世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較する「世界価値観調査」が1981年から、また 1990年からは5年ごとに行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。

 この調査の結果から、倫理上の許容度に関する問、すなわち、年金無資格請求、公共料金ごまかし、脱税、わいろ(賄賂)といった不正行為、あるいは同性愛、売春、中絶、離婚、安楽死、自殺といった性倫理上、生命倫理上問題となる行為に対して、各国の国民がどの程度、厳しく考えているか、あるいはどの程度許容しているか、に関する調査について、結果を概観しよう。

 ここで許容度は、「間違っている(認めない)」から「正しい(認める)」まで1から10のいずれかを選んでもらった結果の平均値である。既に同性愛については図録2783で、自殺の許容度については図録2784で見たところであるが、ここでは、国により、種々の倫理的な事項に関する許容度にどのような違いがあるかに焦点をあてよう。

 下図では、同性愛の他、ワイロ、脱税といったかなり悪が認知されている事項や安楽死、離婚、自殺など論議を呼んでいる事項など11項目について、許容度最小国と許容度最大国の幅を示している(日本の許容度は中間の縦線で示している)。



倫理上の許容度:国による幅と日本の位置(2005年期)
  日本の許容度 最小許容国 min 最大許容国 max値 最大と最小の幅
A資格がないのに国の年金
や医療給付などを要求
2.09 オランダ 1.50 セルビア 4.73 3.23
B公共交通機関の
料金をごまかす
1.58 日本 1.58 セルビア 4.50 2.92
C脱税 1.46 ガーナ 1.00 セルビア 4.74 3.74
D仕事に関連して
ワイロを受け取る
1.54 ヨルダン 1.13 セルビア 4.66 3.53
E同性愛 4.77 ヨルダン 1.02 スウェーデン 8.43 7.41
F売春 2.03 ヨルダン 1.01 アンドラ 5.61 4.59
G妊娠中絶 4.59 ヨルダン 1.22 スウェーデン 7.85 6.63
H離婚 6.45 イラク 1.65 アンドラ 8.72 7.06
I安楽死 6.47 ヨルダン 1.24 アンドラ 7.35 6.11
J自殺 2.88 ヨルダン 1.06 スイス 4.56 3.49
K家庭内暴力 1.63 カナダ 1.16 マリ 4.82 3.65
(注)「全く間違っている」から「全く正しい」までの10段階評価の平均点を算出して各国比較。
(資料)世界価値観調査(World Value Survey)サイト

 これに見るとおり、同性愛は最大国と最小国の許容度の幅が7.41と離婚や妊娠中絶を上回って大きい。同性愛ほど国によって見方が別れている倫理事項はないと言っても良いであろう。

 日本の位置を見てみると、どの国でも当然よくないと思われているA〜Dについては、間違っていると答える人が多くなっているのがまず最初に目立っている特徴である。日本人は世界の中でもルールを守る遵法精神の高い国民だといえる。

 次に目立つのは世界的に許容すべきかどうか意見が別れるE〜Kの項目については、F売春、K家庭内暴力を除いて、A〜Dと異なり、日本人は全体としてどちらかというと許容度の高い部類に属する。先進国の国民ならではの寛容精神が見られるといってもよい。

 項目を比較して見て取れるのは日本人の死に関する独自な見方である。特にこれは、I安楽死への許容度が世界の中でも最も高いレベルだという点にあらわれているが、よく見てみると、G妊娠中絶やJ自殺についても世界の中で許容度の高い方に属している。これらに関して許容度の高い西欧的倫理観の影響が大きいが、仏教にもとづく無常観、自死を潔しとしていた伝統などの文化的背景が影響しているともいえよう(安易な判断は下せないが)。しかし、私の考えでは、死刑を廃止しないことを含めて、少なくとも、日本人が死に関連してこうした独自な見方を持っているということだけにはもっと自覚的であった方がよいと思っている。

 以下に茨木のり子の「さくら」という詩の一部を掲げたが、これは日本人にとってそう疎遠なものではない。

  あでやかとも妖しとも不気味とも
  捉えかねる花のいろ
  さくらふぶきの下を ふららと歩けば
  一瞬
  名僧のごとくにわかるのです
  死こそ常態
  生はいとしき蜃気楼と

 最後になったが、冒頭に掲げた各国比較について見て見よう。日本人の倫理的許容度のパターンは、欧米諸国やアジア諸国と比較してどのように位置づけられであろうか。図は、絶対的な許容度ではなく、許容度の最大国と最小国の幅の中の相対的な許容度を示している点に留意が必要である。

 日本の順位について、許容度の小さい項目から大きい項目へと並べてみると、「B公共交通機関の料金をごまかす」から「I安楽死」まで、国際比較における日本の倫理的態度には大きな幅があることがうかがえる。

 欧米のフランス、ドイツ、米国などは、概して何れの項目も許容度が高く(「K家庭内暴力」は例外)、脱税、ワイロなどの不法行為まで含めて倫理的な寛容さ(悪く言えばいい加減さ)が特徴となっている。米国は、ドイツ、フランスと比較して許容度がやや小さいが、これは、同性愛の許容度の分析で見たように(図録2783)、キリスト教保守主義の影響によるものであろう。

 次に、アジア諸国は、不法行為については国によりバラツキが大きく、日本ほど「ダメなものはダメ」とはしていない。一方、「J自殺」「E同性愛」「G妊娠中絶」「H離婚」「I安楽死」の性倫理・生命倫理上の項目については概して許容度が低い点が目立っており、また「K家庭内暴力」については逆に許容度が大きくなっている。

 結論として、欧米諸国やアジア諸国との比較における日本人の特徴としては、第1に、「不法行為に対して潔癖」、第2に、「性倫理、生命倫理の上からは許容度の低いアジア的価値観から許容度の大きい西欧的価値観に大きくシフト」という2点が挙げられよう。

 なお、「飲酒」に対して、これらの行為と同様に許容度を探り、日本人は世界一飲酒に寛容であることを明らかにした別の国際調査の結果については図録1972参照。また、「浮気」に対して同様の許容度を探り、フランス人が一番寛容である点を明らかにした調査結果は、図録2785参照。

(2014年5月12日収録、図録2783の一部を移管して掲載)


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