IEA資料による世界の原子炉着工数の長期推移のグラフを掲げた。

 先進国(OECD)では、一時期、さかんだった原子炉の建設が米国とソ連における大きな原発事故の影響もあって1980年代以降大きく減少し、21世紀にはいるとOECD諸国に代わって中国などの非OECD諸国で原子炉の建設がさかんになりつつあったことが明らかである。1980年代以前の非OECDの原子炉着工はソ連のものである。

 OECD Observer誌(2011年第3四半期版)は、IEA, World Energy Outlook 2011からこの図を引用しながら以下のように述べている。

悩ましい原子力(Nuclear power worries)

 2011年3月におこった福島の悲劇によって原子力エネルギーの展望は不安定化した。原子力発電はほとんど60年前の1954年にモスクワの近くのオブニンスク原子力発電所からはじまったが、1960年代と1970年代に強力に成長した後、1980年代には原子力産業は鋭く後退するに至った。これはコストや建設遅延という理由のほか、1979年に米国でおこったスリーマイル島の事故、1986年のウクライナでおこったチェルノブイリ事故によるものである。

 しかし2000年代の中頃から世界の原子力能力はやや回復したが、これは中国における新しい供給やその他地域における発電所の能力増強や長寿命化を反映している。実際、2010年には1980年以来最多の16の新プラントの建設が着工となった。OECD諸国はそのうち1つだけであり、2010年の着工数の63%は中国、そして次にロシアが13%で続いていた。2010年には原子力発電所は世界の電力需要の13%を供給したが、これは1996年のピーク18%から縮小している。2011年初には世界全体で30カ国が441の原子炉を稼働させていた。さらに主にOECD以外の地域でこれ以外の17カ国が新たな原子炉建設の意思を表明していた。

 いまや福島事故によって多くの国の政府が計画の再検討を余儀なくされている。OECDの姉妹機関であるIEAは、多くの政府が原子力エネルギーを利用し続けることを再確認しているが、原子力計画をもつ日本、フランス、米国といった国が安全性の評価や「ストレス・テスト」をはじめる一方で、中国やドイツなど新しい建設計画の承認を一時的に延期する国もあるとしている。すなわち、原子力分野の長期的な見通しについて未確定であることがIEAにとって悩ましいことになっている。

 米国もスリーマイル島原発事故以降30年にわたって原発の新規建設は許可しないで来た。原発事故の影響は大きいのである。

 脱原発に対する経済界の反対論は、エネルギー供給の不安定化や電気料金の上昇による産業競争力の阻害を論拠としている。図をみると今後の長期的展望では経済界のいうことが正しいとしても先進国との競争というよりは途上国、新興国との競争が問題となっていると考えられよう。福島事故に対して先進国の方が途上国より敏感に反応すると考えればなおさらそうであろう。

 経済界の議論は、原子力発電の方が安定的でありかつ効率がよいという必ずしも実証されていない前提に立っているばかりでなく、世界各国は各国が原子力発電に乗り出した時期の意欲のまま原子力発電を続けることを前提としており、原発事故の世界中の人々への精神的影響を踏まえた現実的な将来展望について正直に議論していないと思われる。

(2012年9月20日収録)


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