1.各国比較

 社会保障のレベルを国際比較するために、社会保障給付費の対GDP比についてOECD各国のデータを掲げた。

 日本は2011年に総計の対GDP比が23,7%となっており、OECD平均22.1%とやや高いが、対象34カ国中、15位と社会保障レベルは中位の国に属する。2003年段階(図録2798x)では、対象29カ国中、23位ともっと低いレベルであったのが、2009年には順位が4位上昇、そして2011年までには順位が8位も上昇している(対象国数はOECDへの加入国が増えたので増加)。

 ヨーロッパ諸国は社会保障レベルが高い点が目立っている。他方、社会保障レベルの低い国は、2つのグループに分けられる。韓国、メキシコ、トルコ、チリに代表される高齢化の比率が低く、社会がなお成熟途上にある開発途上国的な性格の強いグループと米国、カナダ、オーストラリアなど個人による自力救済的な考え方の強い英語圏のグループとである。

 日本はどちらのグループにも属さないにもかかわらず、社会保障レベルが高齢化の割に比較的低い点に特徴がある。

 日本の社会保障がヨーロッパ諸国に比べ低水準にとどまっている理由としては、第1に、カイシャによる保障(企業福祉や雇用保障)や家族相互の保障(家族による介護など)といったインフォーマルな社会保障が機能していた点、第2に、公共事業による雇用の保障(欧州の積極的雇用政策に似た雇用確保による生活保障)が1980年代以降には大きな役割を果たしていた点に求められると指摘される(広井良典「持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想 」ちくま新書、2006年)。そして、近年の財政再建政策や小泉改革路線によって、両者ともに機能しなくなったため、社会保障レベルが比較的低水準なままで推移している状況とあいまって、いわゆる格差問題が大きくクローズアップされているといわれていた。

 しかし、社会保障レベルは必ずしも低いまま推移しているわけではない。2003年から2009年にかけての社会保障の国際的な地位の上昇は、社会保障機能の低下を招いたのが小泉改革(小泉政権2001〜2006年)のせいだとする論調と矛盾する。2003年当時の図の国数をさらにしぼったものが当初の図録収録日前日のNHKスペシャル「セーフティーネット・クライシス〜日本の社会保障が危ない〜」で参照されていた。番組を見ると、最近の医療、介護、障害者、母子福祉、生活保護の施策展開の危うさから税金を含め社会保障を根本から考え直さなければという気運が高まりつつあると感じられた。まさかその時には直近データは改善の方向にあるとは誰も想定していなかっただろう。

 もう少し厳密に日本の社会保障レベルを評価してみよう。

 医療、介護、年金などの支出が高齢者の数に比例して増加することからもうかがえる通り、各国の社会保障は人口の高齢化比率によって左右されている面が強い。そこで、下図で高齢化比率との相関を示した。高齢化が進行している国ほど社会保障レベルが高くなるという一般傾向が明らかである。その中で日本は高齢化が群を抜いて進んでいる国の割に社会保障費は抑制されていることが分かる。米国、カナダ、オーストラリアなど英語圏は高齢化率が低いから社会保障レベルも高くないと理解することも出来る。自力救済的な考え方はむしろ一般傾向から右下にシフトしている点が共通な韓国や日本の方に強くあらわれているともいえよう(図録8034参照)。


 こうした日本の状況は、社会保障に対するアジア的考え方の理由の他に、社会保障は保険料の他に税で支えられているので、低い税金のレベルから仕様がない面もある(図録5105)。また、これとともに国民皆保険などによって医療供給が効率的に機能している点が社会保障費の抑制に効果があがっているとも考えられる(図録1900参照)。

 総計の水準から分野別の状況に目を移すと、日本の社会保障の特徴として、高齢者分野に比して家族(少子化対策)分野が小さい点が目に付く。この点については、図録5120に、それぞれの対GDP比と両者の相対比較についてグラフ化したので参照されたい。

 また、高齢化の高さに比して医療の比率が低い点も目立っている。この点については医療費の対GDP比と高齢化の相関図を図録1900に掲げ、日本の場合、医療を削りすぎているのではないかという分析を加えているので参照のこと。また、同図録にはここで掲げたと同様の高齢化と医療費との相関図も掲げているので参照されたい。

