がん(癌、ガン)治療の成果により一時期よりがんを不治の病と考える人は少なくなった。ここではがん治療の成績の推移を図録化した。

 がん治療の成績の指標としては、がんの発見後5年経過したときに生存している人の割合を示す5年生存率が代表的である。ここでの5年生存率は、相対生存率である。これは患者の5年後の生存率と患者と同じ性・年齢構成の一般人集団の5年後の期待生存率の比である。すなわち、がんそのものの生存率を算出している。

 推移を見る前に、まず、現状についてであるが、2006-08年に診断された後の5年生存率を部位別に掲げた。出所は国立がん研究センターがん対策情報センターのホームページ(ここ)。

 部位による違いは大きい。前立腺の5年生存率が97.5%と最も高く、甲状腺が93.7%で続いている。この他、皮膚がんや乳がんでも9割を超えている。他方、低い方は、すい臓(膵臓)が7.7%と最も低く、胆のう・胆管が22.5%で続いている。その他、食道、肝臓、肺、脳・中枢神経系のがんや多発性骨髄腫、白血病が4割未満の低い値となっている。

 男女の差が大きいものについては男女の値も点グラフで加えた。「男女差が大きいがんもあり、肺がんは男性が女性より16ポイントも低かった。逆に、ぼうこうがんは女性が男性より12ポイント低かった。松田智大・国立がん研究センター全国がん登録室長は「男性は喫煙率が高く、たばこが影響する肺がんが多いためと考えられ、女性は、ぼうこうがんの発見が遅れる傾向がある」と説明する」(毎日新聞2016年7月22日)。

 「5年生存率が20%以下の難治性のがんを、少しでも治せるがんに近づけることが、今後の対策として重要である」(黒木登志夫「健康・老化・寿命―人といのちの文化誌」中公新書、2007年)。

 がん対策には早期発見が決定的に重要であり、そのためには、早期がんの状況では特別の症状がない場合が多いので、健康であろうとなかろうと毎年定期的に健康診断を受ける必要がある。

 以下に各種がんの早期発見検査法をかかげた。早期発見への検診体制の整備も図られており、例えば、東京新聞(2016.2.2)によると、厚生労働省は2016年4月から胃がんに関して、エックス線検査(バリウム検査)と並行して内視鏡検査も推奨することを検討している(かつて胃カメラと呼ばれたが今は内視鏡と呼ばれる)。

各種がんの早期発見検査法
  早期発見検査法
全がん (腎臓がん:超音波検査)
食道がん 胃カメラ>レントゲン検査
胃がん 胃カメラ>レントゲン透視
結腸がん ファイバースコープ>潜血反応
直腸がん
肝臓がん 超音波検査
胆のうがん 超音波検査
膵臓がん 超音波検査(運がよければ)
肺がん ヘリカルCT>胸部レントゲン撮影
乳がん マンモグラフィー
子宮がん 頸部の細胞診
前立腺がん PSA検査
(資料)黒木登志夫「健康・老化・寿命」中公新書(2007)

 ただし、医療費抑制の見地から検査の実施に疑問がもたれているケースもある。黒木2007によれば、がんの早期発見の万能手段のように喧伝されているPETという検査法があるが、治療効果測定や転移発見には有効であるとはいえ、検査料が高い割に早期のがんを検出できるとは限らないそうである。また、東京新聞(2016.2.2)によると前立腺がんの検査法のPSA検査については次のような見方がされる。「前立腺がんは、おとなしいがんで、寿命に影響しないのです。PSAというがんの目印(マーカー)の検査が普及したので、多く見つかるようになりました。国はPSA検査のがん検診への導入に慎重です。死亡率の減少につながらないうえ、過剰な検査や診療になるおそれがあるからです」(若尾文彦がん対策情報センター長)。

 次に時系列データを見てみよう。

 がん登録は最近になって広がってきているだけなので全国の時系列データは得にくい。そこで、長くがん登録事業を続けている大阪府の時系列データを次に掲げた。黒木(2007)によれば、大阪府成人病センターが収集・整理しているこのデータ(大阪府におけるがん登録年報)は、執筆当時、一番客観的な治療成績と考えてよいとされていた。この図録の収録当初からこれを使ってきている。診断時の進行度別の成績は図録2164参照。

