A.最近の状況

 社会保障の給付と負担の世代別格差に関する推計結果を更新した。同じ鈴木亘教授によるものである。

 以前と比べると年金のほか、医療が1950年生まれから、介護が1960年生まれからマイナスとなっており、全体にマイナスシフトしているが、世代別格差の状況は不変である。

 2006年段階のコメントは今でも有効であり、状況はむしろ悪化している。「巨額の財政赤字の返済、社会保険に大量投入されている税金や、今後見込まれる増税を上乗せすれば、将来世代の負担はさらに大きくなる。(中略)問題点が指摘されながら、棚上げになっている政策課題は少なくない。70〜74歳の医療費の窓口負担引き上げなど、余裕ある高齢者に応分の負担をしてもらう改革は先送りされ、年金支給年齢の引き上げ、介護サービスの給付範囲の見直しなど、給付抑制策も遅れている。」(東京新聞2012.5.31)

 また、受給する年金額での世代間格差について分かりやすい例をあげると次図の通りである。公的年金は1986年に大改正があり、少子高齢化に対応した将来にわたる年金財政の維持のため、年金額の算出に使う掛け率を20年かけて引き下げることにした。86年時点で59歳以下の者は、1歳刻みで掛け率が小さくなっている。図の例では、掛け率引き下げ前に当る現在90歳の者の老齢年金は年間288万円だが、引き下げ途中の現在80歳の者だと237万円、引き下げ完了世代の現在70歳未満の者は、90歳の者と比較して3割以上低い198万円となる。この世代だと年金だけでは生活できない可能性が高くなるのである(高木隆司「みんなで年金」東京新聞2016.3.10)。


B.2006年の段階でのグラフとコメント


1.少子高齢化に伴う公的年金の根本的な隘路

 年金保険の負担と給付の関係は、当人が積み立てた額を保険で給付する積立方式と高齢世代の給付を若い世代の保険料で負担する賦課方式とがある。ある程度両方の側面があるが、基本的には、各国、公的年金は賦課方式を取っており、我が国もそうである。民間保険のような積立方式の場合、インフレで物価が高騰した場合、将来の給付が一定水準に満たない危険があるからである。

 ところが、賦課方式の場合、出生数の変動や少子化等で年齢構造上、バランスを大きく失うと、後代の負担が過当に大きくなるという危険があり、急速に出生率が低下した我が国、あるいはこれからの途上国が直面する大きな課題となっている。これは、公的保険でなく、税金で高齢者の生活扶助を行っても同様である。

 なお、社会保障でなく、個々の家庭が高齢者を扶養する方式を取る場合は、なおさら息子・むすめの人数、長生きの程度という家庭による事情の違いにより高齢者を扶養できるかどうかの危険は一層激しくなる。公的保険が必要な所以である。もっとも社会保障方式を取らない場合は、19世紀以前ではそうであったように子どもを多く生もうとする誘因が働くから、少子化の悪影響は現状ほどではなかったであろう。少子化の根本原因は社会保障そのものである(図録1586参照)。

2.社会保障の負担と給付の世代間格差

 昨年(2005年)、鈴木亘東京学芸大学助教授によって作成された年金、医療、介護の保険料負担と給付の総額を生涯賃金に占める割合で世代別に算出した結果によると、世代間で負担と給付の格差はかなりの規模に達する。

 小泉首相は毎年の社会保障制度改革の中で、所得のある人には応分の負担を求めてきており、高額所得者の医療費窓口負担を若者世代と同じ3割まで引き上げ、公的年金控除を大幅に縮小するなど世代間負担格差の改善を図ってきた。

 しかし、「仮に生涯賃金が3億円の場合、給付と負担の最大格差は、40年生まれと2005年生まれで約8000万円にも上る。これでも、04年の年金改革で格差は1000万円近く縮まったが、「焼け石に水」。小泉は社会保障制度の一体見直しを掲げながら、こうした世代間格差の是正にはほとんど切り込めなかった。」賦課方式には、「世代間の助け合い、共助の精神が不可欠だ。」しかし、「鈴木はこう指摘する。「助け合おうにも、現状はあまりにも給付と負担の世代間格差が大きすぎる。」」この不公平感が「年金制度への不満、不信に直結する。」(東京新聞2006.3.28)

 こうした年金への不満は、高齢者ほど資産額が大きいことからも、強まっていると考えられる(図録4690)。年金をめぐる世代間の意識ギャップについては、図録2920参照。

 もっとも、社会保障の負担より給付が多いとされる現在の高齢者は、若いときに、年金保険料を支払いながら、同時に、年金給付を受けていない自分の老親を自らの費用で扶養していた場合も多い点を、本当は、考慮しなくてはならないが、若い世代はそこまで意識するだろうか。

3.世代間格差にもとづく不公平感の克服に向けて

 2004年の通常国会では、議員の年金未納問題や年金改革法の内容などを巡り、批判が急上昇。04年7月の参院選は「年金選挙」となったが、消費税引き上げも含む年金制度の抜本改革を掲げた民主党が、選挙区・比例代表区の双方で、初めて自民党を超えて得票数第1党となった。

 未納三兄弟と言った菅直人民主党党首が自らの未納の発覚によって党首辞任に追い込まれるなど大変な騒ぎであったが、根本には世代間格差にもとづく不公平感が横たわっていたと言えよう。

 こうした世代間格差にもとづく不公平感は、社会保障制度の意義に関する国民の理解とともに、高齢者の既得権である年金受給権の削減(高齢者に少しでも我慢してもらうこと)を進めることによってしか改善されないだろう。しかし、高齢人口の多さと高齢者の投票率の高さを考えると、我が国の政党がそうした主張をすることは選挙に負ける覚悟が必要なので困難を伴う。

 健康保険、介護保険の方は高齢者が安心できる制度を維持する代わりに、年金の方は、所得や資産の多い高齢者を中心に、少し我慢してもらうしかない。あるいは、相続税率の上昇を図って年金保険料負担の軽減につなげるといった対策が考えられる。ともかく、財政再建に向け、医療も年金もと社会保障をすべての面でカットする方向では、大きな解決はかえって困難となろう。

4.最近の年金議論

 郵政解散を受けた2005年衆議院総選挙では、議員年金(国会議員互助年金)改革が課題となり、また民主党は国民年金を含めた年金の一元化を主張し、自民党は、厚生年金と共済年金の一元化を公約した。

 年金への信頼が損なわれ、年金未納等を通じて制度が崩壊することのないよう、年金をめぐる不公平感を除去しなければならない点について異論を唱える者はない。議員年金や公務員共済といった政や官への優遇を除去すると不公平感が根本的に除去されるとは考えにくいが、最大の不公平感の根拠となっている世代間の負担と給付のバランスを改善するには、まず、政や官への優遇を是正することが前提となる。しかし、こうした優遇是正の後、取り組むこととなる公的年金改革について、世代間の公平をこうしたら保てるという解決策に対する我が国リーダーの間における見解の一致がない中では、前提となる政や官の優遇の是正についても力が入らないのが実情であろう。議員年金の適切な廃止や公務員共済と厚生年金の一元化が、単なる国民に対する人気取り対策としての位置づけでは、それら自体なかなか進まないといえる。

 与野党合意の下、2005年4月1日には、年金をはじめとする社会保障制度改革に関して全政党参加の両院合同会議が設立されたが、機能していない。残念なことである。

(2006年5月2日収録、2012年6月8日更新、2016年3月10日受給年金額の比較追加)


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