我が国における自殺者数の推移や自殺率の高さに関しては、自殺者数が史上最多を更新していることもあって大きな関心を呼び、本図録においても最もアクセスの多いテーマの1つとなっている(特に失業者数と自殺者数の月次推移や自殺者数の年次推移を掲載した図録2740)。

 本図録が引用される掲示板等での議論を見ると「世界で最も高い日本の自殺率」などの表現も見られたため現時点での自殺率の国際比較の図録も追加することとした。

 資料としては、これまでWHOが世界各国から収集整理している死因統計を使用してきた(原資料サイト、最近は121カ国)。今回は、WHOがこれまで自殺率が分からなかった北朝鮮やアフリカ諸国など、不完全データしかない国を含めて172カ国の2012年推計データを自殺予防報告書の中で公表したので、これを使用した。

 自殺率はその他の死因別死亡率と同じように人口10万人当たりの死亡者数で比較されることになっている。死因統計では年齢構造の違いによるバイアスを回避して比較する場合は年齢調整後の値(同じ年齢構成だとした場合の値)を使用するのが慣習であり、上記報告書も自殺率のランキングをWHO世界標準人口の年齢構成だとした場合の年齢調整後で表示しているので日本の報道もこれをそのまま報じている。しかし、ここでは、従来と同様、年齢調整をする前の自殺率(これも同報告書の付属資料に掲げられている)でランキング表示した。一般には高齢者のほうが自殺率が高くなるので高齢化の進んだ国ほど年齢調整後の自殺率は年齢調整前の自殺率より低くなる。実際、日本は、前者は18.5人、後者は23.1人となっており、順位も前者では18位、後者では9位である。日本より若い世界標準人口の年齢構成だとしたら日本の自殺率はこの程度なのである。

自殺率(人口10万人当たり自殺者数)世界ランキング
年齢調整なし 年齢調整後
順位 国名 順位 国名
1 北朝鮮 39.5 1 ガイアナ 44.2
2 韓国 36.6 2 北朝鮮 38.5
3 ガイアナ 34.8 3 韓国 28.9
4 リトアニア 33.3 4 スリランカ 28.8
5 スリランカ 29.2 5 リトアニア 28.2
6 スリナム 27.2 6 スリナム 27.8
7 ハンガリー 25.3 7 モザンビーク 27.4
8 カザフスタン 24.0 8 ネパール 24.9
9 日本 23.1 8 タンザニア 24.9
10 ロシア 22.4 10 カザフスタン 23.8
11 ベラルーシ 21.8 15 ロシア 19.5
12 インド 20.9 18 日本 18.5
(資料)WHO(2014)Preventing suicide:A global imperative

 日本は欧米先進国と比較すると確かにかなり高い自殺率となっている。さらに範囲を広げた国際比較では、図のように、日本は、北朝鮮、韓国、ガイアナ、リトアニア、スリランカ、スリナム、ハンガリー、カザフスタンに次ぐ世界第9位の自殺率の高さとなっている。日本を上回っている国は北朝鮮やガイアナ、スリランカ、スリナムといった一部の途上国、あるいは国内の混乱がなお続く体制移行国だけであり、先進国の多くは日本より低いということから日本の自殺率はやはり異常な値であるといわざるを得ない。もっとも近年韓国が日本を抜きOECD諸国の中で最高となったので先進国中世界一の座は明け渡した格好である(図録2774参照)。

 中国の自殺率については、初の全国調査(1995-1999)で年間自殺者数28万7千人、自殺率は10万人当たり23人というデータも報じられていた(People's Daily Online 2002.11.)が(旧版図録2770a参照)、今回の推計では、12万人、10万人当り8.7人と大きく減少している。

 米国の自殺率は日本の半分強であるが、自殺と同様に社会的ストレスを原因の1つとしていると考えられる肥満による死亡は日本とは比較にならないほど多く、公衆衛生上、大きな問題となっている。この点については図録8800参照のこと。

 なお、日本の自殺率が高いからといって、自殺と結びつけて理解されることが多いメンタルヘルスの状況は特別悪い訳ではなく、むしろ最もメンタルヘルス障害の少ない国である点については図録2140参照。

(自殺率世界マップ)

 同じデータを用いて作成した世界分布地図を見ると、ロシアを中心にユーラシア大陸で自殺率が高く、インドや東欧、フランスなどユーラシア大陸周辺部でやや高く、北米大陸で低く、ラテンアメリカ、アフリカではさらに低いという状況が見てとれる。アフリカの東南部は一部に自殺率がやや高い地域が見られる。。

 大陸の南東方向に位置する島国である日本、スリランカ、キューバは何故か自殺率が高い。これは単なる偶然だろうか?

