NHKの放送文化研究所では1973年から継続して5年おきに、全国の16歳以上の国民5,400人に対する「日本人の意識」調査(個人面接法による)を行っている。2013年の有効回答数は3,070人(回答率56.9%)である。刊行されている報告書は「現代日本人の意識構造 (NHKブックス)」。

 ここでは、この調査により、個人の物質生活として衣食住への充足度がどう推移しているかを見た。近年、格差や貧困の問題が重視されるようになり、日本社会全体を貧困がおおっているような印象であるが、実際に衣食住で困っている人が増えているかどうかを調べてみようという訳である。衣食住に充足していない人の比率がすなわち貧困を感じている人の比率(意識からみた貧困度)ととらえてよいであろう。

 小泉政権(2001年4月〜2006年9月)の構造改革政策によって、格差や貧困が日本社会を蝕むようになったと論じられることが多いが、1998年から2008年にかけて、特に衣食住への充足に変化は見られない。

 1973年から1990年代にかけて充足度がアップしたのち2008年までは横ばいだったが、2013年には再度充足度が上昇している。一方、充足していない人=貧困を感じている人は徐々に減ってきており、2013年には1973年当時の36.1%から18.1%へと半減したのが目立っている。

 さらに格差や貧困の問題は非正規労働者の増加を例に若者層に集中的に現れていると論じられることも多い。

 そこで年齢別の充足度のグラフも掲げた。これを見ると、2008年の結果では、25歳未満の充足度は9割を越え、最も高く、55歳〜74歳で7割未満と中高年の充足度が低くなっている。1973年当時は、30歳代前後で充足度が低く、高齢者の充足度が相対的に高かったのとは全く逆のパターンとなっている。

 本当に若者層は格差や貧困に喘いでいるのだろうかという疑問が生じる。

 もちろん、最下層に属する者の現状はこうした意識調査ではとらえられないという反論はありうる。そうではあるが、近年になって最下層に属する者が厳しい状況となったのなら、もう少し数字に表れてきてもよいという感想を禁じ得ない。むしろ、貧困に喘いでいる者は以前よりは減少しているが、社会の関心がそれ以上にそうした層に注がれるようになったと考える方が合理的である。小泉改革で社会階層の流動性が増し、現在の地位や既得権益にあぐらをかけなくなった者が貧困層に落ち込む可能性を強く意識するようになり、格差や貧困を以前より問題視するようになったととらえられよう。

 2008年末の「年越し派遣村」について、中小零細事業主の中には、いつも我々は景気の変動に左右され、保障のない酷い状況に度々陥ってきたが、派遣村で受けられたような恩恵にいまだかつて与ったことがない、との感想をもつ者がいたという。格差や貧困の社会問題化は金持ちの気分の変化によるとの見方はあながち不当ではなかろう。だいたい弱い立場の貧困者の声が社会に大きな反響を呼ぶというような事態は稀なことだと考えるのが常識だろう。

 悲観的に考える必要はないかも知れない。貧困に陥る可能性を新たに感じるようになった金持ちが貧困者に同情や共感をもつようになったとすればそれは喜ばしいことであろう。金持ちがお金を出し合って貧困救済策を強化するとすればなおさらである。貧困救済策の実施には貧困の増加という事実が前提条件であるならば、貧困が減っているのに、増えていると事実が曲げられてもそれは甘受すべきことなのかもしれない。

(2010年5月3日収録、2014年5月20日年齢計データ更新)


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