OECD諸国の身長比較は図録2188に掲げた。そこではアジアの日本人や韓国人は欧米人と比較して背が低いことが示された。それではアジア人相互の身長比較ではどうであろうか。ここでは、OECDがまとめた「図表でみる社会アジア・太平洋版2011」(Society at a Glance: Asia/Pacific 2011)からこの点を示した。

 アジア・太平洋地域の中でオーストラリアとニュージーランドは白人移民中心の国であるが、その他は、アジア人の国である。

 白人が多いオーストラリアとニュージーランドが男の身長では176〜8pと1位〜2位の高さとなっている。

 オーストラリアとニュージーランドを除くと、男女ともにトンガ、フィジーが背の高さで1位、2位となっており、第1グループとなっている。トンガ、フィジーといった太平洋諸島人はオーストロネシア語族(マレー・ポリネシア語族)に属しており、東南アジアを経て人類史的には最も遅く太平洋諸島まで分布圏を広げた種族の子孫である。こうしたことから太平洋諸島人はアジア人の一派と見てよい(図録4170、図録8130)。CIAのThe World Factbookによると、トンガはほとんどがポリネシア人、フィジーはメラネシア人にポリネシア人が混交してできたフィジー人が57.3%、インド系移民が37.6%となっている(2011.12.22)。

 次に、第2グループとして、カザフスタン、アゼルバイジャン、アルメニア(アゼルバイジャン以外は女性のみのデータ)といった旧ソ連の中央アジア諸国と日本、韓国が続く。アルメニア人は少し系統が異なるが、カザフスタン、アゼルバイジャンは、いずれもトルコ系のカザフ人、アゼル人が中心の国である(図録8975)。

 さらに、第3グループとして、モンゴル、中国、マレーシア、北朝鮮のグループが続き、最後に、最も背が低いグループとして、フィリピン、カンボジア、インドネシア、東チモールといった東南アジアやインド、ネパール、バングラデシュ、モルディブといった南アジアの諸国が来る。

 民族ごとの身長の違いは、「遺伝的な素質」と「年少期の栄養状態」(栄養摂取量から病気や労働による栄養のロスを差し引いたものの状況)によって決まる。

 例えば韓国と北朝鮮は同じ朝鮮民族の国ということから「遺伝的な素質」には余り違いがないと考えられるが、経済的な発展度の大きな差から「年少期の栄養状態」にも落差が生じているため平均身長で4〜5pほどの差がある。

 トンガ人、フィジー人はハワイ出身の相撲力士と同様に西洋人並みに背が高い。これは、「遺伝的な素質」によるものだと考えられるが、彼等が種族として長く熱帯に暮らしてきたことから、暑い地域ではからだが小さくなり、寒い地域ではからだが大きくなるという動物共通の法則(ベルクマンの法則−コラム参照)に反している。人類学者の考えでは「これは、次の島にたどり着くまでに何日も要するような、長期間の航海を繰り返したことによると考えられています。海の上は陸上よりも気温が低く、水しぶきもかかりますし、風があるとさらに体感温度は低くなります。そのような環境に耐えられるように、熱帯であるにもかかわらず、寒冷地適応をしたらしいのです。実際にポリネシアの人々は、夜、ほとんど裸でも、水しぶきのかかる海岸で寝ることができるそうです。」(溝口2011)

 「年少期の栄養状態」による身長差は、最大10〜15pに及ぶとされており、理想的な状態改善があれば6世代で最大値に達すると考えられている(Society at a Glance: Asia/Pacific 2011)。

 「年少期の栄養状態」による身長差は、現状での若者と中高年の身長差からもうかがわれる。下図に、世代別の身長の違いを国別に示したグラフをかかげた。


 韓国と北朝鮮の違いは印象的である。韓国では、近年の驚異的な経済発展の影響で栄養状態にも大きな改善があり、中高年の身長に対して若者の身長は、男で6.0p、女で4.1pも高くなっている(アジア・太平洋地域で一番大きな差)。他方、経済が停滞していて、栄養状態の改善が見られない北朝鮮では、若者と中高年の間で身長の差がほとんどない(図録0200、図録8902、図録8903参照)。

 中国も韓国に次いで若者と中高年の身長差は大きくなっており、韓国に次いで高い経済成長を遂げていることがこうした肉体的特徴の面でも裏づけられる格好になっている。

 日本の経済発展は韓国よりずっと先行していたので、日本の若者と中高年の身長差は、アジア・太平洋地域の中でも中位水準にある(図録2182参照)。実際、20〜30年前の1979年の国民栄養調査によれば40代後半でなく40代との差であるが、男6.0cm、女4.5cmとやはり現在の韓国と同じぐらい若者と中高年の身長差があったのである。

 現時点で平均身長が日韓でほぼ同じということは、若者だけとれば、韓国の方が背が高い訳であるが、この差は「遺伝的な素質」によるものだと判断できる。韓国の方が北方民族的な性格が強く、「ベルクマンの法則」通りととらえることが出来るのである。

 データを取り上げた21か国は、トンガ、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、カザフスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、日本、韓国、モンゴル、中国、北朝鮮、マレーシア、カンボジア、インド、フィリピン、ネパール、東チモール、インドネシア、バングラデシュ、モルディブである。

*参考文献

溝口優司(2011)「アフリカで誕生した人類が日本人になるまで 」ソフトバンク新書

【コラム】ベルクマンの法則

 恒温動物(定温動物)は放熱と産熱を組み合わせることによってからだの温度を一定に保っている。寒冷地域であればあるほど放熱を抑える必要がそれだけ大きくなる。放熱量は体表面積にほぼ比例するので、体重当たりの体表面積の小さい動物、すなわちからだの大きい動物ほど有利となる。このため寒冷地に住む恒温動物はからだが大きくなることをベルクマンの法則という。同様の理由で寒冷地では耳、吻、尾、四肢などの突出部が小さくなることをアレンの法則という。

 こうした身体的な特徴は動物の温度適応の1つであるが、コウモリ、クマなどにみられる冬眠や鳥の渡りも低温に対する温度適応である。

 ベルクマンの法則の事例としてよく引かれるのは、クマの大きさである。すなわち、熱帯に分布するマレーグマ、日本からアジアの暖温帯に分布するツキノワグマ、温帯から寒帯に生息するヒグマ、北極近辺に住むホッキョクグマと生息場所が暖かい地域から寒い地域へ移るにつれてだんだんとクマのからだは大きくなる。

(2012年2月13日収録、9月4日1979年の日本の世代別身長差データ追加、2015年3月4日コラムにクマの例を追加)


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