 この他、雇用関係について、失業率が低いために失業給付が小さい他、失業保険以外の職業訓練や再就職支援などの積極的雇用政策がヨーロッパに比して小さい点、障害への社会保障比率が小さい点なども目立っている。

 以下には、高齢者分野のウエイトと高齢化の相関図を掲載した。一般には高齢化が進むと概して退職年金など高齢者向けのウエイトが上昇する傾向があるが、日本の場合、傾向線よりは上に位置している。すなわち、上で見たとおり、社会保障全体では高齢化の割に支出が少ない点が日本の特徴であったが、社会保障に占める高齢者向け支出については、そう低いレベルでないことが分る。その分、家族向けなどの社会保障にしわよせが生じていることがうかがえる。

 この点を、「人生前半の社会保障」の充実を主張する立場から、広井良典は次のように指摘している。「スウェーデン、フィンランドなどの北欧諸国は、社会保障全体の規模は日本よりずっと大きいが、意外にも年金の規模については日本よりも小さい。逆に言えば、これらの国々では、高齢者関係以外の社会保障(子ども関係、若者支援、雇用、住宅など)がきわめて手厚くなっているのである。(中略)日本と似た構造にあるのはギリシャやイタリアなどの南欧諸国であり、これらの国々は社会保障全体の規模は相対的に低いが、年金の規模は大きいとという特徴がある。そしてギリシャの経済危機(2010年〜)の主要な背景の一つが年金問題にあったことは記憶に新しい」(「ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来 」岩波新書、2015年、p.164)。


2.データについて

 各国の社会保障給付費を比較をするためには同一基準でデータを整備しなければならないが、この目的でOECDが社会支出データベースSocial Expenditure Database (SOCX)を作成している。ここで社会支出とは、日本の社会保障給付費(社会保障・人口問題研究所で集計)より広く支出をとらえており、施設整備費など直接個人に給付されない費用まで含まれている。近年は、社会保障・人口問題研究所はOECD基準のデータも公表している。

 社会支出は以下の9つの主要分野ごとに集計されている(OECD基準)。

1. Old age(高齢者)
 老齢年金や高齢者向けデイケア、リハビリ、ホームヘルプなど居宅サービスや施設サービスの現物給付
2. Survivors(遺族)
 遺族年金等
3. Incapacity-related benefits(障害者)
 障害年金、労災、傷病手当等
4. Health(医療)
 医療保険給付、政府による医療サービス、医療費補助
5. Family(家族・子供)
 児童手当、出産手当、産休給付など
6. Active labor market programmes(ALMP)
 積極的雇用政策対策費(失業給付ではなく職業訓練、再雇用補助金など)
7. Unemployment(失業)
 雇用保険給付
8. Housing(住宅)
 住宅補助
9. Other social policy areas(その他)
 生活保護費などその他対策費

 社会支出は公的支出と義務的私的支出に分けられるが、後者は小さいである。ここでは、両方を合計したデータを掲げている。日本の社会保障給付費の対国民所得比の推移を図録2796に取り上げているが、これと比較して社会保障給付費の%が上図ではやや低く出ているが、これは主として母数が国内総生産(GDP)であって、国民所得でない点による。

 対象国は、OECD諸国34カ国であり、具体的には、総計の対GDP比の高い順に、フランス、デンマーク、ベルギー、イタリア、オーストリア、フィンランド、スウェーデン、スペイン、ドイツ、ギリシャ、スイス、ポルトガル、オランダ、スロベニア、日本、英国、ルクセンブルク、ノルウェー、ハンガリー、アイルランド、チェコ、ニュージーランド、ポーランド、アイスランド、米国、スロバキア、オーストラリア、カナダ、エストニア、イスラエル、チリ、トルコ、韓国、メキシコである。

(2008年5月12日収録、2011年5月31日更新、2013年9月30日更新、高齢化率との相関図追加、10月2日コメント補訂、2015年4月4日更新、7月14日高齢化と社会保障高齢者向け比率との相関図掲載)


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