WHOの世界保健統計の2012年版ではじめて高血圧や糖尿病のデータが取り上げられ、日本でも報道された。WHOが定めている糖尿病の診断基準については図録2127コラム「ほんとうに糖尿病や高血圧症は増えているのか」も参照されたい。

 世界全体では、平均寿命が延びたことや、生活スタイルの変化により、かつては豊かな国のものと思われていた慢性疾患が途上国でもみられるようになった点が指摘される。高血圧はいまや世界で4人に1人、糖尿病は10人に1人が罹患しているのである。

 高血圧はサハラ以南アフリカやロシアで特に多く、ヨーロッパのドイツやスウェーデンや中国でも世界平均を上回っている。日本は比較的すくない方である(注1)(注2)。

 糖尿病は、米国、ロシア、ドイツが世界平均を上回っている。高血圧では最低ランクだった米国が糖尿病では最高ランクとなっているのが印象的である。またロシアが両方で上位なのも目立っている。日本は韓国とならんで糖尿病でも割合は低い方である。

 男女差については、サハラ以南アフリカのように差が小さい場合(あるいは糖尿病では逆転)とドイツやフランスのように女が男を大きく下回るかたちで男女差が大きい場合とがある。日本もどちらかというと男女差がある方である。

 日本人は塩分の採りすぎで高血圧が多い、あるいは日本人は遺伝的に糖尿病になりやすい人種といわれることが多いが(注3)、データを見る限り、そうであるにしても現状では改善努力がみのってそれほど悪くないレベルに達していると考えざるをえない。日本人血圧の推移については図録2175参照。

 なお、糖尿病についてはオセアニア諸国で罹患率が高いことが知れれている。近くの国でもフィリピンとは明確にレベルが異なっている。

オセアニア諸国の糖尿病・肥満(2008年)
  糖尿病の割合 肥満の割合
キリバス 23.6 24.9 37.7 53.6
サモア 21.2 23.7 45.3 66.7
クック諸島 20.5 21.1 59.7 68.5
トンガ 17.0 19.3 49.1 70.3
フィジー 13.2 16.4 21.3 42.2
ナウル 12.8 15.2 67.5 74.7
(参考)フィリピン 6.5 6.6 4.5 8.3
(注)糖尿病は空腹時血糖値126mg/dl以上または糖尿病の投薬治療中(25歳以上人口についての標準化比率)。肥満はBMI30以上(20歳以上人口についての標準化比率)
(資料)WHO, World Health Statistics 2012

 糖尿病の出現頻度が場合によって非常に高くなる理由として、倹約遺伝子仮説(thrifty genotype hypothesis)で説明されることが多い。これはかつて飢餓に見舞われることが多い環境に対して血糖値が低下しにくい遺伝素因をもつに至ったグループが近年になって栄養摂取量が増え、運動量が低下すると一気に糖尿病が発現するという考え方である。オセアニアの島々の住民は、彼らの祖先がカヌーを用い遠洋航海をして移住するさなかでこうした特質を獲得し、そのためオセアニア諸島の近代化が進んだ国や都市部では、糖尿病の罹患率が顕著に高くなっているのだと解釈されるのである(大塚ら2012、ハワイ人などの身体の大きさについての同様な説明は図録2190参照)。


(注1)罹患率について

 日本人の高血圧症の罹患率は厚生労働省HPの「日本人と高血圧」では平成18年の国民健康・栄養調査の集計結果にもとづき40〜74才について男性は約6割。女性は約4割とされており、WHOデータの割合はこれよりずっと低い印象である。血圧基準値自体は同じであるのに、WHOのデータと大きく食い違うのは、6割、4割という数字には若い世代が含まれていないこと、またWHOのどの国も同一年齢構成として計算した標準化数値と異なり高齢化の進んだ日本では高齢者の高い高血圧症割合に大きく影響されること、さらにWHOデータでは降圧剤服用者かどうかを高血圧の判定に含めていないのに対しこの数字には基準以下の血圧に抑えられている降圧剤服用者を含むことによるものと考えられる。また、糖尿病については、服薬の基準に差はないが、その他については同様の状況にある。
(注2)日本と途上国の比較

 高血圧や糖尿病など生活習慣病に関する日本と途上国の比較については、途上国の医療担当者が日本に来て研修を受けた際の以下の記事が参考になる(東京新聞2014年6月10日「しなやか血管59−予防探る途上国:日本の歩みに学ぶ」あいち健康の森健康科学総合センター長津下一代)。

「発展途上国の十カ国から十人の保健省医務官らが、「あいち健康の森健康科学総合センター」で、わが国の生活習慣病対策を体験しつつ、学んでいる最中です。帰国後に実行可能な予防対策をひと月かけて考えます。

 日本では高度成長期に多かった脳卒中が減塩、喫煙率低下、高血圧治療などで減少、糖尿病は早期発見で患者数は増えましたが、合併症が出てから初めて発見される人が減りました。メタボ対策で、肥満にも歯止めがかかりつつあります。外国人の目には「血管にやさしい国」と映っているようです。

 研修生は口々に生活習慣病対策が進まない理由を述べます。「ビッグ・イズ・ビューティフル」という住民意識(トンガ)。歩いていると暴漢に襲われる治安の悪さ(中米)、国民皆保険も健診制度もない。予防プログラムを実施したいが予算がない(カンボジア)。感染症は国の責務を感じるが、生活習慣病は個人の問題という政治の姿勢もブレーキとなっています。

 しかし統計は語ります。彼らの国でも低栄養や感染症が減り、糖尿病や脳卒中、心疾患が最大の健康問題となっていることを。戦後のわが国の対策を振り返りつつ、「自国でできることは何か」を発見できるよう支援したいです。」
(注3)遺伝的な要因

 栄養生理学的には、日本人の塩分摂取量が多かった理由、日本人が遺伝的に糖尿病になりやすい理由は次のように説明されている。引用は鳥井邦夫(2013)による。この点については図録0218も参照されたい。

(塩分摂取量が多かった理由)
「私たちの祖先は、長年のコメ(白米では6パーセントのタンパク質を含む)を中心とした低タンパク質の食事をしてきました。こうした環境のなかでは、食塩を摂るのは、大量のおコメを食べる工夫であり、エネルギーとして炭水化物を消費してさらに穀物から摂取した少ないタンパク質を体内で凝縮することによって、激しい労働に耐えて生き残ってきたのです。」(p.74〜75)。

(遺伝的に糖尿病になりやすい理由)
「日本では、本来、仏教の影響もあり、畜肉を食べる習慣がなく牧畜も発達しませんでした。そのため、良質なタンパク質があまり多く含まれていない(約10パーセント)穀物(特に米や麦)を大量に食べる必要がありました。それでも、農作業などの重労働に従事し、活動的だったため血糖値があまり上昇せず、インスリン分泌能力が低い人が長年にわたって栄養環境に適用し、生き延びてきました。しかし、欧米型の食生活が一般化したことに加えて、活動(労働)量が少なくなると、インスリン分泌能力が低いことが多い日本人は、高脂血症、高血糖症になり、U型糖尿病になりやすくなります。」(p.99)

*参考文献

・大塚柳太郎ほか(2012)「人類生態学 第2版 」東京大学出版会
・鳥居邦夫(2013)「太る脳、痩せる脳 」日経プレミアシリーズ

(2012年6月10日収録、6月11日(注)を追加、2013年9月30日鳥居(2013)引用追加、2014年6月10日注2追加)


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