|

| 我が国における自殺者数の推移や自殺率の高さに関しては、自殺者数が史上最多を更新していることもあって大きな関心を呼び、本図録においても最もアクセスの多いテーマの1つとなっている(特に失業者数と自殺者数の月次推移や自殺者数の年次推移を掲載した図録2740)。 本図録が引用される掲示板等での議論を見ると「世界で最も高い日本の自殺率」などの表現も見られたため現時点での自殺率の国際比較の図録も追加することとした。 資料としてはWHOが世界各国から収集整理している自殺統計を使用した。 対象国は日本のほか米国、英国、ドイツ、フランス、オランダ、スウェーデン、イタリア、カナダ、オーストラリアなど欧米先進国、及び韓国、中国(ただし調査地域のみ)、シンガポール、ロシア、リトアニア、ハンガリー、スリランカ、アルゼンチンなど世界103カ国にわたっている。 自殺率はその他の死因別死亡率と同じように人口10万人当たりの死亡者数で比較されることになっている。 日本は欧米先進国と比較すると確かに世界1の自殺率となっている。さらに範囲を広げた国際比較では、図のように、日本は、ベラルーシ、リトアニア、ロシア、カザフスタン、ハンガリーに次ぐ世界第6位の自殺率の高さとなっている。このように国内の混乱が続く体制移行国に次いで高い自殺率ということから日本の自殺率はやはり異常な値であるといわざるを得ない。 中国の自殺率については、初の全国調査(1995-1999)で年間自殺者数28万7千人、自殺率は10万人当たり23人というデータも報じられている(People's Daily Online 2002.11.)がWHOデータとの関係は不明である(旧版図録2770a参照)。 米国の自殺率は日本の半分以下であるが、自殺と同様に社会的ストレスを原因の1つとしていると考えられる肥満による死亡は日本とは比較にならないほど多く、公衆衛生上、大きな問題となっている。この点については図録8800参照のこと。 順位が近年10位以上変化したことで目立っている国は以下の通りである。
韓国は、別データによれば2004年には日本を抜いてOECD諸国の中で最高となった(図録2774参照)。 なお、日本の自殺率が高いからといって、自殺と結びつけて理解されることが多いメンタルヘルスの状況は特別悪い訳ではなく、むしろ最もメンタルヘルス障害の少ない国である点については図録2140参照。 (自殺率世界マップ) 同じデータを用いて作成した世界分布地図を見ると、ロシアを中心にユーラシア大陸で自殺率が高く、インドやイギリス、スペイン、イタリア、ノルウェイなどユーラシア大陸周辺部、及び北米大陸で低く、ラテンアメリカではさらに低いという状況が見てとれる。アフリカの多くの国ではデータがない。 世界各国の自殺率と他殺率の相関を図録2775に示したが、これを見ればラテンアメリカは自殺率が低いので幸せな国と単純には言えないことがわかる。一方、日本は自殺率は高いが他殺率は世界最低水準である。 (年齢構造) 各国の男子年齢層別の自殺率を見ると75歳以上の高齢者の自殺率が最も高い国が大半を占めている(下表参照)。 世界で最も自殺率が高いリトアニア、ベラルーシをはじめとする体制移行国では、男子45-64歳(ロシア、ウクライナの場合は75歳以上)の自殺率が最も高い。日本もこのグループに属する。 自殺率が比較的低い英国、あるいはオーストラリア、ニュージーランドといった旧英国植民地、およびノルウェーやタイなどでは男子25-44歳といった若年層の自殺率が相対的に高い。 自殺率の年齢構造
(男女別構造) 図録2772参照。ここに男女計、及び男女別の値や順位を掲載している。 (各国事情) WHOのデータ公表を受けて毎日新聞2004年10月2日では自殺に関して各国駐在員の報告をまとめている。この記事などから各国事情についてコメントする。(主要国の自殺率長期推移については図録2774参照) −ロシア・リトアニア 旧ソ連に属する両国では男性の自殺率が女性の約6倍と高く、特に45〜54歳の自殺率が高い。体制移行に伴うストレス増大の影響からか、男性の自殺の原因はアルコールが筆頭にあげられている。ロシアでは男性の平均寿命が58.4歳と極めて低く(2002年データ、WHOによる。女性は72.1歳)、異常な寿命低下が厭世観をさらに募らせている悪循環の存在を指摘する人口学者もいるという。もっとも、旧ソ連地域ではソ連時代の1980年代から自殺率は世界の上位にあり、91年末のソ連崩壊に伴う社会混乱にだけもっぱら要因を求めることは出来ない。 −フィンランド フィンランドは自殺率(10万人当たり自殺者数)が1950年の15.5から徐々に上昇し、90年には30.3の高率となり、ハンガリーなどと並ぶ自殺大国となった。狩猟に多くの国民が親しむ国柄ゆえ、銃の所持率が高いうえ、男性は「たくましくあれ」と育てられ、周囲に相談する習慣がなかったことに高い自殺率の原因が求められた。政府は86年から対策に本腰を入れた。96年までに自殺者20%減の目標を掲げ、各界の専門家を動員し、87年の自殺者の家族全員に対する調査による要因の洗い出しを踏まえて、未遂者への公的ケア、アルコール過剰摂取防止など多くの行動計画を策定し、それらを実施に移した結果、現在では、日本を下回る世界15位の20.1人にまで自殺率を低下させることに成功した。 −日本 日本の自殺率の高さについては、WHO精神保健部ホセ・ベルトロテ博士はこう言っている。「日本では、自殺が文化の一部になっているように見える。直接の原因は過労や失業、倒産、いじめなどだが、自殺によって自身の名誉を守る、責任を取る、といった倫理規範として自殺がとらえられている。