米国ピューリサーチセンターが2013年春に行った国際意識調査の結果から倫理的・道徳的な許容度の高さを主要国について見てみよう。

 個別の項目の許容度については、図録2785(不倫)、図録1972(飲酒)、図録2683(ギャンブル)、図録2459(婚前交渉)参照。

 各国の相対的な位置関係を知るために、「道徳的に許されない」と答えた者の比率そのものではなく、その比率の各国順位を図に示した。

 順位の分析による各国比較に入る前に、まず、それぞれの倫理項目について、世界の人びとと日本人がどのくらい「許されない」と考えているかを見ておこう(下図)。


 世界の人びとが最もダメだと思っているのは「不倫」であり、78%が許されないと考えている。「ギャンブル」、「中絶」、「同性愛」が50%台でこれに続いている。逆にダメだと思う人が最も少ない項目は「避妊」の17%であり、「離婚」が30%で続いている。

 日本人は総ての項目で世界平均を下回っており、許容度の高い国民であることが分かる。中でも「飲酒」については世界では46%が道徳的に許されないと考えているのに対して、日本人でそう考えるのは6%に過ぎない。

 さて、それでは次に、こうした日本人の許容度の大きさが各国と比較してどの程度のものなのかを順位分析で見ていこう。

 日本人は「飲酒」について世界一寛容な国民となっているが、その他の倫理項目についても6位〜11位と比較的高く、何についても、日本人は道徳的に比較的寛容な国民ということができる。

 フランスは、飲酒が8位と比較的厳しいのを除くと、「不倫」だけでなく、「婚前交渉」、「妊娠中絶」、「ギャンブル」でも世界一寛容である。ドイツもフランスとそう変わらない寛容さを示している。倫理的事項への許容度の高さは、西欧全体の特徴だといえる。

 そして、日本は西欧に次ぐ倫理的な許容度を示しているといえる。

 一方、米国は、一般的には西欧と同様の価値観を有しているとされるが、倫理的な価値観に関しては、「ギャンブル」を除く総ての事項で日本より倫理的に厳しい見方をしている点が目立っている。特に「不倫」に関しては、26位と許容度が低い。

 英国も「不倫」に関しては許容度が17位と中国以下であり、欧米の中では米国と同じように特段に低い。アングロサクソン系のプロテスタント的精神の下では、男女の愛情に関する裏切りに対しては、特に厳しい見方をするのであろう。

 なお、ピューリサーチセンターが米国の組織であることもあって米国については政党支持層別の結果が集計されているので次図に掲げた。飲酒を除いてすべての項目で共和党の方が民主党より許容度が低く、倫理的に厳しい見方をしている。特に、中絶や同性愛については民主党との差が大きい。


 では、項目平均では、どのぐらいの倫理的許容度の順位に当たるかを調べると、民主党は11位程度でイタリア並み、共和党は20位程度で韓国並みである。すなわち民主党は西欧に近く、共和党はアジア儒教国に近いという倫理観的に分裂した状況である(米国国内がレッドステートと呼ばれる共和党支持地域とブルーステートと呼ばれる民主党支持地域とで分裂している状況については図録1710参照。)。

 儒教の影響下にあった東アジアの中では、中国、韓国は、すべてについて、日本より厳しい見方となっている。何故、日本が中国や韓国より倫理的許容度が高いかを考えると2つの要因が考えられよう。

 ひとつには同じ儒教圏と言っても中国本土から距離のある日本の場合は儒教の影響が比較的弱く、もともと倫理的な厳しさの薄いおおらかな国民だったという側面が考えられる。もうひとつは、日本もかつては中国や韓国に近い考え方だったが西欧文明の影響をより早くからより深く受けて来たので寛容度が高くなったと考えることができる。こちらに関しては、経済的な余裕が影響している側面も無視できないだろう。

 両方の要因が作用していると思われるが、後者の要因が主因であろう。

 中国については、「妊娠中絶」への許容度が10位と他と比べて高くなっているのが目立つが、これは、長い間一人っ子政策を継続してきたことの遺産と考えられる。

 日本を除く東アジア諸国は、儒教の伝統から比較的に道徳問題に厳しいとはいっても、世界の中では、途上国一般よりは寛容になっており、ほぼ世界の中では中位を占めている。なお、ロシアもこうした東アジアとほぼ同等の許容度の水準になっており、西欧との対立の背景のひとつとなっている。

 パキスタンが各項目とも世界の中でも最も許容度の低い結果を示しているのは、やはり、戒律の厳しいイスラム教の影響が大きいと思われる。中東やアジアなどのイスラム国ではいずれも、「飲酒」に限らず、総てについて、パキスタンに近い倫理的な厳しさを示しているのである。図中ではトルコの例を示した。

 イスラム過激派のテロ事件がヨーロッパをはじめ世界各地で猛威を振るっており、その背景として、キリスト教圏とイスラム教圏の文明的対立が論じられることが多い。しかし、道徳観からは、イスラムと米国とはそれほど懸け離れてはおらず、むしろ、イスラムと西欧の位置が両極端に位置している点が問題の背景として重要だと思われる。

 西欧社会の中では倫理観の異なるイスラム系の移民が大きく増加している。移民が西欧社会の中でどう適応していくのか、また西欧社会が移民を多文化主義の考え方でどこまで受け入れられるのかが困難な問題を引き起こしているのではないかと想像される。

(2018年6月24日収録)


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