1.欧米諸国

 日本と世界の大陸別各地域の平均身長の長期推移については図録2195で示したが、ここでは、欧米とアジアの主要国について、個別に、平均身長の長期推移を見てみよう。

 欧米で最も背が高いのは歴史的に、最初は、米国人、次に、スウェーデン人、そして現在は、オランダ人と移り変わってきた。欧米が世界の中でも最も背が高いので、これは世界一背が高いのはどの国民かということを意味している。

 オランダ人の平均身長は、現在では、世界一のレベルであるが、19世紀には、米国人がオランダの地位を占めていた。ペリーが日本に来たときには、米国人は世界一だったのである。米国やカナダやオーストラリアといった白人移民地域は背が比較的高かった英国出身者が多い上に、処女地ゆえの食料品の豊富さで世界一背が高かった(図録2195参照)。その中でも19世紀前半は米国がカナダやオーストラリアを凌駕する傾向にあったのである。

 オランダの平均身長は19世紀には、英米、フランス、スウェーデン、ドイツと比較して、より低いか同等のレベルだった。それが、20世紀中に世界一となった理由として、OECDの報告書は、高品質たんぱく質(例えばミルクに含まれるような)がオランダのような人口密度の高い地域に大量に輸送可能となった技術変化をあげている。それにしても、同様の条件にあてはまる地域が欧州には他にもありそうなのに何故オランダ人だけ背が高くなり続けているのかという疑問は消えず、オランダ人だけ得意な「進化」をしているという説まであらわれているという(朝日新聞に掲載されたニューヨーク・タイムズ・ニュースサービス−2015年4月29日)。

 国土の半分は南欧のフランスやイタリア、スペインといった南欧諸国の平均身長は米国や中欧、北欧諸国と比べて相対的に低い水準にあるが、推移については大きく見れば同じパターンをたどっているといってよかろう(スペインが、戦後、他国に遅れて急伸長といった違いはあるが)。

 寒冷地のロシア人は暖かい南欧よりも背が高いはずであるが、1917年ロシア革命後の混乱期、大量の犠牲者を出した第2次世界大戦期、戦後の共産主義時代を通じ、社会経済条件に恵まれなかったためと思われるが、フランス人の身長を大きく下回っていた。最近は本来のロシア人の身長に復帰しつつあるようである。

2.アジア諸国

 次に、OECD報告書の原資料となっているClio-Infra(www.clio-infra.eu)のデータから、アジアの主要国の平均身長の推移を見てみると、各国の経済成長とともに日本人、韓国人、中国人、タイ人の身長の伸びが目立つようになった状況が明らかである。

 日本の1880年代生まれはアジアの中で最も背が低かった。これは遺伝的なものというより江戸時代の経済社会システムによるものだったといえよう。閉鎖社会で通婚圏が狭かったことも関係しているかもしれない(図録2195参照)。ところが、明治維新後にいち早く近代化が進んだ日本では19世紀末生まれから身長の伸びがはじまった。

 これに対して、中国では、同時期、19世紀末〜20世紀初頭生まれの平均身長が一時期低くなっている。この点に当時の社会経済状況の厳しさを見て取ることが可能である。これはおそらくアヘン戦争(1840〜42年)、日清戦争(1894〜95年)などの清朝末期から20世紀前半の日中戦争までの時代に、欧米列強や遅れて植民地分割に参加した日本の進出によって混乱や戦火が続いていたためであろう。その後、戦後世代・共産中国時代の1930年代生まれからは身長が顕著に伸びはじめている。

 中国、タイ、韓国、インドネシアは、アジアの中では日本に遅れて、近代的な経済発展の道をたどることとなったが、平均身長もそれとともに高くなってきていることが分る。

 韓国は19世紀生まれの段階には日本よりは背が高かったが中国よりはかなり身長が低かった。ところが戦後の高度成長もあって、今では、日本や中国を大きく上回りアジア一のレベルとなっている。経済条件の優劣が小さくなると、寒い地域ほど体格が大きくなるというベルクマンの法則がそのまま顕在化することになるのだと考えられる(図録2190参照)。

 もともとアジア諸国の中では背が低い傾向のあるベトナムは1887年成立のフランス領インドシナ連邦の一部として植民地化され、戦後も、フランスからの独立を目指したインドシナ戦争、そして米国と戦ったベトナム戦争が長く続いたため、戦後世代の身長が40年にわたって低くなるという世界でもまれな状況に陥り、また、順調な身長の伸びを開始する時期が1990年生まれ以降とアジアの他の国より大きく遅れたのである。

 欧米人と同じアーリア系のインド人は、19世紀には中国に次いで背が高かったが、その後の長い停滞からか、なお、身長の顕著な伸びは認められていない。

(2015年5月12日収録)


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