日本生産性本部は毎年新人社員に対する研修事業のなかでアンケート調査を継続実施している。図は、その中で、新入社員のキャリア意識の変化をたどったものである 。資料出所は公益財団法人日本生産性本部「新入社員意識調査」調査結果である。

 転職についての問で「今の会社に一生勤めようと思っているか」と回答した者は、2000年の20.5%からどんどん増加し、2012年には60.1%とわずか10年の間に3倍となった。他方、「社内で出世するより、自分で起業して独立したいか」という問に「そう思う」と答えた新入社員は、2003年の31.5%から2015年の10.8%へと3分の1へと大きく減っている。

 日本生産性本部が実施している新入社員に対する別の継続調査では、入社動機として、「就社」というより「就職」という意識が高まっているという傾向が出ている(図録3180)。将来性のある会社であるというより、むしろ、自分の能力・個性を生かせる先として、会社を選んだと考えるようになったのである。ところが、この図録の意識変化を見ると、能力を生かせると思える環境に安住し、自分で独立してさらに飛躍しようなどとは考えなくなっている。つまり、実態としては、やはり「就職」ではなく「就社」なのだ。

 英エコノミスト誌は、日本経済が中国経済にGDP規模で追い抜かれる日が来ていることを「ジャパン・アズ・ナンバー3」という題で記事にしている(The Economist, August 21 2010)。その中で、同誌記者は、日本経済の活力が失われ、ナンバー3どころか、ナンバー4、5に落ちていきそうな状況にある点を日本社会における同時進行しつつあるいくつかの劣化現象から占っている。若者から覇気が失われている点については、上図(2010年度までの図)を引用しながら、次のように指摘している。

「かつて現代のサムライと見なされていた日本のサラリーマンは今日では”草食男子”として知られるようになった。(図のデータを解説後)経営者たちは若者が海外赴任を避けることを嘆いている。外務省の官僚さえ日本人の外交官が母国にいたがるとこっそり打ち明けるぐらいだ。」

 そして、この他、資本投下が明日の勝者というより過去の敗者に対して行われる矛盾、企業経営の中で年寄りが次世代をそこなっている矛盾、能力ある女性を責任ある地位につけて活用しない矛盾、首尾一貫しないかたちで古めかしい産業政策を進める政府の矛盾などを指摘し、「今日、日本の最大の障害は日本自体だ」とまで云っている。

 なお、海外勤務についても、これを好まない傾向が増しており、海外勤務のチャンスに応じたいとする意見は2015年に50%を切り、2016年にはさらに少なくなった。

 日本の若者が中国・韓国やインドの若者と比べ、かつての海外雄飛の志を失っている例として、米国における日本人留学生の減少(図録6150)が挙げられることが増えているが(例えば毎日新聞2010年10月15日発信箱)、同様のことをあらわすグラフとして、この図ももっと引用されてよいと思われる。日本の青年層における終身雇用志向が欧米主要国と比較して高い点については図録3804参照。

 若者の安定志向、チャレンジ精神の低下については、図録2392も参照のこと。こちらの図録では、若者の時だけチャレンジする時代ではなくなった点にその理由を求めている。2000年頃を境にした若者の意識変化については、図録2466や図録3720参照。

 なお、同組織が行っている別の新人社員意識調査では、同種の設問を行っているので、参考のために、下図にその結果を掲げた。


 さて、こうしたキャリア意識の変化を就職戦線の厳しさと関連づけて解釈する見方が一時期有力だった。冒頭の参考図では、就職戦線の状況をあらわす就職率と一生社員希望率とが2008年まではパラレルに動いていた状況が示されている。上の「働くことの意識」調査でも、長期推移の中で、「定年まで働きたい」の比率が超氷河期などといわれた2000(平成12)年ごろに非常に低くなっていた(図録3160)。これらから、志望する会社に入れなかったことがこの会社で一生で働きたいという意識の低下につながり、また志望する会社に入れるようになると「一生働きたい」という意見も増えると考えられたのである。

 ところがリーマンショック後の不況に伴う就職氷河期の再来では、2000年ごろの就職氷河期とは異なり、「一生働きたい」の比率は低下せず、むしろ、せっかく入れた会社だから「しがみつく」という意識ではなかろうかと考えられる動きとなっている。つまり、当初は、せっかく希望する会社に入れたから一生勤めるという考え方だったのが、最近は、せっかく入社できたのだから希望する会社でなくとも一生勤めるという考え方のウエイトが増しているのではないだろうか。このような考え方の濃淡を伴いながらも確実に若者の終身雇用志向が復活して来ていると考えざるを得ないのである。

(2010年10月15日収録、2012年4月24日更新、2013年4月26日更新、7月2日参考図追加、2014年6月20日更新、7月10日参考図追加、別調査図更新、2015年5月27日更新、海外勤務意向データ追加、2016年7月8日更新、2017年2月3日「ずっと働きたいか」図更新)


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