草食男子という用語は、2006年10月にコラムニスト・編集者の深澤真紀によってはじめて使われ、2008〜2009年には流行語となった。草食男子化を示すデータは、これまで図録2465などで取り上げてきたが、実際のところ、草食男子は、徐々に現れてきたのか、それとも急に現れたのか、もし急に現れたのなら、何時頃からなのか、を示すデータにこれまで遭遇できなかった。やっと、こうした疑問に応じられるデータを発見したので紹介する。

 日本生産性本部は毎年新人研修を行っており、その際、参加した企業の新入社員に対して意識調査を継続的に行っており、若者の1970年代から長期的な意識変化を探ることができる。この調査の中に、「職場以外では、どんな時に一番生きがいを感じますか」という設問がある。選択肢の一項目として「親しい異性といるとき」があるが、これを選択した若者の割合で、異性間交遊への関心度をうかがうことが可能である。

 この設問への回答結果は、それほど変化の激しいものではない。上位3つの選択肢は、「友達や仲間とつきあっているとき」が4割台で最も多く、次に「スポーツや趣味に打ち込んでいるとき」の約3割が続いている。第3番目の主要回答である「親しい異性といるとき」は、以前はほぼ2割前後で安定的に推移していたが、2000年ごろから、傾向的に低下がはじまり、最近では1割を下回っている。以前から、高校や大学のクラスには、かならずといっていいほど、一定の割合で、同性同士の遊びよりも優先して、女の子とのつきあいに生きがいを感じているように見える者がいたものである。こういう異性間交遊優先の者が2000年頃を境に10数年で半減したのである。これを草食化の進展といってもよいと思う(2000年頃を境にした若者の意識変化の他の側面については図録2466、図録3184参照)。

 この意識調査の回答者である新入社員は男性ばかりではない。この調査がはじまってからいままでに2割台から4割台へと女性比率は上昇している。従って、男女計でのこうした意識変化は、女性比率の上昇によるものとの疑いが残る。そこで、下の図には、「親しい異性といるとき」と回答した者の男女別の比率の推移を追った。

 これを見ると、男女ともに2000年頃から比率が低下しており、草食化がこの頃からはじまっていることが裏づけられる。そればかりでなく。もう1つの特徴、すなわち、2000年頃から、男女差がなくなったという事態の変化にも気づかされる。

 2000年頃までは、異性間交遊を生きがいとする若者については、男性が女性をほぼ5%程度上回っていた。つまり、男は肉食系、女は草食系の傾向があったと見なすことができよう。これは、古今の小説、戯曲などでも、いわば当然の前提とされてきたことである。実際には、女性が男性より異性に関心がないということはなかろうが、意見の表明や行動原理の説明では、そういうことになっていたのである。ところが、これが、2000年頃、すなわち世紀の変わり目で、男女同等へと大きく変化したのである。そして、2000年代では、むしろ、女性の方が回答率が男性を上回り、異性交遊に相対的に積極的との結果となった年も多かった。「肉食女子」という言葉が「草食男子」と対で説得力をもったのもうなずける状況である。なお、「肉食女子」が現われたのは、バブルが崩壊しつつあった1990年からであることも図から見て取れる。まさにお立ち台で踊るボディコンギャルによって一世を風靡したディスコ「ジュリアナ東京」の開業時期(1991〜94年)が転換点だったことが分かる(図録2670)。

 男の方から女にアプローチするのが当然という価値観が歴史的に長く続いていたことを思うと、これは、大げさに言えば、文明史的な変化とも言える。そして、データの推移からは、バブル期の狂騒の余韻が収まった2000年頃を境に、異性への関心度における男女差が消滅するとともに、異性交遊に関心が薄れるということを意味する「草食化」が男女そろってどんどん進みはじめた訳である。もっとも、何故その時期からなのか、また何の要因でそうなったのかについては、いまだ、説得力ある説明を思いつかない。

 より細かく時系列変化を見ると、バブル崩壊後の1990年代前半の数年、男女ともに「親しい異性といるとき」を一番の生きがいにする若者が増大した点が目に付く。上述の通り、特に、それまで低く、控え目な態度を示していた女性の増大、積極化が目立っている。低下傾向を続けていた日本人の血圧や塩分摂取量はバブル期に一時期上昇したが、バブル崩壊後の1990年代前半にはなお上昇を続けていた(図録2173)。外車販売台数のピークも1996年である(図録5458)。実は、バブル現象の精神的側面は経済的なバブル崩壊後に顕著となっていたのだった。不良債権問題に象徴されるようにバブル経済が崩壊したにもかかわらず、そうした状況への適応、清算は先延ばしにされ、狂騒状態がしばらく続いていたのである。ここでのデータも同様の状況を示しているといえる。

 もう1つの短期的な時系列変化としては、1998年新入社員では、「親しい異性といるとき」を一番の生きがいにする者ががぐっと減った点が目に付く。1997年秋の三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券と立て続けの大型金融破綻事件がついにバブルの狂騒に終止符を打った影響と見ることができる。年間の自殺者数が一気に1万人増えて3万人台を突破したのも1998年である。この年の新入社員は、異性と楽しく浮かれている場合ではないという気分に襲われたのであろう。ところが、翌年の1999年、翌々年の2000年にはこうした異例ともいえる状況からの回復が見られた。そして21世紀に入ってから、いよいよ、上記のような草食化を示す傾向的低落が本格化したのである。

 男性の新入社員だけの動きを見れば、2000年を境に草食化したというより、バブル期に高まった肉食化から一転、1991年をピークに、長く続く草食化の流れがはじまったと見ることも可能である。

(2015年4月6日収録、2015年5月29日文章改善、8月25日更新、2016年9月27日更新)


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