 なお、年次的に新しい大阪府全体の在住者データは、地域がん登録の全国的な標準化にともない、登録調査の遅れている地域に合わせ、遡り調査による補充届出患者を含まないデータとなっている。76報(2013年5月)からは、大阪市を除く地域でのみ生存確認調査が行われていた1975〜92年にさかのぼって補充届出患者を含まない値を時系列データとして掲載するようになったので、図では、これを掲げている。

 がん全体(全部位)では1976前後3カ年(以下1976年と略す)に診断・発見されたがんについて5年生存率は30.7%であったが、30年以上経過した2008〜09年診断のがんについては60.3%と大いに向上している。診断年が1991年までは大阪市を除く値であり、1994年以降は大阪府全体の値である。この間に時系列上の断層があるので注意が必要である。1994年の全部位については大阪市を含んだ値と含まない値を両方掲げたおいたが、5%ポイントほど大阪市を含んだ方が成績が良いようである。全部位以外では点線で断層部分を示してある。

 ほとんど総ての部位のがんで値は上昇している。

 これは、診断技術の進歩や制度の充実により、がんが健診で早期に発見される場合が増えたのとがんの治療技術が進歩したのと両方の理由によるが、早期発見の効果が大きいのではないかと思われる。ただし、最近は治療技術の向上も大きく寄与しているようである。がんの治療技術の向上については、早期発見の効果を除いた成果を見ることができる発見時の進行度別の5年生存率を示した図録2164参照。

 以下には、全部位について、大阪府のデータを再掲するとともに、全がん協加盟病院の1997年診断以降の5年生存率データを併載した図を掲げた。全がん協データでも、大阪府とほぼパラレルな動きが確認できる。

 国際比較データは図録2166参照。日本の水準はOECD諸国との比較で高い水準にある。

【コラム】がんの10年生存率

 このほど、全国32のがん専門病院でつくる「全国がん(成人病)センター協議会」(全がん協)が、16施設の約3万5000の症例を基に、1999〜2002年にがんと診断され治療を受けた人の10年後の生存率が58.2%だったとする初の集計結果をまとめた(毎日新聞2016年1月20日による。以下同様)。

 がんの診断後の長い期間の生存率が分かれば、5年生存率の期間設定の意義も明らかになると思われていたが、このとりまとめにより、がんの10年後までの生存率カーブも明らかになったので全がん協のHPからダウンロードした値を以下に掲げる。

 全部位のがんでは、5年生存率が63.1%であるのに対し、10年生存率は58.2%だった。5年目以降は生存率の低下が緩やかになることから、これまで5年生存率が通常使われた来たゆえんがうかがわれる。

 国内患者数が多い主要ながんを見ると、胃がんや大腸がんは診断から5〜10年目の生存率が約70%で変わらず、5年後以降の再発の危険は低かった。一方、乳がんは5年後が約90%、10年後が80%と、直線的に下がっていた。肝がんも5〜10年の間で生存率が約3割から2割以下、肺がんも約4割から3割強に低下していた。つまりがんの種類によっては5年生存率では治癒したと安心はできない訳である。ただ、これらは10年以上前の患者のデータで「今は治療法の選択肢も増えており、改善する可能性もある」(国立がん研究センター)という(毎日新聞上掲)。


(2007年7月18日収録、7月20日全がん毎期成績追加、2008年11月3日更新、2009年1月4日他地域等との比較データ掲載、2011年7月26日更新、2012年4月23日全がん長期推移のコメント追加修正、7月13日更新、2013年11月19日更新、2014年11月9日更新、2015年5月9日更新、2016年1月21日コラム追加、2月3日検査法コメントを補訂、8月5日更新、グラフ形式変更、8月8日現状についての全国データを新たに掲載、地域データ比較を削除、2016年12月10日10年生存率グラフを原資料から作成、2017年2月16日全がん協データ併載図)


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