1.国による避妊や中絶に関する考え方の違い

 内閣府の少子化に関する国際意識調査の中で、日本、韓国、米国、フランス、スウェーデンについて、避妊や中絶に対する考え方の国際比較が行われている。

 結論からいうと、日韓と欧米では、避妊にせよ中絶にせよ、リプロダクティブヘルスの分野で、女性の主体性を認めるか否かの点でまったく正反対の意識となっている。

 避妊については、日韓は男性が主体的に避妊するものだという意識が多くを占めているのに対して、米国、フランス、スウェーデンでは女性が主体的に避妊するものだという意識が大半を占めている。

 望まない妊娠への対処としては、欧米、特にヨーロッパでは、そもそも女性の権利として中絶が認められるべきとの考えが圧倒しているが、日韓では、母体に害なら認められるという「あるべき」論を回避したプラグマティックな考え方が中心となっている(人工妊娠中絶の国際比較については図録2247参照)。

 米国の場合、ヨーロッパと同様、中絶を女性の権利と考える者が多い一方で、「妊娠した以上生むべきである」という中絶反対の意見も3割程度と比較した5カ国の中では目立って多くなっており、両者がイデオロギー的に対立している様子がうかがえる(図録8650参照)。

 2016年米国大統領選において共和党指名争いで先頭を走る実業家トランプ氏は同年3月30日に「中絶女性に処罰必要」と発言し民主、共和両党から批判が噴出した。「トランプ氏は直後に「女性ではなく、違法に手術した医師が責任を負うべきだ」と修正したが、女性蔑視のイメージが強まることは必至だ。11月の本選に向けて影響が出る可能性もある。トランプ氏は以前、中絶容認派だったが、共和党内の根強い中絶反対論を意識したとみられる」(毎日新聞2016.4.1)。こうした発言は米国における他国と違う世論の状況を踏まえないと理解できないだろう。

 タルコフスキーの映画「惑星ソラリス [DVD]」のリメーク版「ソラリス[DVD]」(2002年米国映画)を見たら、ソラリスにより再生する妻の自殺の原因は主人公である夫に告げずに中絶したことをめぐる夫婦の葛藤と不和であった。米国では葛藤となるものが欧州ではそうはならない可能性があるのかもしれない。

2.避妊法の違いとの関わり

 こうした日韓と欧米との避妊や中絶に関する意識の違いは、戦後の避妊法普及の違いの結果であるとともに要因ともなっていると考えられる。

 日本では、「第二次大戦中コンドームを兵隊が性感染症予防に使い、戦後それを産児制限に使ったことから」、1950年代前半の急速な出生率低下に結びつくとともにコンドーム使用が社会の中に定着し、世界一高い使用率となっている(井上栄「感染症の時代―エイズ、O157、結核から麻薬まで 」講談社現代新書(2000)、下図参照)。

 一方、欧米では、梅毒の蔓延を防ぐ意味から(疫病管理が可能なプロ女性を除き)一般女性の性欲は抑制されてきていたが、「ペニシリンの発見により梅毒への恐怖が減り、そしてコンドームが普及していなかった欧米では、1960年代からは経口避妊薬(ピル)により妊娠を制御することができるようになり、女性は性の自由を獲得した。そのとき、避妊は女性が負担した。」(井上栄「感染症―広がり方と防ぎ方」中公新書(2006))

 コンドームが避妊に関し男性の意思に依存することから、女性の自由拡大を第1とする立場からは、1999年に医薬品として認可されたピルの普及を主張し、10代からの使用・啓発を図ることが望ましいとされる。井上栄(2000、2006)は、コンドームよりピルを優先するこうした考え方が、ピルの拡販を目指す製薬会社やコンドームを推奨しても一銭にもならないがピルなら処方料を手に出来る産婦人科医の利害に後押しされて、ピルの普及がコンドーム使用率の低下にむすびつくと、コンドームがエイズなどの性感染症に果たす役割が低下し、公衆衛生上のリスクが増すと警鐘を鳴らしている(下図にある米国のピルとコンドームの使用率の推移は両者の逆相関を示すものとされる)。

 国連がとりまとめた最近の世界各国の避妊法データは図録2266参照。コンドームは避妊手段ではなく感染症予防のため結構普及している点にも留意が必要である。


(2008年11月25日収録、2009年3月9日更新「2.避妊法の違いとの関わり」を追加、2016年4月1日トランプ発言)


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