 世界各国の自殺率と他殺率の相関を図録2775に示したが、これを見ればラテンアメリカは自殺率が低いので幸せな国と単純には言えないことがわかる。一方、日本は自殺率は高いが他殺率は世界最低水準である。

(年齢構造)

 各国の年齢層別の自殺率を見ると75歳以上の高齢者の自殺率が最も高い国が多くを占めている(下表参照、上記2012年推計データによるものではない)。

 世界で最も自殺率が高いリトアニア、ベラルーシをはじめとする体制移行国では、35-64歳の自殺率が最も高い(ただしロシア、ウクライナの場合は75歳以上)。日本もこのグループに属する。

 自殺率が比較的低いアイルランドやチリ、タイなどでは男子25-34歳、および、英国、あるいはオーストラリア、ニュージーランドといった旧英国植民地は35-44歳といった比較的若い世代の自殺率が相対的に高い。

自殺率の年齢構造

自殺率が最も高い年齢層
15-24 25-34 35-44 45-54 55-64 65-74 75歳以上


20

  ガイアナ
カザフスタン
ベラルーシ リトアニア
ハンガリー
日本
ラトビア
  韓国
ロシア
スロベニア
ウクライナ
13
-20
  スリナム   ベルギー
フィンランド
ポーランド
モルドバ   セルビア
エストニア
スイス
クロアチア
フランス
ウルグアイ
オーストリア
香港
チェコ
中国
6.5
-13
エクアドル ボスニア・ヘル
   ツェゴビナ
アイルランド
チリ
キルギス
エルサルバドル
タイ
ニュージーランド
オーストラリア
英国
スロバキア
スウェーデン
ルーマニア
カナダ
オランダ
トルクメニスタン
プエルトリコ
アイスランド
ノルウェー
モーリシャス
トリニダード
  トバゴ
ドイツ
ブルガリア
キューバ
デンマーク
ボスニア・ヘル
   ツェゴビナ
米国
シンガポール
ルクセンブルク
ポルトガル
アルゼンチン
スペイン
マケドニア
イタリア
(注)複数欄併記は同値
(資料)WTO2012年段階データ(以前の自殺統計コーナーデータ)


(男女別構造)

 図録2772参照。ここに男女計、及び男女別の値や順位を掲載している。

(各国事情)

 WHOのデータ公表を受けて毎日新聞2004年10月2日では自殺に関して各国駐在員の報告をまとめている。この記事をはじめとしてその後の報道などから各国事情についてコメントする。(主要国の自殺率長期推移については図録2774参照)

−ロシア・リトアニア
 旧ソ連に属する両国では男性の自殺率が女性の約6倍と高く、特に45〜54歳の自殺率が高い。体制移行に伴うストレス増大の影響からか、男性の自殺の原因はアルコールが筆頭にあげられている。ロシアでは男性の平均寿命が58.4歳と極めて低く(2002年データ、WHOによる。女性は72.1歳)、異常な寿命低下が厭世観をさらに募らせている悪循環の存在を指摘する人口学者もいるという。もっとも、旧ソ連地域ではソ連時代の1980年代から自殺率は世界の上位にあり、91年末のソ連崩壊に伴う社会混乱にだけもっぱら要因を求めることは出来ない。

−フィンランド
 フィンランドは自殺率(10万人当たり自殺者数)が1950年の15.5から徐々に上昇し、90年には30.3の高率となり、ハンガリーなどと並ぶ自殺大国となった。狩猟に多くの国民が親しむ国柄ゆえ、銃の所持率が高いうえ、男性は「たくましくあれ」と育てられ、周囲に相談する習慣がなかったことに高い自殺率の原因が求められた。政府は86年から対策に本腰を入れた。96年までに自殺者20%減の目標を掲げ、各界の専門家を動員し、87年の自殺者の家族全員に対する調査による要因の洗い出しを踏まえて、未遂者への公的ケア、アルコール過剰摂取防止など多くの行動計画を策定し、それらを実施に移した結果、現在では、日本を下回る世界15位の20.1人にまで自殺率を低下させることに成功した。

