がん(癌、ガン)の発見後5年経過したときに生存している人の割合を示す5年生存率を図録2160で掲げたが、ここでは、がん発見時の進行度別に同じ値を示した。出所は国立がん研究センターがん対策情報センターのホームページ(ここ)。

 ここでの5年生存率は、相対生存率である。これは患者の5年後の生存率と患者と同じ性・年齢構成の一般人集団の5年後の期待生存率の比である。すなわち、がんそのものの生存率を算出している。

 がん全部位では最初に発見された臓器にがんが止まっている場合(限局)は、90.4%の生存率であるのに対して、リンパ節に転移、あるいは隣接臓器に浸潤していた場合(領域)、55.1%、遠隔臓器に転移していた場合13.6%となっている(2006-08年発見のがん)。がんの進行度が進んでいればいるほど生存率は高くなっており、早期発見がいかに重要かがうかがわれる。

 部位ごとにステージ別の5年生存率を見るとどの部位でもステージが初期な程(転移が拡大していない程)生存率が高く、やはり早期発見の効果は高いことがうかがわれる。限局と領域の差は、乳房や前立腺では余り違いがなく、大腸(結腸、直腸)、子宮(子宮頚部、子宮体部)ではやや差が開き、胃、肝臓、肺では限局から領域に移るとかなり生存率が低下する。遠隔の場合は、いずれも生存率が大きく低下するが、乳房や前立腺の場合は、3割以上と生存率が相対的に高くなっている。

 次に、がんと診断されたときに限局だった割合と診断後5年生存率の相関図を掲げた。限局で見つかるがんほど5年生存率が高くなっている様子がはっきりとうかがえる。もっとも肝臓や脳・中枢神経系のように限局で見つかる割合がそう低くない場合でも5年生存率は低いケースもある。

 がん登録は最近になって広がってきているので全国の時系列データは得にくい。そこで、長くがん登録事業を続けている大阪府の進行度別の時系列データを下図に掲げた。出所は大阪府におけるがん登録年報

 2001〜09年発見の生存率の変化を見るとそれぞれのステージでやや生存率が高まる傾向にあるが、2004年発見ごろまでは横ばいに近かったが、それ以降、上昇が目立つようになったようである。

 図録2160では全がん、あるいは部位別に明確な改善傾向が認められたが、ここでのデータを考え合わせると、そうした生存率の改善の要因としては、以前は、健診の充実などによる早期発見の進展や診断技術の発達がそうした生存率の改善に大きく寄与していたが、最近は、治療技術の発達の寄与も大きくなっているのではないかと思われる。

 毎年のバラツキがどの程度はあるかを目で見て分かるようにするためにも2001〜09年の毎年のデータをかかげたが、それほど大きなバラツキはないようである。

 最後に、早期発見が増え、限局の割合が増大しているかどうかについて、5年生存率算出に当っての進行度別の対象者数の推移を確認しておこう。

 下図に見るとおり、前立腺がんについては限局の対象者が領域や遠隔よりずっと多く増えており、早期発見が進んで5年生存率の改善に寄与していると見なせる。

 一方、肺がんの対象者数を見ると限局や領域より遠隔の対象者数が一層増加している。こうした肺がんの動きについては、早期発見が後退しているというより、CT機器の発達などによる診断技術の向上により、以前は見つからなかったような微小な転移が見つかるようになり、かつては限局と診断されていた患者が遠隔と診断されるケースが増えているためだと考えられる。こうした状況を"stage migration"と呼ぶ。

 こういう場合、限局と領域のどちらも見かけ上、5年生存率が上昇することが知られている。限局についてはかつてとは異なり純粋の限局の患者となるため当然5年生存率は上昇する。また遠隔の患者には、明らかな進行がんの患者だけでなく、かつては限局と診断された患者も含まれるようになるためこれまた当然5年生存率は上昇するのである。上掲の肺がん(あるいはその他の)進行度別の5年生存率の上昇にはこうした要因の側面も含まれていると考えるべきである。

 下図ではがんの全部位で実は限局と領域と遠隔の割合は余り変化が大きくない。前立腺がんのように明確に限局が増えている場合もあれば肺がんのように"stage migration"で限局が相対的に減っている場合もあるからである。しかし、かつての限局は今診断すれば領域や遠隔なのだから、実際上は、限局の割合は増えているのである。実は、当図録では、進行度別の対象者数を固定する標準化によって5年生存率上昇に占める早期発見と治療技術の進歩の要因分解を試みたが、こうした見かけと実際の乖離があるため、そうした試みは断念するに至ったのである。



(2007年7月23日収録、9月13日図の(参考)の記述改善、2008年11月3日更新、2012年7月13日更新、2013年11月19日更新、2014年11月9日更新、2015年5月9日更新、2016年8月5日更新、8月8日全国データ(相関図を含む)新規掲載、8月12日進行度別対象者数の推移)


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