高校一年生の生活
満足度(X軸方向)
男子マイナス女子
(Y軸方向)
上位 1位 ドミニカ共和国 アイスランド
2位 メキシコ スロベニア
3位 コスタリカ オーストリア
下位 1位 トルコ 日本
2位 韓国 マカオ
3位 香港 タイ

 高校1年生を対象とする国際学力テストであるOECDのPISA調査は結果が公表されるたびに世界中で注目され、日本をはじめ世界各国の教育政策に大きな影響を及ぼしている。

 PISA調査では、学力テストのほかに、学力の要因を探るため、先生や同級生との学校生活の状態や学習意欲、生活満足度などの意識の状態を生徒に対する調査票によって調べている。

 世界48カ国の生徒の生活満足度の状態を示すグラフを上に掲げた。ここで生活満足度は、0から10までの11段階で回答を求めた結果の平均点で示されている。

 X軸方向に生活満足度の高さそのもの、Y軸方向に生活満足度の男女差を取った散布図を描いた。これを見ると、欧米、ラテンアメリカ、イスラム圏、東アジア儒教圏といった文化圏ごとに、ほぼ例外なく、国々がグループ分けできる点が非常に興味深い。

 また、日本については、東アジア儒教圏の共通の特徴として、X軸方向の全体的な満足度が世界の中でも最低の水準になっているとともに、Y軸方向については、世界では一般に男子生徒の生活満足度が女子生徒を上回っている中で、唯一、女性生徒の生活満足度が男子生徒上回っている点で、非常に特徴的な位置を占めている。

 それでは、「なぜ、日本などの東アジア儒教圏で生活満足度が低いのか」、また、「なぜ、世界では女子生徒の満足度が低く、日本は唯一の例外となっているのか」。ここでは、前者について、分析してみよう。後者については、図録3942jで分析したので参照。

 成人を対象とした国際調査では、一般に、所得水準と幸福度には相関が認められるが、図を見ると、学校生徒の場合は、所得水準の低いラテンアメリカで満足度が高く、所得水準の高い東アジアで低くなっているなど、両者の関係はほとんど認められない。PISA報告書(第3巻、p.71)では、学校生徒の生活満足度とギャラップ調査による成人の生活満足度との相関は0.2と低いことを明らかにしている。

 学校生徒は、まだ親や社会の庇護の下にあって、所得水準の影響をダイレクトには受けにくい環境にあるので、むしろ、文化的な影響で生活満足度が左右される側面が強いためだと考えられる。

 成人では、一般に、所得水準と幸福度は相関しているが、東アジア諸国は、所得が高い割に幸福度が高くない点が特徴となっている(図録9480、図録9483参照)。どうやら東アジア諸国では、おそらく儒教的な文化の影響で、自己評価が厳しいようなのである。

 東アジア諸国の高校生の生活満足度が世界の中で最も低くなっているのは、上述のように、成人と比較して、学校生徒の場合は、所得水準との関係が薄く、さらに教育分野では儒教の影響がなお大きいこともあって、成人と同じ理由がダイレクトに働いているためだといえる。

 上でふれたPISA報告書は次のように述べている。「ある研究が明らかにしたところによれば、独立心や個人的な感情や関心事が高い価値をもっている米国のような西欧的な文化圏に属する青年にとっては、生活満足度を全体として判断するのに自分がどんな状況があるかが重要であるのに対して、韓国のようなアジア的な文化の中では、社会的な義務や教育的配慮が高い価値を有しており、そうした社会的な基準や期待にどれだけ応えられているかが生徒の生活満足度の主な源泉となっているのである」。

 日本の高校生も、先生や親の期待に十分応えられていないと感じてしまいがちなので生活満足度が欧米などと比較して低くなってしまっていると考えられる。

 さらに、人生態度に関するこれ以外の文化心理学的な要因も考えられる。

 幸福感研究の世界的な第一人者エド・ディーナーとの実験心理学的な研究で知られる大石繁宏氏によれば、社会の流動性が高く、友人を選択する可能性の高い米国では、弱音を吐くと友人からお荷物になりそうな面倒な奴だと思われるプレッシャーがあるという。

 これに対して、友人を選ぶ余地の小さい島国日本では、悲しみや苦しみを共有する人間関係が大事だと思われており、自分が元気すぎると不幸な友人を傷つける場合があるという配慮が働く。欧米起源のスポーツと異なり、日本の武道や大相撲では勝者のガッツポーズが控えられているのも同じことだといえる。

 このため、全体としての満足度を聞くアンケートに答える段階で、欧米では、毎日の満足度のうち良い面だけ回顧し、日本では悪い面だけを思い出して回答する傾向があり、結果として、毎日の満足度は同じレベルでも日本人の満足度は低くなるという(大石繁宏「幸せを科学する」p.35〜43)。

 これが日本をはじめアジアの生活満足度を低くしているもうひとつの要因であろう。

 図で高校生の生活満足度が日本とは対極的に高くなっているのはドミニカ共和国やメキシコである。海外特派員が両国を訪れ、PISA調査のこの結果の理由を探った記事が世界の幸せを探る連載の初回として2018年元旦の朝日新聞に掲載された。

 ドミニカ共和国は、治安が悪く夜出歩く人は少ない。貧富の格差が激しく、学校に行けない子供も多い。同国の著名な精神科の医師は「苦しい生活の中で陽気に踊るドミニカ人の行動はつじつまが合わない。学者たちも十分に解き明かせずにいる」というが、それでも生活満足度が1位の理由は、先生や親など周りの人々との人間関係が親密で、生徒が前向きに生きているからという(朝日新聞、2018年1月1日)。

 ドミニカ共和国と日本とでは高校生の幸福感においてフィルム写真のポジとネガのような関係にあるのであろう。

 図で取り上げた48カ国は、以下である。日本、マカオ、タイ、香港、北京・上海・江蘇・広東、ドミニカ共和国、メキシコ、ペルー、ラトビア、チュニジア、カタール、アラブ首長国連邦、ブラジル、台湾、ロシア、コスタリカ、スペイン、コロンビア、キプロス、ブルガリア、フランス、エストニア、チリ、韓国、ウルグアイ、モンテネグロ、ポルトガル、リトアニア、オランダ、アイルランド、ベルギー、スロバキア、トルコ、米国、クロアチア、ギリシャ、チェコ、スイス、英国、ポーランド、フィンランド、ハンガリー、ルクセンブルク、イタリア、ドイツ、オーストリア、スロベニア、アイスランド。

(2018年3月10日収録)


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