日本人からチャレンジ精神が失われている。特に若者においてこれが目立つと言われる。果たしてそうなのかを確かめてみよう。

 統計数理研究所によって「日本人の国民性調査」が1953年以来、5年ごとに戦後継続的に行われている。長期的な日本人の意識変化を見るためには貴重な調査である。ただし、問によっては必ずしも毎回聞いている訳ではない。チャレンジ精神を知るには、1983年と2013年に行われた「できるだけ多くの経験をしたい」、それとも「平穏無事に暮らしたい」のどちらを選ぶかという2選択肢の設問の回答結果が適している。

 この調査はすべて、全国の20歳以上(ただし2013年は85歳未満)の男女個人を調査対象とした標本調査である。各回とも層化多段無作為抽出法で標本を抽出し、個別面接聴取法で実施されている。2013年調査は10〜12月に行われ、回答者は、この問に関しては1,579人だった。

 「なるべく多くの経験をしたい」を選んだ人を「チャレンジ」派、「平穏無事に暮らしたい」を選んだ人を「平穏無事」派と名づけよう。1983年の「チャレンジ」派は63%、それから30年後の2013年の「チャレンジ」派は60%とやや少なくなっているが、そう大きな変化ではないように見える。しかし、年齢別に変化を追ってみると、かなり大きな変化が生じている。すなわち、1983年では20代から70歳以上にかけて、年齢を重ねると「チャレンジ」派が少なくなるという傾向が顕著だったのに対して、2013年にはこうした傾向が余り目立たなくなるという変化がかなり明瞭に認められる。

 「今の若者は安定志向となりチャレンジしなくなってしまい、昔の若者である今の高齢者は昔ながらに積極的だ」と考える見方をしがちであるが、むしろ、以下に述べるように、時代とともに人生経路に構造的な変化が生じているという見方の方が正しいのではないかと思われる(若者の安定志向については図録3184参照)。

 かつては若者は将来へ向けて修行中の身とされ、いろいろな経験を積むのが当然とされており、一方、人生経験豊富な高齢者は老後をじたばたせず平穏無事に過ごすのがよいと考えられていた。1983年の結果はこうした考え方の反映であろう。

 ところが、最近は、こうしたライフコース的な定番の考え方はかつてのようには通用しなくなったようだ。

 20代〜40代では、必ずしも「チャレンジ」ばかりでなく、平穏に人生を楽しむことも重要と見なされるようになった。成長率の低下によって、明日に向かって勉強したり我慢したり苦労したりしても、それに見合った大きな成果が期待できないという経済環境の変化も影響しているだろう(図録4400参照)。また、次に述べるように歳を取っても勉強を続ける必要があるとすれば、若いときだけ勉強というのもバランスが悪いという考え方の変化もあろう。

 一方、高齢者は、かつてと比べて若い頃からからだをすり減らす仕事が少なくなり、医療も発達して健康で元気な者が増えたことに加えて、時代の変化が激しくなり、ITやネットなど長い人生経験が生きない場面も増えて、年取っても勉強したり、チャレンジしたりせざるを得ない状況が生まれているので、平穏無事とばかりは言ってられなくなった。高齢社会の進展で、年金の所得代替率も否応なく低下していくので歳とっても稼がなければならないとしたら尚更である。

 かくして、40代までの若年・中堅層で、「平穏無事」派が増え、50代以上の中高年層で「チャレンジ」派が増え、それと同時に、中高年層の人口ウェイトが高まったことから、30年間の経過の中で、年齢計では、両者が相殺しあって日本人のチャレンジ精神には余り変化がないという結果となったと考えられる(注)。

(注)この30年間に高齢化が進んでいることを考えると、そもそも高齢者には「チャレンジ派」が少ないのでもっとチャレンジ精神は失われていてもよかった筈であるともいえる。回答者の年齢構成が1983年と同一だったとしたら2013年の「チャレンジ」派の比率は何%だったかを計算すると62%である。つまり年齢調整を行うとこの間の日本人のチャレンジ精神の低下幅は1%ポイントにすぎず、回答票数からいって標準誤差は±2〜3%と見なせるので、低下したとは言い切れないことになる。


 上には、男女別に分けて、日本人のチャレンジ精神の変化を調べた図を掲げた。男性、女性ともに、1983年から2013年にかけて同じ傾向の変化が起きているが、変化の程度は女性の方が大きい。

 男性の場合は、2013年になっても、なお、20代から70歳以上にかけて、年齢傾斜が認められる。一方、女性の場合は、1983年には男性以上にチャレンジ派が全体に少なく、また年齢傾斜も男性以上に著しかったが、2013年には、水準が全体として男性に近づくとともに、20代から30代にかけては「チャレンジ」派が低下するものの、その後、60代まで横ばいか、むしろ「チャレンジ」派が多くなり、70歳以上ではじめて平穏無事派が増えるというかたちに構造が変化しているのである。男性がチャレンジし女性はこれについていくといった昔風の役割意識は消え、男女同等に人生に臨むという方向に考え方が変わったともいえる。冒頭図に掲げた年齢別の変化幅を男女別に見た結果でも、若年・中堅層では、「チャレンジ」派が男性以上に減少する一方で、中高年層ではむしろ男性以上に「チャレンジ」派が大きく増加しているのである。この結果、「チャレンジ」派の減少は、女性の計では1%ポイントと、男性計の6%ポイントを大きく下回っているのである。まとめると、男女とも若者層の「消極化」が目立つが、一方で主に中高年女性の「積極化」によって、これが相殺されているというのが実態であるといってよかろう。

 同じことを世代論的に見てみよう。

 団塊の世代(1947〜49年生まれ)は1983年に30代であったが、2013年には、60代となっている。この世代の「チャレンジ」派は、1983年には72%だったのが、2013年には58%と14%ポイントの減である。男女別には、同じ時期に、男性の団塊の世代では77%から58%へと19%ポイントの減であるが、女性の方は、68%から59%へと9%ポイントの減に過ぎない。2013年の「チャレンジ」派は、女性の方が男性を上回っていさえする。全共闘世代を含む団塊の世代のうち、男はすっかり丸くなって好々爺に成り果てているのに、女の方は、まだまだ現役気分旺盛なのである。

(2015年6月8日収録、6月10日年齢調整後の値を計算)


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