これは他のアジア諸国やキューバでもみられる傾向だ。」こうした点は当の国の人間では気づきにくい見方かと思われる。(自殺許容度と実際の自殺率との相関を図録2784に掲げた。) 英エコノミスト誌(2008.5.3)は女子生徒の硫化水素ガス自殺(4月23日)の紹介からはじまる「日本人の自殺−死は誇らしいか」という記事で日本の自殺率の高さについて論評している。経済的な要因についてもふれているが、記事の主眼は日本人の文化的な要因、あるいは社会的特性であり、上記の見方と共通している。「日本社会は失敗や破産の恥をさらすことから立ち直ることをめったに許容しない。自殺は運命に直面して逃げない行為として承認されることさえある。サムライは自殺を気高いものと見なす(たとえ、それが捕虜となってとんでもない扱いを受けないための利己心からだとはいえ)。仏教や神道といった日本の中心宗教は明確に自殺を禁じていたアブラハム系信仰と異なって、自殺に対して中立的である。」日本政府は9年間に自殺率20%減を目標にカウンセリングなどの自殺対策に昨年乗り出したが、重要なのは社会の態度であると結論づけている。「一生の恥と思わせずにセカンドチャンスを許すよう社会が変われば、自殺は普通のことではなくなるであろう。」 −スリランカ 大陸の南東方向に位置する島国である日本、スリランカ、キューバの自殺率が何故か共通して高い。女性が書いたスリランカに関するブログを見ると、本気になったスリラ ンカ男性に対して気を持たせるだけ持たせて振ると自殺してしまうこともあるから要注意、といった記事もある。スリランカと日本とでは、インド、あるいは中国という 西隣の大陸国から伝来した仏教を大陸国で衰えた後も保持しているという共通点がある。歴史的には日本と同じように自決をよしとする武士道があったという。「戦場で勇敢に戦って死んだ武士が、死後天に生まれるという思想」をスリランカではヴィルバットゥという。「日本では仏教、ことに禅が武士道を基礎づけたが、セイロン(スリランカ)でも、武士道が仏教(上座部仏教)とむすびついている。」セイロンの博物館には12世紀につくられた「戦士の自決をたたえる浮彫りがある。日本の自決(切腹)と引き比べて興味深い。」(中村元「古代インド」(1977)) −中国 農村での自殺率が都市の3倍で、また農村の自殺者のうち半分以上が女性である(図録2772参照)。革命後女性の地位は向上したとはいえ農村部ではなお旧態依然の考え方も残っており、また一人っ子政策の結果家庭内で女性を生んだ女性を尊重しない雰囲気が一層強まったといわれる。このため農村女性の自尊心は概して低くなり、結婚後の夫婦関係や嫁姑問題などから生じる悩みを解決する方法を見つけられないまま、安易に自殺を選ぶ人が後を絶たないと。農薬の管理を徹底させることで自殺を減らせたともいわれるが、なお、政府は事態の深刻化を受けて「自殺防止計画」を実施することとしている。 −米国 米国では10代後半から20代前半若者の自殺が多く、事故、殺人に次いで死因の第3位に位置している。また若者の自殺の半数以上が銃器を使用しているといわれる。若者の自殺の多さへの懸念は強く、米議会は9月上旬、地方政府のカウンセリングへの補助などを内容とする青少年自殺防止法を可決した。 検索のため、取り上げた103カ国を自殺率の高い順に掲げると次の通り。ベラルーシ、リトアニア、ロシア、カザフスタン、ハンガリー、日本、ガイアナ、ウクライナ、韓国、スリランカ、スロベニア、エストニア、ラトビア、セルビア、フィンランド、ベルギー、クロアチア、スイス、フランス、ウルグアイ、モルドバ、オーストリア、ポーランド、香港、スリナム、中国、チェコ、セーシェル、スウェーデン、ブルガリア、スロバキア、ニュージーランド、キューバ、トリニダードトバゴ、デンマーク、ドイツ、アイスランド、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ポルトガル、ノルウェー、カナダ、ルーマニア、米国、ルクセンブルク、オーストラリア、アイルランド、インド、モーリシャス、チリ、シンガポール、キルギス、トルクメニスタン、オランダ、コスタリカ、ジンバブエ、アルゼンチン、スペイン、タイ、セントルシア、ベリーズ、プエルトリコ、ニカラグア、エクアドル、エルサルバドル、マケドニア、マルタ、英国、イタリア、グレナダ、イスラエル、パナマ、コロンビア、ウズベキスタン、ブラジル、パラグアイ、メキシコ、アルバニア、ベネズエラ、セントビンセント・グレナディーン、ギリシャ、バーレーン、タジキスタン、キプロス、アルメニア、グアテマラ、グルジア、フィリピン、クウェート、ドミニカ共和国、バハマ、サントメプリンシペ、ペルー、バルバドス、アゼルバイジャン、イラン、ジャマイカ、シリア、アンティグアバーブーダ、ハイチ、ホンジュラス、セントクリストファーネビス、エジプト、ヨルダン (2004年9月17日新版収録。旧版図録2770aはデータとして総務省統計局「世界の統計」(原資料国連人口統計年鑑)を使用していた。9月19日年齢構造のコメント・表追加、10月4日各国事情追加、2007年11月4日更新、2008年1月14日他殺率との相関のコメント追加、1月18日スリランカに関するコメント追加、8月19日日本人の自殺に関するロンドン・エコノミスト誌の記事コメント追加、2009年4月21日、12月9日更新) |
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||