”OECD Factbook”は2008年に続き2011-12年で成長会計のデータを掲げている。ここではこれを図示した。

 人を増やせば生産を増やせるし、機械など資本を増やしても生産が増やせる。また人や資本を増やさなくても、人や資本といった生産要素の投入で説明できない要因によっても生産を増やせる。これを全要素生産性(MFP:multi-factor productivity、multiでなくtotalを使いTFPとも)と呼ぶ。経済成長の要因を労働(人)の投入、資本の投入の寄与度と全要素生産性に分けて分析するのが成長会計(Growth accounts)である。全要素生産性は規模の経済や技術進歩の指標として位置づける場合も多い。

 労働については、単なる総労働時間の変化だけでなく、熟練や知識などの能力を加味した労働量が指標として必要だが、これは計算が難しいので、上図ではそこまで考慮されていないとされている。従って、労働の寄与度ではなくMFPの一側面としてこの要素は含まれている筈である。この点を考慮してデータを見る必要がある。

 資本については、生産ラインを増やしても資材置き場を適切に配置しなければ工場の生産は思ったように増やせない。また工場を増やせば生産が増加するが、それに合わせて発電所や道路・橋やトラックを増やさなければ投資に比例して生産は増えない。逆に、効率よくそれらが噛み合えばムダが減り、経済規模のメリットにより投資以上に生産が増加する。資本の拡大で説明できない生産拡大が全要素生産性としてカウントされる格好になる。

 また工場や道路などの資本に対して、コンピューターのハード、ソフトや通信ネットワークなど情報通信(ICT)資本は、全要素生産性に直結する性格をもっているので独立した要素として分析している。

 図を見ると、まず労働投入の寄与度が国ごとに大きく異なる。例えば、日本は分析期間の1985年〜2009年に、少子化・高齢化によって就業者数が伸び悩むとともに労働時間の大幅な短縮(図録3100)がもたらされたため、労働投入の寄与度がマイナスになっている。ドイツとフィンランドも同様に労働投入の寄与度がマイナスである。

 さらにこの時期経済成長率が高かった国には、オーストラリア、アイルランド、スペインなど労働投入の寄与度の高い国が多かった点が目立っている(スペインはこれを移民によっていた−図録1171)。

 我が国では通信を含む情報化をITと呼ぶことが多いがOECDでは以前からICTと呼んでいる。コンピューターや通信ネットワークなどICT資本の寄与度は国によって0.2%〜0.6%である。ICT資本の寄与度がそれ以外の資本の寄与度より大きい点が目立っているのは、スウェーデン、ベルギー、英国、米国などである。逆に韓国、アイルランド、イタリア、スペイン、カナダなどでは非ICT資本の寄与度が中心となっている。

 全要素生産性が高い点(1.5%以上)で目立っているのは韓国、アイルランド、フィンランド、日本である。

 下には、X軸にIT化への傾斜度(ICT資本寄与度の資本寄与度に占めるシェア)、Y軸には全要素生産性をとった相関図を掲げた。韓国、アイルランドの経済成長はかなり他国の経済成長と異なる性格をもっていると考えられる。韓国、アイルランドを除くとIT傾斜が進んでいるほど全要素生産性も高い傾向が認められる。


 日本はICTへの傾斜度がそれほど高くないにもかかわらず全要素生産性は高いという特徴がある。バブル経済期を含む分析である点に留意が必要であるが、エレクトロニクス産業が低迷、海外移転したのに代わって自動車や鉄鋼など摺り合わせ技術、省エネ技術の産業が好調である点がこうした結果にあらわれている可能性があろう(図録4750、図録4080参照)。

 韓国の成長はサムソンなどリーディングカンパニーの躍進とともに世界的に注目されている。成長会計的な側面からは、ブロードバンドや携帯電話の著しい普及にもかかわらずICT資本の寄与度は余り高くなく、全要素生産性と非ICT資本の寄与度の大きさが目立っている。全要素生産性については、韓国における過剰ともいえる人的資本のパワーアップ(教育投資)が思い起こされる(図録3929、図録3950参照)。非ICT資本については、韓国の公共事業投資がかつての日本と同様に非常に大きい点と関係している(図録5165)。

 かつてヨーロッパの中の最貧国として知られていたアイルランドは、近年、めざましい経済成長と生産性の上昇をなしとげ、「アイルランドの奇跡」とも呼ばれている(1人当たりGDPの世界ランキングが20位以下の水準から2000年代中頃には4位へ−図録4542参照)。こうした高い経済成長の「原動力となったのは、欧州統合の波に乗り、外国資本による直接投資、特にアメリカ系企業のヨーロッパ向けIT生産拠点としてアイルランドへの投資が活発化したことである。」といわれる(内閣府「世界経済の潮流2007年春」)。その背景となったのは、EUからの経済支援、英語が出来、ヨーロッパでも最も若い人口構成、EU域内からの移民流入、大学等で電子工学や経営等を重視するなど人材育成への人的投資、相対的な低賃金、そして、企業誘致のための格段に低い法人税率(10%〜12.5%)である。

 アイルランドの経済成長を支えたのはもっぱら米国を中心とする外資系企業であり、利益の国外流出も大きく、GNP(国民総生産)はGDP(国内総生産)より15.7%小さく、国内経済格差の発生という問題もあるという(内閣府、前掲)。アイルランドの全要素生産性の高い伸びは、労働の寄与度に反映されない人的能力の上昇、及びこうした企業活動の環境条件の変化が反映しているものと考えられる。

 なお、歴史的条件や相対的に若者が多い点などヨーロッパに対するアイルランドは日本に対する沖縄と類似のところがあり、コールセンターなど沖縄の地域振興策はアイルランドを参考にしている(法人税制を日本の中で沖縄だけ特例にする企画はなかなか実現が難しいようだが)。

 分析対象は20か国、具体的には、図の順に、ドイツ、イタリア、スイス、フランス、日本、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ベルギー、ニュージーランド、カナダ、オーストリア、ポルトガル、米国、英国、オランダ、スペイン、オーストラリア、アイルランド、韓国である。

(2008年4月25日収録、2012年1月4日更新)


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