労働に関する国民意識の動向を、生活関連の多くの項目に対する国民意識を3年ごとではあるが時系列的に長く調査している内閣府(旧経済企画庁)の国民生活選好度調査から見てみよう。

 ここでは、労働関係の国民意識の項目として、「年収の増加」、「雇用の安定」以下10項目を選び、その重要度について平均点を計算して調べた。

1.最近の状況

 2005〜08年の変化で目立っているのは、「雇用の安定」への重視度の上昇である。2008年度の調査が実際に行われたのは2009年1月後半であり、前年9月のリーマン・ショック以降の世界不況の中で前年末には派遣切りが社会問題となっていた影響が考えられる。

 もうひとつ長期的に低下傾向にあった「休暇」への関心が反転して大きく高まった点が目立っている。長時間労働の問題、子育てと両立させるワーク・ライフ・バランスへの関心の高まりが背景にあると思われる。。

2.2002年〜2005年の特徴

 全体に重要度意識が低下しているのが、2002年から2005年にかけての特徴である。これは景気回復に伴って、雇用条件が改善しているという背景があると考えられる。特に「雇用の安定」「職業紹介・訓練」「転職」の重要性意識の低下にそうした点が反映している。

 他方、そうした中で、上位項目の中で「年収の増加」は、逆に、増加しているのが目立つ。給与水準より雇用確保が大切という考え方への変化が、近年は、給与が余り低くては生活できない、やる気が起きないという意識への復帰が認められよう。

 上昇傾向が続いていた「男女格差解消」の重要性意識が2005年に初めて低下したのも特徴である。女性の雇用上の地位が上昇したのか、あるいは男性が特別優遇されなくなったのか、見方は分かれよう。

3.2002年にかけての変化

 この10項目について1978年から2002年にかけての変化を見ると以下のような点が目立っている。

1)1980年代の前半までは飛び抜けて1位であった「年収の増加」は、その後、横這い、あるいは低下傾向で推移し、特に、96年以降はかなり低下している。これは、よく言われるように、1人当たりGDPの成長により物質的な豊かさが達成されてきた結果であるといえよう。

2)これに対し、年代を経る毎に、ほぼ一貫して重要度意識が上昇し、96年から「年収の増加」に代わって1位を占めているのが「雇用の安定」である。高い経済成長の下で世界的に見ても低い失業率が達成されていた80年代までと違って、90年代にはいると景気の長期低迷や日本型経営の有効性の低下により、失業率が傾向的に上昇してきているが、そうした社会の動きがこうした国民意識の変化となって現れているといってよかろう。

3)「雇用の安定」のように最近まで大きな上昇が続いているわけではないが、「仕事のやりがい」「快適な職場環境」については、80年代に重要性意識が上昇し、その後横這い傾向となったため、最近では、重要度意識が「年収の増加」と同等かそれを上回るレベルとなっている。

4)「雇用の安定」と同様の理由で重要度意識の上昇が目立つ項目として、「職業紹介・訓練」「転職」があげられる。「雇用の安定」のためには各企業が雇用を維持するという方法もあるが、それが大企業一般の経営の悪化により、難しいとすれば、産業構造の変動のもとで別の就職口に早くスムーズに移れるかどうかが重要となるが、そうした点を国民も意識している結果であると考えられる。

5)なお、「転職」に関しては、それだけの理由ではなく、労働生涯を1つの企業に属して送るのではなく、自分のキャリアに応じて就職先を変える自由があってもよいとする考え方の変化も大きく影響していると考えられる。

6)「労使関係の安定」は、90年までは上昇していたが、その後、低下傾向にある。これも「雇用の安定」や職業生涯の自由度の向上に果たす企業別労働組合の限界を国民が感じてきているとも理解できる動きである。

7)「男女格差」も一貫して上昇しているが、男女差別意識が克服されてきていることと並んで、今後、女性の果たす役割に大きな期待がかかっている点が反映していよう。

8)「休暇」については国際的な働きすぎ批判に対応して80年代には大きく重要度意識が高まったが、その後の時短の推進が一定の成果を見たことと長引く不況や老後の不安のため93年から低下傾向にある。


(2006年6月29日更新、2009年6月23日更新)


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