況をなくすため、原則として国民全員に何らかの医療保険の加入を義務付けることにより、無保険者の人数を減らして、高額に跳ね上がっている医療費を抑制するとともに、地域的な健康格差を欧州や日本にならって縮め、国全体の平均寿命も先進国として恥ずかしくない水準にまで高めようとする政策だった。

 しかし、2016年大統領選では、本来の意図にそった医療保険改革であれば、もっとも恩恵を受ける筈の寿命の短いレッド・ステートで、かえって改革に反対する投票行動をとったため、結果として、寿命の地域格差是正へ向けた歩みは頓挫した。これはあまりにも皮肉な状況である。

 これは、もはや、利害の問題ではなく、文化のちがいの問題なのではないかと思わせる。米国における平均寿命の地域格差は、必ずしも、所得水準や無保険者の割合だけで生じているわけではない。例えば、他殺率なども、レッド・ステートでは文明国としては異例なほど高くなっている(図録8809)。そこには、太く短く生きようとする文化と細く長く生きようとする文化の対立があるのかも知れない。

 そうだとすると、オバマケアの審判という側面の強かった2016年の大統領選では、老い先短い我々が、長生きするあいつらの健康保持のために、高い保険料を払わされたのではたまらないという気持ちがレッド・ステートの人びとに生じて、政権交代を促進したのかも知れない。

 米国における人種別の平均寿命の推移については図録1600参照。

(2016年12月15日収録)


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