−日本
 日本の自殺率の高さについては、WHO精神保健部ホセ・ベルトロテ博士はこう言っている。「日本では、自殺が文化の一部になっているように見える。直接の原因は過労や失業、倒産、いじめなどだが、自殺によって自身の名誉を守る、責任を取る、といった倫理規範として自殺がとらえられている。これは他のアジア諸国やキューバでもみられる傾向だ。」こうした点は当の国の人間では気づきにくい見方かと思われる。(自殺許容度と実際の自殺率との相関を図録2784に掲げた。)
 英エコノミスト誌(2008.5.3)は女子生徒の硫化水素ガス自殺(4月23日)の紹介からはじまる「日本人の自殺−死は誇らしいか」という記事で日本の自殺率の高さについて論評している。経済的な要因についてもふれているが、記事の主眼は日本人の文化的な要因、あるいは社会的特性であり、上記の見方と共通している。「日本社会は失敗や破産の恥をさらすことから立ち直ることをめったに許容しない。自殺は運命に直面して逃げない行為として承認されることさえある。サムライは自殺を気高いものと見なす(たとえ、それが捕虜となってとんでもない扱いを受けないための利己心からだとはいえ)。仏教や神道といった日本の中心宗教は明確に自殺を禁じていたアブラハム系信仰と異なって、自殺に対して中立的である。」日本政府は9年間に自殺率20%減を目標にカウンセリングなどの自殺対策に昨年乗り出したが、同誌は、重要なのは社会の態度であると結論づけている。「一生の恥と思わせずにセカンドチャンスを許すよう社会が変われば、自殺は普通のことではなくなるであろう。」

−スリランカ
 大陸の南東方向に位置する島国である日本、スリランカ、キューバの自殺率が何故か共通して高い。女性が書いたスリランカに関するブログを見ると、本気になったスリラ ンカ男性に対して気を持たせるだけ持たせて振ると自殺してしまうこともあるから要注意、といった記事もある。スリランカと日本とでは、インド、あるいは中国という 西隣の大陸国から伝来した仏教を大陸国で衰えた後も保持しているという共通点がある。歴史的には日本と同じように自決をよしとする武士道があったという。「戦場で勇敢に戦って死んだ武士が、死後天に生まれるという思想」をスリランカではヴィルバットゥという。「日本では仏教、ことに禅が武士道を基礎づけたが、セイロン(スリランカ)でも、武士道が仏教(上座部仏教)とむすびついている。」セイロンの博物館には12世紀につくられた「戦士の自決をたたえる浮彫りがある。日本の自決(切腹)と引き比べて興味深い。」(中村元「古代インド (講談社学術文庫) 」(1977))

−韓国
 近年は日本を上回る自殺率水準にもなり(OECD図録2774参照)、また芸能界での自殺が日韓で大きな関心事となった。韓国では然るべき教育と仕事を得て成功したと見なされること、すなわち体面(appearances)へのこだわりが非常に強く、これへのギブアップが自殺に結びつくとされている(The Economist July 10th 2010)。テレビ俳優パク・ヨンハの自殺は国民的関心を引き起こした。「家族づきあいをしている友人によれば、パク氏は日本で成し遂げた人気に負けないような成功を自国で得ていなかったため、自国でのより大きな名声の追求に疲れ果てていたという。彼はまた父親の健康を心配しており、経済的な困難にも見舞われていたという。(中略)過去50年間に成し遂げた経済的・社会的な進歩にこれだけ誇りを抱いている国の中に、問題を抱えたこんなに沢山の市民があふれているなんて奇妙に思える。しかし、パク・ヨンハが言ったと伝えられているように「人生は余りに厳しい」(This life is so hard.)のだ。」(同誌)

−中国

 農村での自殺率が都市の3倍で、また農村の自殺者のうち半分以上が女性であった(図録2772参照)。革命後女性の地位は向上したとはいえ農村部ではなお旧態依然の考え方も残っており、また一人っ子政策の結果家庭内で女性を生んだ女性を尊重しない雰囲気が一層強まったといわれる。このため農村女性の自尊心は概して低くなり、結婚後の夫婦関係や嫁姑問題などから生じる悩みを解決する方法を見つけられないまま、安易に自殺を選ぶ人が後を絶たないと。農薬の管理を徹底させることで自殺を減らせたともいわれるが、なお、政府は事態の深刻化を受けて「自殺防止計画」を実施するとされていた。
 
 1990年代のこうした状況は、政府の取り組みではなく、自殺率の高かった農村部の女性の都市流出により、劇的に改善されたことが報じられている(右図参照、The Economist June 28th 2014)。「英国の医学雑誌ランセットは2002年に中国の自殺率が1995〜1999年の時期には10万人当り23.2人としていた。今年、香港大学の研究者グループの報告書によれば、2009〜2011年には10万人当り9.8人の水準まで低下した」。理由としては、農村部の女性が都市流出により、農村部での上述の家族環境や自殺手段としての農薬から解放されたことに加えて、「農村部の大家族のアトム化が自殺にむすびつきやすい家族内のいさかいを減じている」点が影響しているという研究者もいるという。

−米国
 米国では10代後半から20代前半若者の自殺が多く、事故、殺人に次いで死因の第3位に位置している。また若者の自殺の半数以上が銃器を使用しているといわれる。若者の自殺の多さへの懸念は強く、米議会は9月上旬、地方政府のカウンセリングへの補助などを内容とする青少年自殺防止法を可決した。

