WHOでは、夫から妻への暴力、ドメスティック・バイオレンスが世界的な社会問題となっており、また女性の健康や子どもの出産にも大きな影響を与えているにもかかわらず、統一基準の実態調査が行われておらず、問題の深刻さの認識や啓蒙、あるいは問題解決へ向けての行動計画の妨げとなっていることから、各国現地の研究者や女性団体などの協力を得て、調査結果が有効に活用されるかどうかも考慮しながら、2000年以降11カ国を選定し国際比較調査を実施した。なお、報告書ではDV(ドメスティック・バイオレンス)は幼児虐待や高齢者虐待を含むので、IPV(intimate partner violence)という用語を採用している。(別の調査による日本における状況は図録27902792参照)

 ここではこの調査の一番基本的な結果であるDV被害女性の経験率を図示した。

 身体的暴力あるいは性的暴力のいずれかを受けたことのある女性の比率は、エチオピアの地方部の70.9%から日本の都市部の15.4%まで、大きな幅がある。

 国別では、途上国、貧困国でDV比率が高く、高所得国で低いという一般傾向が見られる。欧米先進国は対象となっておらず、先進国では日本とニュージーランドが取り上げられているが、日本は最も低いDV率となっている。

 都市部と地方部とを比較すると、どの国でも、地方部の方がDV比率が高くなっていることが分かる。

 身体的暴力と性的暴力の経験率の違いでは、おおむね、身体的暴力の経験率の方が高くなっているが、エチオピアの地方、バングラデシュの地方、タイの都市では逆になっている。

 次ぎに、ドメスティック・バイオレンスが、親兄弟や男友達、教師、その他など非パートナーからの暴力と比べて特に多いかどうかを見ておく。夫が殴るのは確かに問題であるが、暴力にあふれた社会か、あるいは女性が殴られやすい環境かどうかとの関連も重要である。女性にとって父親に叩かれるのが普通であれば夫から叩かれるのも不思議に思わない可能性がある。特別にドメスティック・バイオレンスが問題なのかを知る必要がある。

 下の図は、パートナーから身体的暴力を受けた経験率とパートナー以外からの経験率、及び前者の後者に対する倍率をグラフにしたものである。


 どの国、どの地域でも、パートナーからの暴力がパートナー以外からの暴力を上回っている。

 ただし、サモアだけは、パートナー以外からの暴力の経験率がパートナーからの暴力の経験率を上回っている。妻にとってむしろ夫の方がやさしく遇してくれていることとなる。

 その他、非パートナーからの暴力の多いペルーの都市・地方、及びブラジル、タンザニア、ナミビアの都市部では、パートナーからの暴力は非パートナーからの暴力の2倍以下となっており、一般的な暴力的環境からDVが生じている側面が大きい。

 逆に、パートナー以外は暴力を振るうことが少ないのに、パートナーからの暴力が目立っているのはエチオピア(地方)でありパートナーからの暴力はそれ以外の10倍にも達している。

 日本の場合、女性の暴力経験率は、両方とも対象国・地域の中で最低であり、非暴力的な社会といってよいが、DVとそれ以外の比率では約3倍と他と比較して小さくなく、DVが特に問題である点は注目されて良いだろう。日本では夫だからといって妻を殴っている側面が少なくないのである。

 なお、最もよく叩かれた相手は、日本、エチオピア、ペルー、セルビア・モンテネグロでは父親、バングラデシュ、ブラジル、サモア、タイでは女の家族(多分母親)、タンザニアでは教師、ナミビアでは男友達という結果であった。都市と地方はどの国も同じ相手であった。

 最後に、国別に都市と地方の調査対象地域を掲げると以下の通りである。

調査対象地域
 国名  都市  地方
ニュージーランド オークランド 北ワイカト地方
バングラデシュ ダッカ マトラブ
ブラジル サンパウロ マタ・デ・ペルナンブコ地方
エチオピア   ブタジーラ
日本 横浜  
ナミビア ウィントフック  
ペルー リマ クスコ地方
サモア サモア 
セルビア・モンテネグロ ベオグラード  
タイ バンコク ナコンサワン
タンザニア ダルエルサラーム ムベヤ地方
(資料)WHO Multi-country Study on Women's Health and Domestic Violence against Women (2005)、J. Fanslow, E. Robinson, Violence against women in New Zealand: prevalenc and health cibsequences, New Zealand Medical Journal, 2004(ニュージーランドの結果)

 こうしたDVの状況は、場合によっては妻を叩いても当然、あるいは夫から叩かれても仕方がないと考えている結果である。以下は世銀のレポートに掲載されたこの点に関するデータである。


(2008年11月17日収録、2012年2月7日世銀レポート掲載図を追加)


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