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国家官僚エリートとなる国家公務員T種試験合格者の出身大学ランキングをかかげた。
明治以降の高等文官試験は、戦後、国家公務員試験の上級甲種またはT種(旧外務T種を含む)に引き継がれ、いわゆる国家公務員のキャリア制度の基礎となっている。かつて「武官」に対し「文官」と称されたこの上級公務員は、事務官、技官に分かれ、それぞれ、国家公務員T種(行政、法律、経済)、国家公務員T種(理工、農学)の国家公務員試験の合格者から基本的に充当される。
一目して明らかなとおり、事務官、技官を問わず、東京大学出身者の比重が極めて高くなっている。技官については、2位の京都大学の人数も3位以下の大学と比べてかなり多いのが、事務官と異なるところである。
キャリア官僚の登竜門としては、例外もある。法務省キャリアは国家公務員T種試験合格者と並んで、司法試験に合格し司法修習を経て法務省のポストについた検事が実権を握っている。また、医師から採用する厚生労働省の医系技官も国家公務員T種試験から外れたキャリア公務員採用制度によっている(かつての武官にあたる自衛官の制服組も同様)。
なお、外務公務員採用 I 種試験(外務省独自のキャリア採用試験であり“外交官試験”と呼ばれた)は、これが「外務キャリアの不当な特権意識を助長している」等の批判を受けて廃止され、2001年度からは、国家公務員T種試験の合格者からキャリア外交官となる外務省職員を採用している。
外交に関するこうした試験制度の改革は、キャリア外交官と外務省職員の語学力の低下と外交の停滞につながり、結果として失敗に終わったと元外務省主任分析官の佐藤優が指摘している(毎日新聞「異論反論」2011.1.19)。「それまで外交官になるには外国語に堪能なことが暗黙の前提とされていた。それが崩れてしまったために外務省の文化が内側から変容してしまった。(中略)上司であるキャリア職員の語学力が弱くなった結果、ノンキャリア(外国語が重視される外務省専門職員採用試験で採用された職員)も緊張感をもたなくなり、外務省全体としての語学力が落ちている。」佐藤優は、外交力復活へ向けた対策として、国家公務員T種試験の採用区分に外交職を設け、また外務省専門職採用試験を外交職専門職採用試験として人事院に移管してどの省からもこの試験の合格者を採用できるようにすれば、「語学を重視する文化がよみがえり、外交官の基礎体力が強化される」と提案している。
なお、国会議員の東大比率はここでふれたキャリア官僚の東大比率より低いという点については、図録5217a参照。
取り上げた大学名は、合格者数の多い順に、国家公務員T種(行政、法律、経済)の場合は、東京大、早稲田大、京都大、慶應義塾大、一橋大、東北大、名古屋大、大阪大、九州大、中央大、同志社大、神戸大、明治大、立命館大、北海道大、大阪市立大、岡山大、千葉大、筑波大、横浜国立大、関西大、関西学院大、信州大、東京外語大、首都大学東京、法政大、国家公務員T種(理工、農学)の場合は、東京大、京都大、東京工業大、大阪大、北海道大、東北大、早稲田大、九州大、東京農工大、筑波大、名古屋大、神戸大、立命館大、慶應義塾大、岡山大、横浜国立大である。
【コラム】キャリアとノンキャリアの対比 〜中国史から〜
キャリア官僚の歴史的な源は、中国の科挙合格者(士大夫)であろう。それ以外の実務官僚がノンキャリア官僚ということになる。宮崎市定の「中国史」(1983年)には、キャリアやノンキャリアというものの得失をうかがわせる中国の歴史上の実態についての記述があるので、ここで参考までにふれておこう。
ノンキャリアの一典型は、宦官である。「宦官は殆ど凡てが下層社会の出身であるだけ世故にたけ、読書階級の家庭で飽食暖衣の恵まれた環境に育ち、ただ邁進に(まっしぐらに)科挙の試験を唯一の目標として、無益な学問競争に勝っただけの高級官僚に比べて、実務に長じていることは同日の談でない。そんならばいっそ科挙官僚を全廃して、宦官政府に万事を任せたらばよいか、と言うとそういうわけには行かない。彼等は言わば廉恥の外におかれた利益追求者の集団で、あらゆる知恵を絞って、その地位を利用して賄賂を貪るのを心掛けるのである。」
前近代の中国では役得は常識となっており、官僚はすべて分相応な付け届けを半ば公認されていたらしい。それでも、教養あるキャリア官僚はそれが社会制度を壊さない程度に止めようとする動機も同時に有していたが、ノンキャリアの宦官は、「権勢を得た時の取り込みは、桁外れに甚だしい」のであった。賄賂や天下りによって貴重な財源が失われたことだけが問題なのではない。「これだけの財宝が宦官の懐に入るのと平行して、いかに多くの不正が行われて、それが社会に害毒を流したかが問題なのである。」
また、蒙古民族が中国を支配した元の時代には、科挙を行わず、もっぱらノンキャリアの実務官僚が行政を行っていた。これで行政が簡素化されて合理的な手続きが支配的になったかというとその反対であった。「元代ほど官庁間の文書の往復が頻繁で、時間の空費を顧みなかった時代はない。それは元政府が長きに亘って科挙を行わず、従って進士をとらず、主として役所で実地に叩き上げた胥吏(しょり)をそのまま官員に登用したからである。進士は無用の学を勉強したとは言うものの、まだしもエリート意識によって支えられて個人的な決断力をもっているが、単に経験だけの実務家上りの胥吏は責任を負うことを恐れて決断を回避し、文書を濫発してひたすら上司の意向を窺うに終始するのであった。」
現代日本のキャリア・ノンキャリアの官僚がこうした実態にあると言いたいのではなく、政治家が適正にコントロールしなければ、こうした状況に陥る可能性がある点を歴史上の教訓とすべきなのである。
合理性から逸脱した責任回避のための文書形式主義は原発の検査にもあらわれていたようだ。原発勤務など原子力業界で働いてきて自らが福島第一原発事故で避難者となった北村俊郎氏はこう指摘している。「近年は形式主義も横行するようになった。敦賀発電所に勤務時、国の定期検査では会議室の机の端から端までファイルが並ぶほどだった。通産省(当時)の検査官はひたすらチェックしていく。書類作成に子会社や下請けの社員も動員するため、現場が手薄になるという本末転倒の事態が起きた。役所が完璧な書類を欲しがるのは、「見ましたよ」というアリバイ作りの面が大きい。電力会社はこうした役所文化の影響を強く受けている。管理の特異な官僚的人材ばかりが出世するようになり、トップと現場がほとんど断絶してしまった。米国の原発を調査しに行って感心したのは、発電所幹部が作業員に直接指示していたことだ。幹部といえども、プロの技術者なのだ。」(毎日新聞2012年1月22日) |
(2011年1月19日収録、11月14日更新、2012年1月10日コラム追加、1月22日コラム加筆、7月20日更新)
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