−ガイアナ
 2014年に公表されたWHO報告書で年齢調整自殺率が世界一高いとされたので英国エコノミスト誌もガイアナの自殺事情を報じた(The Economist September 13th 2014)。研究者のヒアリングによれば、家族の支えであることが期待されている男性がその役割を果たせず絶望的となり、家庭内暴力やアルコール中毒に陥るとともに自殺に至るケースが多いとされる。また統計ではインド系のガイアナ人の方がアフロ系よりも自殺率が高いが、これは、農村部にはインド系が多いためだとされる。これは世界的な共通現象であるが、農業労働者や農家従事者が過剰なほど使っている有機リン酸系の殺虫剤や除草剤が衝動的な自殺の契機となっている点が指摘されている。また、ガイアナでは、自殺未遂が犯罪とされており、実際に法が適用になってはないが、そういう法があるだけで、まずいことに未遂は汚名を着せてしまうことになってしまう。

 検索のため、取り上げた172カ国を自殺率の高い順に掲げると次の通り。北朝鮮、韓国、ガイアナ、リトアニア、スリランカ、スリナム、ハンガリー、カザフスタン、日本、ロシア、ベラルーシ、インド、ポーランド、ラトビア、ネパール、ウクライナ、トルクメニスタン、モンテネグロ、ベルギー、エストニア、モザンビーク、スロベニア、セルビア、フィンランド、ジンバブエ、クロアチア、ブルンジ、モルドバ、ブータン、フランス、オーストリア、チェコ、アイスランド、タンザニア、キューバ、ブルガリア、トリニダードトバゴ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、赤道ギニア、ウルグアイ、米国、南スーダン、スウェーデン、タイ、チリ、ドイツ、エルサルバドル、ルーマニア、スロバキア、ポルトガル、ミャンマー、スイス、ウガンダ、ボリビア、オーストラリア、アイルランド、スーダン、カナダ、デンマーク、アルゼンチン、ケニア、ルクセンブルク、ジブチ、アンゴラ、コモロ、ニュージーランド、ノルウェー、オランダ、ザンビア、モンゴル、ニカラグア、カンボジア、エクアドル、シンガポール、中国、キルギス、マラウイ、モーリシャス、エリトリア、コンゴ民主共和国、ソマリア、トルコ、中央アフリカ、コンゴ、パプアニューギニア、ウズベキスタン、ルワンダ、エチオピア、パキスタン、バーレーン、グアテマラ、マダガスカル、スペイン、ガボン、コスタリカ、英国、マルタ、マケドニア、バングラデシュ、アルバニア、イタリア、ラオス、ソロモン諸島、ブルネイ、イスラエル、ブラジル、フィジー、シエラレオネ、コートジボワール、レソト、東ティモール、コロンビア、イラン、パラグアイ、スワジランド、キプロス、ベトナム、モルディブ、モロッコ、カメルーン、ギリシャ、ホンジュラス、カタール、パナマ、ナイジェリア、メキシコ、アフガニスタン、カボベルデ、グルジア、ベニン、ドミニカ共和国、インドネシア、トーゴ、アルメニア、ギニア、ボツワナ、ガンビア、セネガル、タジキスタン、ギニアビサウ、ペルー、イエメン、ブルキナファソ、アラブ首長国連邦、マリ、チャド、フィリピン、南アフリカ、バルバドス、リベリア、マレーシア、ベネズエラ、チュニジア、バハマ、ガーナ、ハイチ、ベリーズ、ナミビア、アルジェリア、モーリタニア、ニジェール、アゼルバイジャン、エジプト、ヨルダン、リビア、イラク、ジャマイカ、クウェート、オマーン、レバノン、シリア、サウジアラビア。

(2004年9月17日新版収録。旧版図録2770aはデータとして総務省統計局「世界の統計」(原資料国連人口統計年鑑)を使用していた。9月19日年齢構造のコメント・表追加、10月4日各国事情追加、2007年11月4日更新、2008年1月14日他殺率との相関のコメント追加、1月18日スリランカに関するコメント追加、8月19日日本人の自殺に関するロンドン・エコノミスト誌の記事コメント追加、2009年4月21日、12月9日更新、2010年7月16日韓国コメント追加、2011年3月17日更新、10月19日更新、2012年12月31日更新、2013年10月29日年齢構造更新、2014年6月13日2012年段階最新データである点は変わらないが年次更新・国追加、マップコメント内容追加、7月11日中国の自殺率についてのThe Economist記事紹介、2014年9月5日WHO自殺予防報告書による推計データにより更新、9月6日報道を見て勘違いする人も出始めたので年齢調整前後のランキング表を掲載、10月6日ガイアナ記事追加)



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